第1話 異世界転移
「──今された話をまとめると、私は地球にバカンス中の神の一柱によって轢死したんですね?」
「そう。」
「で、そのお詫びとして記憶を保持したまま私を異世界に転移させると」
「そう。」
「その異世界にはスキルという特殊な力があるが、私には与えられないから、その代わりに破壊不能の私の得物を与えてくれると」
「そう。よくわかってんじゃん。」
「なんというか、本能が理解を拒もうとしても拒めないといいますか、理解せざるを得ないといいますか……」
周りにある者は無。何も、何もない。私と目の前の「神」が座っている椅子と、ダイニングテーブル以外は。
私は今、ダイニングテーブルをはさむ形で設置されている机の片方に座っている。
私の対面に座っているのは、文字通り神だ。
人を超越した存在である。
全体的に白く、髪は地に着くほど長い。額になんかしらの紋章が刻まれており、その目は伏せられ、中の眼球は見えない。
なぜ私がこのような場所にいるか、それは先ほど私が述べた通りだ。どうやら地球というのはバカンス地として神に人気らしい。
地球のいったい何がいいのだろうか。
「地球はね、この時空に存在する世界の中で結構治安いいからね。神基準で。」
「神基準ですか」
「うん。神基準。」
しれっと思考を読まれた気がする……。
「だからこそ、ラオノ神も油断しちゃったんだろうね。まさか現地人を轢いてしまうとは…。」
「ラオノ神って名前なんですか」
「そうだよ、地位は真ん中くらいの神。私と同じくらいかな?だから君を殺せたんだろうけど。低位の神じゃ一回ぶつかっただけじゃ瀕死にさせるのがせいぜいな気がするし。」
「確かにそうですね。まさかこの私が一回車に轢かれた程度で死ぬとは考えにくいですし」
地球では私はかなり上位の実力者だった記憶がある。
車に轢かれた程度ではかすり傷をつけられるか怪しいくらいのものだ。
それが一度ぶつかっただけで死ぬとはおかしいと思ったんだ。
「君ドラゴンとサシでやって勝ったんだっけ?」
「はい。右腕と右脚が逝かれましたが」
あのドラゴンは強敵だった。アイツのせいで右腕右脚が数か月使えなかったのはなかなかつらかったな……。私ほどになれば時間さえかければ再生こそするが。筋力も落ちてしまうし。
「たしかラオノ神の車へこんだらしいよ。神の加護がついてたのに。」
「逆にへこむだけで済んだんですね」
「そうだね。普通の車ならひしゃげて原型もなくなるだろうし。」
何回かハント中に車やらヘリやらなにやらに突っ込まれたが、ほぼすべてめきゃめきゃに壊れていた気がする。
「で、えーと…君、名前なんだっけ?」
「宮間竹です」
「宮間くん。早速今から転移手続きを行うから。とはいっても、処理は機械が勝手にしてくれるから私は何もすることないんだけどね。だからその間に今から行く世界について説明しようかと。」
「なるほど。よろしくお願いします」
「はいはい。」
神はそういうと、テレビのようなものを出現させた。
そういえば、この人の名前はなんなのだろう。
「私の名前はレビィ神だよ。よろしくね。」
また思考読まれた……。
にしてもレビィ神か。たしか近所に信仰してた教団がいた気がする。
「今から君が向かう世界では全く知られてないけどね。君の世界でも、ラオノ神という神は全く知られてなかったよね?それだよ。」
「なるほど」
「さて。今から君が向かう世界には、君がいた地球同様「魔力」があって、「魔術」がある。異なる点は「スキル」の有無だね。それ以外は文化レベルもほとんど同じ。」
レビィ神はテレビに画像を表示させながら説明をする。
「スキルっていうのは、個々人が持っている特殊な力。要は学ばなくても魔術が使えるようなものだよ。」
「え、ズル……」
「ズルいよね。先天的に魔術が使える者が多いから、魔術も発展している。でも、その代わりというか、スキルがかなり評価に響くね。」
「ああ、そのあたりは地球よりも厳しいんですね」
「そうだね。スキル至上社会だ。」
私の世界では魔術は義務教育で習うからな。とはいっても、多少温度を上げるとかその程度の攻撃性が低いものばかりだけど。
戦えるレベルのものは専門の学校に行くか独学でやるしかない。私は確か独学だったかな。
「そんな世界で、スキルを所持せずに放り込まれるとどうなると思う?」
「……差別される?」
「正解。異世界人という事情があるから人としては扱われるだろうが、かなりひどいと思われるね。ただ、君は地球に生まれた魂だから、スキルを付与することができない。付与したいなら記憶をなくしまっさらな状態にする必要がある。転生も同様だね、一度まっさらな状態にしなければならない。」
「じゃあ私やばくないですか?」
「なので、スキルの代わりに君の得物…魔導式猟銃を与えるよ。なんと破壊不可。すばらしい性能だよ。魔力回路も君が使っていたものに限りなく近づけている。」
そういうと、レビィ神は私が生前よく使っていた銃を取り出した。机をまたぎ、私に手渡してくる。
私はハンターの割にはしょっちゅう銃をぶっ壊していたのでいつのモデルかはぱっと見で判別がつかなかったが、すこしいじってみたところ、一番最後につかっていたものだとわかった。弾生成補助と発射の機構だけがついているシンプルなモデルだ。
「いいだろう?それは念じれば亜空間にしまうことが出来るし、手元に喚ぶこともできる。試しにやってみなよ。」
いわれた通り、しまうイメージをしてみると、銃はその場から消える。しかしなくなったという感覚はなく、願えばまた出てくるような気がしたし、実際そうなった。
「次は召喚だね。銃かして。」
大丈夫、いじったりしないからとレビィ神はこちらに手を差し伸べてくる。
まさか神が車で轢けば死ぬような人間ごときにこんな回りくどい方法で危害を加えてくるとは考えにくいので素直に手渡す。
「そいっ。」
すると銃を思いっきりぶん投げられた。
いやわかるが。やりたいことはわかるが、いくら何でも乱暴すぎやしないか?
思わず立ち上がってしまったじゃないか。
手元に喚びだすイメージをすると、地平線のかなたに消えていった銃は手元に戻ってきた。軽いノリで投げた銃が地平線の先に行くとはどんな筋力してるんだ……。
「試し打ちとかする?最低限のことは説明したけど、転移まではまだ時間かかりそうだから。」
「おお、したいです」
「はい、あそこの的に打ちな。」
レビィ神が指をさした方向には、いつのまにやら的が出現していた。
30m先に的が一つ置かれている。
私の銃は猟銃と形が似ている。
しかし、私のものは魔導銃。弾は術者の魔力でその場で作るので、弾倉のような構造はあるが、実際は意味はない。
先ほども述べた通り、私が使う銃に施されている術式は「弾生成補助」と「発射」だけだ。おそらく二番目かそのくらいに簡単である。
右目は諸事情あり使いたくないので、左目で覗くように構える。スコープの類はついていない。
魔力をこめ、発射する。いつも通り、的に弾は命中した。
「あれ、散弾じゃないんだね。」
「あー、散弾はちょっと作るの面倒くさいので」
「なるほどねぇ。」
このモデルは基本的にどんな形の弾でも撃てるので私としては非常にうれしい。いちいち銃を持ち替える必要がないからだ。
やはり、一丁でできるなら一丁がいい。
「これで大体銃の性能は把握できたかな?」
「はい。ありがとうございます」
「よろしい。あ、そうそうスマホも付けとくからね。仕事には必要なんでしょ?ネットにはつながるようにしておくから。」
至れり尽くせりじゃないか。
スマホがあればたいてい何とかなるからな、偏見だけど。
「そうだ、なにか質問ある?」
質問か。スキルっていうのが魔術みたいなもの、っていう説明を受けたが、例えばどんなものがあるのかは気になるな。ほかにも、どこに転移するのかとか、服装や体の状態はどうなるのかなども気になる。
あとは、そうだな……危険度というか、そういうのは地球と大差ないのだろうか。
「なるほどなるほど。スキルの一例としては、パイロキネシスとか、念力とか、植物を操るとか、かな?けっこういろんな種類があるよ。」
思考を読まれるの心臓に悪すぎる……。
「聞こえちゃうからねぇ。こっちも聞こうと思って聞いてるわけじゃないんだよ。」
……と、いうことは私しゃべらなくてもいいのでは?
「それでも伝わるけどしゃべってくれた方がうれしいかなぁ…。」
「わかりました」
チッ。楽しようと思ったのに。
「で、転移後の状態だけど、基本的に今の状態と同じだよ。健康で服装も同じ、もちろん銃も一緒だよ。その右目の眼帯もそのままあっちに行く。」
「場所はどこになりますか?」
「そうだねぇ…人里の近く、ってことしかわからないな。具体的な場所までは転移してからじゃないと。生活には困らないと思うよ。確か君の近所にも過去に来てなかったっけ?」
「あ、そういえばそうですね」
一回私の所属する協会支部に異世界人がきたことがある。
魔術は使えなかったけど、異常にフィジカルが強かった。私の銃で怪我こそしたが負傷まで行かなかったのは驚いた。
「危険度だけど…君からすれば大して変わらないんじゃない?魔物の強さも大体同じだし。ただ、現地人が地球よりも強いね。地球じゃ過去に神殺しが出たのは一回だけだけど、今から行く世界は三回出たから。…神殺しの回数を基準になんてしたくないけどさぁ…。」
レビィ神はすごく微妙な表情をしている。
神殺しはその名の通り神を殺すことだ。どうやら神は復活するらしいので正確に言えば殺していない(殺せない)が、それでも活動を停止させることができる。
神を殺すのはもちろんの事難易度がえらく高い。普通に丈夫だし、攻撃力も高いからだ。
なので三回も過去に出ているのはかなりの数だ。とんでもないな……。
「あ、転移処理終わったよ。どうする?もう行く?」
レビィ神はいきなりそんなことを言い始める。なぜ終わったとか何も見てないのにわかるのだろう。なにか脳内でつながってるのだろうか。
で、行くかどうかだが、行くに決まっている。別にここにとどまってもレビィ神とお話できるだけだし、私は別にこの神の信徒ではない。
「はい、お願いします」
「は~い。じゃ、向こうでも元気でね。」
レビィ神が微笑んでそういうと、視界が白く染まっていく。
そのすべてが白に染まったとき、私の意識は消えた。