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どんな理不尽で無茶な願いでも叶えてくれる少女

作者: プロパー屋

「止まりな、そこの可愛いお嬢さん!!」


 野太いかすれた低い声で呼び止められた少女は、歩みを止め顔を上げると、目の前には少女より遥かに大柄な男が、彼女の行く手を(さえぎ)っていました。


「ここから先へは、行かせないぜ・・・お嬢ちゃん!!」

「ひひゃひゃひゃ、悪いがお嬢ちゃんのハッピーな人生はここでお(しま)いさぁ!!」


 茂みから粗暴(そぼう)そうなガラの悪い男達がぞろぞろと少女の前に()い出てきました。

 おそらく彼らは、ここいらを縄張りに悪さをしている山賊達です。

 そう、ここは小さな町と町を(つな)ぐ細い山道の一つ。人通りはあるが滅多(めった)に人に出会うことはない薄暗く寂しい道でした。大人でも一人で歩くには相当な覚悟が必要で、これがこの土地の常識です。

 女が護衛も連れずに歩くとすれば、追放された罪人や感染症の病人、又は自殺希望者ぐらいでした。

 この様に普通の少女が、独り歩きをしていい道ではなかったのです。


「あらあら、随分(ずいぶん)出てこられましたね」

「数は1,2・・・全部で9人ですか」


 少女は正確に山賊らしき男達の数を数えました。


「アンタの持っている金品は俺らが全部頂くぜ!!」


 少女の前に立っている大柄な男の背後から、ひょっこり顔を出した細身の男が、これから彼女の身に降りかかるであろう良からぬ運命を告げました。


「お嬢ちゃん自身の躰も飽きるまで楽しませてもらっちゃうよぅ!!」


 更に背後から、ぼってりした背の低い男が、少女に更なる非道な運命が待ち受けていることを告げると、その横にいる小柄で年老いた男も少女の行き着く運命を告げました。


「その後は奴隷(どれい)商人に売っぱらって」

「馬車馬のように働かされてボロボロになってくたばってお終いさ!!」


「かわいそうだがこれも運命だと思って、(あきら)めてくんな!!」


 話の()めは、少女の前に立っている大柄な男の言葉でした。

 少女は困った顔をして次の言葉を口にしました。


「それはちょっと・・・いやですねぇ」


「あっそうだ、こちらを・・・」


 そう言いながら、少女がカバンから一抱えはある黒い布に包まれた重そうな物を取り出すと、布を広げ山賊の男たちにその中身を見せました。

 少女が見せた包みの中身は、深淵(しんえん)の様に光を一切放たない真っ黒な玉でした。


「私の代わりにこれをお好きになさって(よろ)しいので・・・」

「私のことは見逃してくれませんか?」


 少女はニッコリ微笑(ほほえ)んで交渉しましたが、間髪(かんぱつ)入れずに細身の男は言いました。


「くれませんね!!」


 なめてんのかと言わんばかりの苦笑(にがわら)いです。


「ひゃはは~お嬢ちゃんの持っているものは全部頂くって言ったろうが!!」

「だから、それももう俺らのモンなんだよ!!」


 ったく状況をまったく理解していない大ボケ少女に山賊たちは声を荒げて断言しました。


「ま、待ってください!!」

「これは持っているだけでは何の役にも立ちません!!」

「ですので、これの使い方を教えますから!!」


 全く、これの良さが理解できないなんて、とんだ大馬鹿野郎どもですね。っと、少女は心の中で叫びました。


「使い方?」


 山賊達は、何のことだと少女に詰め寄ります。


「そうこれは、どんな願い事も(かな)えてくれる魔界の石なんですよ!!」


 少女は、苦笑いで目の前に迫ってきている山賊達のひげ(づら)を白い小さな手で受け止めました。


「どんな願いも叶える石だとぉ?」


 山賊達は、お互いの顔を見合わせると、見るからに彼らの目の色が変わりました。

 ここで少女は、山賊達を言葉(たく)みに(たたみ)かけます。


「はい、全ての人のどんな無茶で理不尽(りふじん)な願い事でも叶えてくれる代物です!!」


「どんな無茶な願いでもいいのか?」


 大柄な男が念を押すと少女はすかさず言いました。


「はい、叶えてくれます!!」

「しかも回数に制限も有りません!!」


 少女は断言しました。


「何回でも願いを聞いてくれるのか?」


 更に大柄な男が質問をぶつけてくると少女が最後の一押しを口にしました。


「はい、アナタ方が望む思いつく限りのどんな無茶な願いであろうと」

「叶えてくれる夢のような魔界の石なんですよ!!」


 これでどうよ!? 少女は心の中で勝利に近づきつつあることを確信しました。


「そいつは、いささか調子が良すぎないか?」


 あれ~っそこ気になりますか~?

 こいつら山賊のくせに用心深いなぁ~と、少女は思いました。


 「俺ら欲深な山賊でも、うさん臭さがプンプン匂ってくる代物だぜ!!」


 山賊達は、まだ少女がその場しのぎの嘘をついてると思っていました。


「では、試しに誰か使ってみるのはいかがでしょう?」

「すぐに真実だとわかっていただける事でしょう!!」


 少女は、近くにあった腰ぐらいの高さの岩の上に、包みに使っていた布を()き、その上にそっと魔界の石を置きました。


「さあ準備は出来ました!!」

「これでいつでも始められます」


 少女は、右腕で大きく弧を描き挨拶(あいさつ)をするジェスチャーでお辞儀をして山賊達に合図を送りました。


「よし、ジャッカル、先ずおまえが試せ!!」

「もし、嘘だったらお嬢ちゃんの運命は、俺らの(なぐさ)み者になった後に奴隷落ち確定だ!!」


そんなことにはなりませんよっと、自信満々な少女。


「試していただければ真実だと分かって頂けます」

「私は嘘は言いません!!」


 ならば試してやろうじゃないかと、子供の様に目を輝かせるジャッカルという男が前に歩み出ました。


「よし、お嬢ちゃんよ、さあこの魔界の石とやらの使い方を教えろ!!」


 (えさ)を目の前に置かれ、待てを言いつけられよだれを垂らし我慢(がまん)している犬の様な、ジャッカルという男は落ち着かない様子でソワソワしていました。


「はい、喜んで!!」


 少女は笑顔で答えました。


「使い方は、至極(しごく)かんたんです」

「この魔界の石に右手を当てて、こう(とな)えるのです・・・」

「魔界の石よ我の願いを叶えよ!!・・・と」


 少女は魔界の石に手を当ててるつもりになって手本を披露(ひろう)しました。


「そ、それだけでいいのか?」


「はい!!」


生贄(いけにえ)とか要らないのか?」


「はい!!」


「金とか、代償は何も要求しないのか?」


「はい!!」

「着の身、着のままで結構です」


「それだけで、望んだ方のどんな無茶な願いでも叶えてくれるのです!!」


「マジかよ!!」


 リスク無しの内容にジャッカルという男は、拍子抜(ひょうしぬ)けな気持ちになりました。


「よし、じゃあやってみるぜ!!」

「・・・魔界の石よ我の願いを叶えよ!!」


 ジャッカルという男は、魔界の石に右手を当ててそう唱えました。


 すると・・・


 深淵の黒い石が(まばゆ)い光を放ち、薄暗い森の木々を辺り一面白く包み込みました。

 直ぐに光は弱まり辺りを元に戻したそこに、さっきまでいたはずのジャッカルという男の姿は消え去っていました。


「ジャッカルの野郎どこにもいねえぞ!!」

「き、消えちまったじゃねーか!!」

「おい、てめー、これはどうゆう事だぁ!?」


 山賊達が狼狽(ろうばい)してオロオロしているところを()の当たりにした少女が声を掛けました。


「皆様ご安心を、彼は消えてなどございません!!」

「ここではない彼の望みが叶う別の場所へ移動したのです」


 しかし、その言葉をそのまま信じる山賊達ではありません。


「ほぅ、それをどう証明するんだぁ!?」


「それではこちらをご覧ください」


 と、少女は魔界の石の横に立ち、視線をそちらに向けました。


「この魔界の石を(のぞ)き込んで見て下さい」

「この石は望みが叶った方の現状を、そして未来も垣間見(かいまみ)る事が出来るのです!!」


 そこに映し出された情景は・・・


「ワハハ、酒だ、酒をじゃんじゃん持ってこい!!」

「今日は俺様のおごりだぁ!!」

「酒も女もじゃんじゃん持ってこ~い!!」


「さっすがですボス!!」


「お前ら、好きな女を抱きやがれ、俺様が許す!!」


「うおおおぉぉっっ!!」

「マジ最高ですボス!!」


「ジャッカルぅ~!!」

「ジャッカルぅ~!!」


「おおおぅ、マジだ!!」

「マジ、ジャッカルの奴、願いが叶ってやがるぅ!!」


「場所は?」

「場所は、どこだ?」


「ここは、この先の町のシャババっていう飲み屋だ!!」


「野郎、浮かれてやがるぜ!!」


「奴の願望って、手下従えて女はべらせ酒飲む事かよ、相変わらず小せえ野郎だぜ!!」


「よ~し、次は誰がやる?」


「次は、俺だ!!」


「バカ、俺が先だ!!」


「ああ慌てずとも、皆さん全員の願いを叶えますから」

「順番に、順番にお願いします~!!」


 それから小一時間が経ち山賊たちが居なくなると、(あた)りは静けさを取り戻していました。


「ふう、一段落しましたね」

「皆さん楽しそうで何よりです」


 魔界の石を覗き込みながら嬉しそうに少女は(つぶや)きました。


「あの~う」


 茂みの方からか男の細い声がするので振り向いた少女は、声のする方へ答えました。


「はい、何でしょう?」


 少ししてゴソゴソと茂みの中から姿を現したのは、少女より少しだけ背は高いが先ほどの山賊達と比べると遥かに小さい中年の男でした。

 この男は行商人で、少女より少しだけ後に反対側からここにやって来たのですが、山賊が居たため見つからないように茂みに隠れて様子を伺っていたのでした。

 男は、少女が不可思議(ふかしぎ)な魔法で山賊達を攻撃したのではと恐れていましたが、よくよく観察していると危険はないと()んで、恐る恐る身を(さら)し山賊達が消えた謎を少女に尋ねることにしたのでした。


「先ほどまでアンタの周りにいた山賊どもは何処(どこ)に消えっちまったんだい?」


 少女は、不意に現れた男の問いに丁寧(ていねい)に答えました。


「ああ、それでしたらこの中に・・・」


 そう言って少女は、仕舞(しま)いかけていた布の包みを解き魔界の石を男に見せました。


「彼ら山賊さんたちは、この魔界の石の世界で幸せに暮らしていますよ」


 少女は、そう言うと小柄な男に魔界の石を覗いて見ることを勧めました。


「へ~ぇ、この中で暮らしているんですか・・・」


 男が恐る恐る覗き込むと、確かにそれぞれ別の場所で浮かれ楽しんでいる山賊たちの情景が次々に映し出されていました。


「まあ、正確に言うと皆さんこの魔界の石の中で」

「ただ夢を見続けているだけなんですが・・・」


 願いが叶ったと信じている皆様には、ぬか喜びさせて申し訳ないと思っている、そんな表情を見せた少女が独り言のように呟きました。

 そんな少女を見て男は、感慨深(かんがいぶか)く言葉を()らしました。


「夢ですか・・・」


「はい、夢です」

「その人だけが見ている夢ですから」

「どんな無茶な願いでも叶えるのは造作(ぞうさ)もないことでしょう?」


 少女は男に同意を求めると・・・。


「はあ~確かに・・・」


 男は少女の答えに相槌(あいづち)を打ちましたが、もう少しだけ深く知りたくなり次の問いを彼女に投げかけました。


「それで取り込まれた者達はいったいどうなるんで?」


「そうですね・・・3、4日・・・持っても一週間ってところでしょう」


「その後はどうなるんで?」


 後のことが気になった男は、少女に問いを続けました。


「その後?・・・ああ、死んでしまいますね」


「し・・・死ぬ!!」


「当然でしょう」

「夢を見続けている間、飲まず食わずですから体の方が持たないでしょう」

「しかし、その短い時間の中で一生分(いっしょうぶん)の幸せな時を味わえるのですから」

「本人にとって悪い条件ではないと思いますよ」


「最後にもう一つだけ問うてもいいかな?」


「はい、何でしょう?」


「もし、願い事が不老不死とかだったら、もし永遠の命だったらどう扱われるんか?」


「簡単ですよ」

「例えば、願った人が4日で死ぬとしても、その4日を引き延ばして」

「人生の内容を細く薄くしていけばいいだけです」

「千年も万年も生き続けていたら一年十年の内容なんて、」

「普通の寿命の一分十分の内容みたいなものじゃないですか」

「長く生き続ければ、それだけ一日の充実感が希薄になるだけです」

「何でしたら、貴方もこの中で願いを叶えてみませんか?」

「どんな無茶な願いでも叶いますよ?」


「い、いや・・・俺には町で俺の帰りを待ってくれている優しい妻と可愛い子らがいるんで」

「俺一人幸せになることは出来ないよ」


「そうですか、それは残念です」

「では、これで私は失礼させていただきます」


 少女が軽く挨拶をすると男も彼女に挨拶を交わしました。


「ああ、良い旅を」


少女は、男を残して歩きだしました。


「あ~あ、残念・・・」

「追加でもう1個よけいに魂が手に入ったんだけどなぁ~」


 少女は後ろ髪を引かれたように来た道の方を振り返りましたが、そこには先ほど別れを交わした男の姿はもうありませんでした。


「仕方ないか、私・・・嘘つけないから」

「人間に聞かれたことは全部本当の事をしゃべっちゃうのよねぇ~」

「ほ~んと、悪魔の縛りって難儀(なんぎ)よねぇ」


 そう愚痴(ぐち)をこぼしながら、少女悪魔は道を外れ森深くへと飛び去って行きました。

                   


 昔、少女悪魔は考えました。

 悪魔の契約の内容に記載されている条件について、どんな願いも叶える対価として、その人間の寿命が尽きた時にその者の魂を頂くことが許される事。

 しかし、悪魔に比べて人間の寿命が短いとはいえ半世紀も待ってはいられないと、少女悪魔は考えました。

 もっと手早く魂を収集する方法はないものかと・・・。

 その時、少女悪魔は(ひらめ)きました。時間の相対性こそが最も魂集めに効率的な鍵であるということに!!

 現実世界と夢の世界の時間経過の差を究極に広げればいいのではないのかと?

 現実世界で飲まず食わずで命を落とすタイムリミットは4、5日間、その時間を夢の世界で4、50年に引き延ばせば、つじつまが合うはずと少女悪魔は考えました。

 こうして少女悪魔は、最も魂を集めた悪魔として魔界に名を(とどろ)かせることになりました。


                                            終

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