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第十六話 魔蔓延る大森林 森の中の邂逅

 前線砦を出て2日目の朝。

 

 静焔たちは目的の地である大森林、その入り口に立っていた。

 

 「さて、ここから森に入るわけだが……」

 

 静焔は霆華と馬順を交互に見つめ、諭すように続ける。

 

 「ここは魔軍の根城がある森だ。しかし、どれくらい奥にあるのかは分からない。奥へ向かった偵察は皆戻ってきていないからだ」

 

 ゴクリ、と緊張で生唾をのむ霆華とは対照的に、馬順は飄々と周囲を見渡している。

 

 「んなことよりよぉ。魔軍を見つけたら教えてくれよ。俺はそいつの影に入って故郷に帰るぜぇ」

 

 「あぁ。だがもしも戦闘が発生した場合は、すまないが気にかけてやることは難しいかもしれない。覚えていてくれ」

 

 わかったよぉ、と言いながら馬順は後ろ手に手を組みながら森の中へズンズンと入っていく。

 

 「お、おい!馬順!……はぁ、まあいいか、行くぞ霆華」

 

 「は、はいっ!」

 

 馬順を追いかけるように、静焔と霆華は巨大な木々が陽光を遮る、暗く、巨大な檻のような森へ踏み込んでいった。


 「おぉい。まだ着かねぇのかよぉ」

 

 先を歩いていたはずの馬順が、いつの間にか霆華の隣を文句タラタラで歩いている。

 

 森に入って一刻は経っているが、時間の割に一行の進行距離はさほど稼げてはいなかった。

 

 「まぁ、そう急くな馬順。どこにやつらの根城があるか分からない以上、手掛かりを探しながら進むしかない」

 

 静焔はいたって冷静に馬順を宥めると、注意深く葉をかき分け、大木の幹を確認しながら前進していく。

 

 「はぁ。こんな浅ぇところで何もそこまで――」

 

 馬順の言を静焔は手で遮り、霆華は右手側斜め前を睨む。

 

 「どうやら、来たようだぞ」

 

 静焔は鯉口に手をかけ、霆華は「対魔軍装甲破壊兵器 “川蝉”」を番える。

 

 馬順は構えこそとらないものの、二人と同じ方向に注意を向けた。

 

 遠くの木々がガサガサと激しく揺れ始め、徐々にその揺れは近づいてくる。

 

 その木々の影から、5体の魔軍が姿を現した。

 

 「さぁ、来たぞ!霆華、準備はいい――」

 

 静焔が言うが早いか、その後方から鋭く放たれた一射は、音を置き去り魔軍3体の装甲を立て続けに貫いた。

 

 ヴァオンッと、鈍い破裂音が森へと吸い込まれていく。

 

 「大頭。あと2体になりました」

 

 背後から冷静に染め上がった声が届く。

 

 ひきつる顔を霆華に見せないよう、振り向かぬまま静焔は魔軍の一体に肉薄し、逆袈裟に切り伏せる。

 

 もう一体に目を向けると、すでに馬順が振り下ろしの一撃で魔軍を地面に生けた後だった。

 

 「どうして、こんな浅いところに魔軍が……」

 

 川蝉を回収しがてら、先の道の偵察から戻った霆華が投げかける。

 

 手掛かりを探るべく、装甲を調べる静焔だったが、特に目ぼしい手掛かりは見つからなかった。

 

 霆華の疑問への答えと合わせて首を横に振る。

 

 「そういえば、馬順。この魔軍、倒してしまってよかったのか」

 

 「あぁ?こんなところで入っても、こいつらがどこに行くか分からねぇじゃねぇか」

 

 入るなら確実に目的地に向かうと分かってから、ということかと静焔は納得する。

 

 「それよりよぉ――」

 

 馬順が鬱蒼とした茂みを指さす。

 

 「あいつ。早く何とかしてやった方がいいんじゃねぇか」

 

 静焔と霆華が同時に馬順の示す先に目を遣るが、その目に何も認めることはできない。

 

 「なんだ、おめぇら聞こえねぇのかよ。すんだろ?“虫の息”ってやつが」

 

 馬順の言葉でこの場はピンと張り詰める。

 

 霆華はゆっくりと茂みに移動し、葉の間から向こう側を覗きこむ。

 

 限られた視界から得られる情報は少ない。

 

 目の前に大木がそびえている。

 

 その周りは背の低い草が生えているが、少し開けている場所のようだ。

 

 霆華はじっと目を凝らす。

 

 大木の横、わずかに何かが動いているのが分かる。

 

 上下に、不規則で荒々しく動くそれは、わずかにそよぐ風の影響を受けていない。 


 ――霆華は実に容易く、それが人の袖口だと断じた。

 

 霆華は茂みから大木へと駆け寄る。

 

 裏を覗き込むと、刀を下げた浪人が一人、脇腹の出血を押さえながら肩で呼吸し腰を下ろしていた。

 

 「大頭ぁ!人が倒れてます!」

 

 霆華はその場で大声を出し静焔を読んだ後、素早く周囲を確認する。

 

 これが罠であれ何であれ、近くに魔軍が居れば今の大声で飛んでくる、と彼は踏んでいた。

 

 風にそよぐ葉擦れの音すらも聞き分けるほどに集中を上げるが特に動きはない。

 

 そうしているうちに、静焔たちが向かってきた。

 

 「これは……。とにかく応急処置だ」

 

 静焔はそう言うと浪人の召し物を裂き、出血している脇腹を見る。

 

 「よし。どうやら魔軍の攻撃が掠っただけのようだ。命に係わるものではない。さっそく血止めと包帯をしよう」

 

 静焔はそう言うと、浪人をもたれかかる大木からわずかに離し、胸当てを外し、上着を脱がそうと試みる。

 

 サラッと、浪人の懐から何かが滑り落ちた。

 

 「……これは……」

 

 その何かを見つめ、静焔は動きを止める。

 

 「大頭、これって、もしかして……」

 

 静焔と霆華は地面に落ちた布切れを見て、同時にある人物を想起する。

 

 「この浪人、一体何者だ……」

 

 静焔は布切れを素早く拾い上げると、それを持っていた男を交互に見遣る。

 

 「どうして、この者が――雪焔の着物の切れ端を持っているんだ……」

 

 「大頭!まずは応急処置を先にしちまいましょう。話を聞くのはこいつが落ち着いてからでいいですよね!」

 

 霆華の言葉が、静焔を目の前の困難に向き合わせた。

 

 ハッと我に返った静焔は手際よく浪人に包帯を巻くと横に寝かせ、彼が目を覚ますのを待つこととした。


 (この男は、一体何者だ……。なぜ、雪焔の物を持っている。近くにいるのか、雪焔――)

 

 浪人の回復を待つ静焔の胸に、様々な思いが交錯し、浮かんでは消えていく。

 

 静焔は時が経つのも忘れて、手にした布切れを眺めていた。


 「なぁ。もう半刻立つ頃だぜぇ。いつまでこぉしてんだよ」

 

 馬順が痺れを切らしたように不平を述べる。

 

 霆華はそれに続く言を制しながら、静焔の横顔を覗く。

 

 いつになく険しく、そして焦りが見え隠れするその顔に、霆華は静焔の感情を感じ取る。

 

 「馬順。こいつは、俺たちが追っている雪焔の、現状、唯一の手がかりだ。大頭はこいつが目を覚ますまでここを動かない」

 

 馬順は抗議の視線を静焔に向けるが、その後姿からでも伝わる圧力にを認め、観念したようにそっぽを向く。

 

 「まぁ、お前ぇらが居ねぇとめんどくせぇから、もう少しだけ待っててやるよ……」

 

 それから、さらに一刻。

 

 再び痺れを切らした馬順が暴れるのを霆華が必死に止めている最中。

 

 遂に浪人が目を覚ました。

 

 「……ここは、どこ……だ……。まぐ……ん……は……」

 

 横たわったまま、首を回して状況を確認する浪人を見て、霆華は安堵のため息を小さく吐き――


 静焔はその喉元へ刀を押し当てた。


 「名もない浪人。正直に、素早く答えろ。――この布切れはどうやって手に入れた」

 

 鋭く、低い口調で静焔は問い詰める。

 

 押し当てられた刀は確実に人を絶命たらしめる角度で入っている。

 

 あとは、切っ先を少し手前に引くだけで、大量の血を吹き出しながら浪人は死ぬ。

 

 極限の緊張が張り詰める中、浪人は意外にも冷静に、泰然とした態度で静焔を見据え、はっきりと答える。

 

 「あの布切れは、もらったのだ。青い髪の少女とまだ幼い武人の女に。私のケガの足しにと――」

 

 「それはいつのことだ」

 

 実力を認められたものだけが戦場に立つ。

 

 幼いと表現される武人は、十中八九、霆華か雪焔を指す。

 

 「よ、四日前のことだ……」

 

 「その後、そやつらはどうしたのだ」

 

 静焔は矢継ぎ早に尋問を続ける。

 

 少なくとも四日前まで雪焔はここにいた。

 

 その事実が静焔をわずかに安堵させたのか、棘が和らぐ。

 

 「それは……わからぬ。二人とも森の奥へ進んでいってしまった」

 

 「そうか……」

 

 静焔はゆっくりと刃先を浪人の喉元から離した。

 

 安堵したように、浪人は大きく息を吐くと、脇腹の痛みで顔をしかめる。

 

 「この包帯……。お主らが私を助けてくれたのか」

 

 ゆっくりと上体を起こし、脇腹をさすりながら浪人は言う。

 

 目が合った霆華が代表して首を縦に振り、肯定する。

 

 「それは、なんとお礼を申し上げれば……。かたじけない」

 

 深々と頭を下げる浪人に、霆華は尋ねる。

 

 「あの、あなたは何者なんですか……?」

 

 あぁ、と、その浪人は一息に告げる。


 「我が名は蒼達。魔軍により領地を追われ、戦場にて散った主君の遺志を継ぎ、魔軍の根城を討ち滅ぼす者なり」

 

 ――魔軍の根城を討ち滅ぼす。

 

 思いがけない言葉にその場にいた全員が息をのむ。

 

 静焔と霆華、馬順までもが声も出せず、鋭い眼光で座る蒼達をひたすらに凝視していた。

 

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