第4話 ハンター試験①
翌日の朝。時刻は七時だ。
今日はハンター試験がある日である。
ハンター試験は一日のほとんどの時間拘束されるので朝から行われるのは当然の道理だ。夕方からやれば解放されるのは深夜になってしまう。
やることが多いからな。魔物は危険な生き物だ。それ相手に戦ってもいいよ、と許可を出すためにはキチンと実力を調べる必要があるのだ。
眠い眼を擦って体を起こす。風呂は入ったが寝巻なぞは持っていないし付いてなかったので服はそのままだ。一応言っておくと「洗浄」の魔術できれいにはしている。
ホテルから試験会場までは徒歩十五分くらい。結構近い場所にある。
ハンター試験会場は私があの手続きをしたすぐ横にある。上の方をみると、あのビルとは三階でつながっているらしい。この順路は受験票にないから関係者以外利用できない通路なのだろう。
大きめの最先端な感じの体育館、といった見た目だ。
中に入ると、左手に受付、右側に椅子やらが並んでいる部屋に出た。
あからさまにハンター、って感じの見た目の奴が多い。私と一緒に受験する人達だろう。動きやすいラフな服装が多い。男女比はほぼ同じだ。地球では男性に偏っていたが、これもスキルの恩恵だろうか。
ハンター資格を得るとこれがコスプレになっていくんだよな。知名度を得るにはそれが手っ取り早いからしょうがないのかもしれないが。私はやったことないぞ?
今は受付は一つも空いていないので、椅子に座って待つ。
先に座っている人から見るに、受付に行けるのはもう少し先っぽいな。
しばらく待ち、やっと私の番になった。
「こんにちは。受験票をお出しください」
すこしぶっきらぼうな印象を受ける女性の受付に受験票を差し出す。
「はい、確認します。……宮間竹さん、ですね?」
「はい」
「身分を証明できるものは……役所からもらった仮の身分証はお持ちですか?」
「はい。どうぞ」
「確認できました。これを腕に巻いてください」
と、なにやらバンドのようなものを受け取った。よく見ると受験番号が書かれている札がついている。
「それは受験者を判別するためのバンドです。無くしますと試験が受けられなくなるので、決して無くさないようにしてください。では試験頑張ってください。次の方ー!」
あっさり終わった。受験票に異世界人ということも書かれていたはずだしスキルもなかったと思うのだが……事前に話がいっていたのだろうか。
どちらにせよさして関係ないことではあるけれど。
バンドは金属製の打ち付けたら自然に巻かれるアレに似ている。
それよりもちろん頑丈なのだが。
表には私の受験番号が書かれている。H00112が私の受験番号だ。覚えられなさそう。そもそも覚えるものでもないか……。
まずは筆記試験。
といっても特筆すべきことはなかったので割愛させていただく。
うん。もともと持っている知識で問題なく解けるものだった。
強いて言えば、勝った筆記用具が安物で書くときに紙に引っかかるのが気になったくらいだ。
次に、実技試験。正直、こっちが本命だ。筆記は勉強さえすれば誰でも取れる。
だが実技はごまかしがきかない。
なぜなら……
「こんにちは。私が今回の実技試験の試験官を務めさせていただきます、栗栖フウラです。私のスキルは『観測』、目に見えるものを観測するスキルにございます。質問などあれば、私にお申し付けください」
栗栖さんは短髪のはきはきした雰囲気の女性の試験官だ。
補佐の人が何人か待機しているが、実際に声をだすのは栗栖さんだけらしい。
実技試験の試験官は地球でも目のいい人や、鑑定などに類する魔術を取得している人が必ず試験官を務めていた。それはこちらでも同じだったようだ。
「観測」の効果は、おそらく名前の通りだろう。魔力の流れやらなにやらを観測できるスキルらしい。
つまり、ごまかしがきかない。実力で勝負するしかないのだ。
周囲の私以外の受験生を見てみる。
人数は私含め13人。皆一様に緊張した面持ちだが、二、三人は余裕そうな表情をしている。自分の実力によほど自信があるのかもしれない。
「まずは体力測定を行います。今から私と補佐が誘導しますのでついてきてください」
ふむ、まずは体力測定と。
身体能力はハンターをやるうえで重要だからな。いくら魔術の腕があっても、とろかったりすれば一人になるイコール死だ。
試験官らについていくと、天井が開いている開放的なグラウンドに到着した。
すでに50m走用らしきラインやらボールやらが用意されている。
「測定はローテーション形式で行います。測定する種目は50m走、持久走、長座体前屈、上体起こし、反復横跳び、握力の六つです。一つの種目につき2人、あるいは3人割り振りします。また、この体力測定では魔術の使用は禁止です。では──」
50m走は1、2番。持久走は3、4番。といった風に割り振られていく。
私は11、13番と共に握力に割り振られた。
13番がさっきからずっと自撮りしてるのがすごく気になるが、ルール違反ではないし指摘できないな……。
握力はそのまま握力だ。小グループ内でも基本測定は番号順らしい。
11番の測定が終わり、私の番となった。
握力計はデジタル式らしい。補佐からどうぞ、と言われたので力を込め握る。
すると握力計がエラーを吐いた。
……何が起きた?
あ、わかったぞ。この握力計上限が100㎏なんだ。私は素でも握力が100㎏は超えるからな。そりゃあダメだ。
「あれ……? すみません、もう一度お願いします」
補佐さんがリセットして渡してきたのでもう一回やる。
相変わらずエラーを吐いた。
補佐さんは首をかしげている。
おかしいですね、魔術の反応はありませんが……的なことをつぶやいている。
「あの、上限が大きいものを持ってきてもらえませんか?」
「上限でございますか? ……よくわかりませんが、持ってまいります」
早速グダグダになってしまって申し訳ない。
「お待たせしました。こちら500㎏のものです」
500㎏か。まあ大丈夫だろう。
今度はしっかり結果が出た。
「魔術の反応は……ありませんね。右311㎏です」
「え、311㎏? 本当にちゃんとした記録ですか、それ?」
さっきまでずっとスマホをいじっていた13番が口を出してくる。
「人間が素でそんな力出せるわけがないでしょう?」
「12番は少々特殊な事情がある方なので……この記録は正規と思われます」
「あなたじゃなくて12番に聞いてるんです。不正はしてないのですか? その特殊な事情というのは?」
「不正はしていません。こんな記録が出ているのは私の魔力量が多いからですね」
「魔力量が多いからってなぜ握力が高いということになるんですか? エルバーンでもあるまいに……」
なんだか知らない単語が出てきたな。なんだ、エルバーンって。人名か?
「……すいません。エルバーンというのは?」
「過去にいた神殺しですね。非常に魔力量が多く、身体能力も高かったと言われています」
まさかの神殺し。
しかし、なるほど。
本当にこちらでは魔力量と身体能力の関係が知られていないんだな。
ただ……どう説明したものかな。まず異世界人ということを説明して、魔力量と身体能力の関係を説明して……いうことが多い。絶対に今はなすようなことではない。
「……まあ、協会がいいならいいです。すみません止めてしまって」
どうしようかと少し考えていると、13番がこのように発言した。
ああよかった。後からまた説明を求められるかもしれないが、その時は時間があるだろうしかまわない。
そんなこんなで少しハプニングがあったもののその後の身体測定も滞りなく行われ、無事に終了した。どの項目でも13番が私がやるたびに文句を言いたそうにしていたのが印象に残っている。
本当にちゃんと説明できてなくてすまない……。




