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編入試験

「さて、と。準備もできたし、そろそろいくか」

セリストリアは身支度を整えると編入試験が行われる冒険者育成学校へと向かう。冒険者育成学校とはその名の通り、冒険者を育成するための機関であり、多くの都市に存在している。ここでは冒険者になるために知識や技術、経験を得ることができ、冒険者の多くはここを卒業している。また、冒険者育成学校では冒険者になるだけではなく、商業などの分野にも精通しているため、商人なども多く輩出している。他にも貴族出身で家を継ぐことができない者も入学しているため、様々な者がこの学校に在籍している。そんな冒険者育成学校は7歳から15歳にかけての9年間在学することが一般的だが、当然例外もある。今年で14歳になるセリストリアもその内の一つだ。そのような場合は編入試験を受ける必要がある。また、編入試験の内容は筆記と実践形式による実技の二種類があり、これは入学試験も同じだが、難易度は年齢によって異なる。これは入学時から在校している生徒と比べた際に、知識や技術、経験といった面での差をできる限り無くすためのものである。そのため、入学試験に比べ、編入試験では合格率にも差があり、編入試験の方が低い。ちなみにセリストリアはカナと出会った頃には入学試験は終わっていたのと、知識や技術的にも入学するには全く足りていなかったため、今年になるまで編入していなかった。そんな彼がなぜ冒険者育成学校の編入試験を受けることになったのか。それは1年前までに遡る。

「セリストリア、冒険者育成学校に通わないか?」

いつもの修行を終え、夕飯を食べているとき、不意にカナがそう言ってきたのだ。というのも、彼女曰く、最近魔物の活動が活発になってきており、それに伴って多くの街や村に影響が出ているそうだ。基本的に冒険者や警備隊などが対処するのだが、中には異質個体イレギュラー災厄個体ディザスターと呼ばれる魔物が出現するようになったためカナに討伐要請が国王から出されたのだ。国王からの要請ということもあって、応じる必要があるのだが、めんどくさい、とカナは愚痴っていた。そういうこともあり、カナとの修行ができなくなったことで、冒険者育成学校が話題に出たのだ。セリストリアも当然名前は知っていたが、通うことに意味があるのかと聞いたところ、流石に実践経験もないまま討伐に同行させることはできないこと、冒険者育成学校に通えば、実践経験やさまざまな知識の習得だけではなく、同年代と互いに切磋琢磨することができる、ということもあり、編入することになったのだ。ちなみになぜ1年待つことになったのかと言うと、カナに要請が出たのがすでに編入試験が終わった時期に出たからだ。そんなこともあり、セリストリアは冒険者育成学校に通うために編入試験を受けることにしたのだ。

「ここが冒険者育成学校かぁ。大きいな」

冒険者育成学校の前でセリストリアは校舎を見上げながらそう言った。その後、編入試験を受けるための手続きを行うために中へと入り、受付へと行く。名前を記入し終えると、受付の人が

「編入試験ですが、どの分野の試験を受けるのでしょうか」

と、聞いてきた。

「どの分野?それはどういうことですか?」

「セリストリアさんは今年で14歳ですよね?ここには1年の在籍となりますが、言い換えれば1年後には卒業することになります。そして今あなたと同じ年代の人はそれぞれ進みたい進路のために分野ごとに分かれています。そのため、その分野に応じた試験を受ける必要があります」

と、丁寧に説明してくれた。もちろん、セリストリアは

「なら、冒険者分野の試験を受けさせてください」

迷わず、冒険者分野の試験を受けることにした。商業など、他の分野に全く興味がなく、同年代の人がどれくらいの実力を持っているのか興味があったからだ。

「わかりました。では冒険者分野の試験の概要を説明します。試験は実技試験となります。武器・魔法の使用は可能で10分間試験官との実戦となります。合否は試験官が試験終了時に言うので、その場で待機しておいてください。他に質問はありますか?

さらっとした説明だったが、要点だけを言ってくれた。質問に関しては何もないため、ないことを伝える。

「では、頑張ってください」


「今から編入試験を始める!準備はいいな?」

試験会場へと案内されたセリストリアはいきなりそう言われた。目の前に立つ男は20代半ばくらいの若い男だ。逆立った短い赤髪で手には大剣握られている。早く戦いたい、とでも言いたげに嬉々として立っていた。そんな試験官に対して

「一応できています」

と、答えるしかなかった。

「よし、なら始めるか。説明を聞いていると思うが、10分間俺と実戦だ。途中で…へばったりすんじゃねぇぞ?」

試験官の男は獰猛に笑うと、セリストリアに距離を詰め、手に持っていた、大剣を振り下ろしてきた。

「ちょっ⁉︎」

間一髪で避けたが、男の猛攻は続く。右から左への薙ぎ払いがきたかと思えば、下からの切り上げ、袈裟斬りが続く。セリストリアはどれも回避をするが、袈裟斬りのタイミングで自らも剣を抜き、攻撃を防ぐ。

「試験の合図とか、ないんですか?」

鍔迫り合いになりながらそう聞くが、

「そんなもの俺にはない!」

と、叫び、セリストリアごと振り払った。その一撃の重さにセリストリアは耐えれず後ろへ吹っ飛ばされる。

「いやいや、試験なんだから合図はあって当然じゃないんですか⁉︎」

難なく着地をし、そう抗議するが、

「俺が試験官になった時点でそんなものないも同然だ!俺が担当になった自分の運を呪え!」

聞く耳を持っていない。セリストリアはため息をつき、気持ちを切り替える。

(こうなった以上試験は始まっているんだ。それに…あの人は強い)

剣を構え直し、

「なら…行きます!」

試験官へ距離を詰める。

「ははっ、そう来なきゃなぁ‼︎」

試験官は突っ込んでくるセリストリアに対して大剣を振り下ろした。それも回避することが難しいギリギリのタイミングで。

(上手いな…)

これを剣で防ごうとしたら、力負けするだけでなく、体勢が崩れてしまう。

だが、

(まあ予想通りか、ならここは…)

こうなることを予想していたセリストリアは迫る大剣を体を捻って避け、そのまま試験官に接近する。

(胴体がら空き!ここ‼︎)

無防備な試験官の胴体に向けて回し蹴りを放つ。が、あと一歩というところで避けられてしまった。

「なかなかやるじゃねぇか」

試験官はセリストリアから距離を取る。

「まだ、やれるよな?やれねぇとは言わせねぇぞ」

大剣の先をセリストリアに向け、そういった。セリストリアは苦笑いだけするとすぐに気を取りなおす。今の攻防で相手が生半可な実力ではないと気づいたからだ。

(さすがに強いな…けど、師匠ほどでもない)

剣を構え直し、試験官を観察する。剣の技量もそうがだ経験の面で大きな差があると感じた。

(さて…どうしようか。何か他にやりようが…ってそういえば魔法も使っていいんだっけ?なら、それでやるしかないか)

魔法もカナとの修行でもにつけていたのだ。とはいえ、大規模な魔法だと自分にも影響があるため、あくまでも牽制を目的とした魔法しか使わないと決める。

「どうした?来ないのか?なら…俺から行くぞ!」

試験官はそう叫びながらセリストリアに接近してくる。対してセリストリアは魔法のイメージをすぐに行う。

(イメージは炎の剣それも一本じゃ足りない…できるだけ多く!)

魔力を操作し、イメージから魔法を構築する。

「ん?」

試験官が気づいた頃にはセリストリアの周囲には数本の炎の剣が浮かんでいた。しかし、減速すること無く、近づいてくる。セリストリアはすぐに炎の剣を放つことはせず、手に持つ剣で迎える。試験官の大剣が振り下ろされたタイミングで数本、炎の剣を放つ。試験官はギリギリで避けるが、それを見計らってセリストリアが剣を振るう。

「舐めんなぁ!」

試験官は咆哮し、セリストリアの剣を防ぐ。が、

「あなたこそ、俺に注意が向きすぎてませんか?

セリストリアはそう言う。試験官がどういうことだ、と思う間もなく、炎の剣が数本試験官の左右、上、後ろから飛来する。

「いつの間に⁉︎」

試験官は大剣で防ごうとするが、セリストリアがそれを許さない。手に持つ剣に力を入れ、大剣をで防御させまいとする。それならば避けるしかない、と思った頃には炎の剣が間近に迫っていた。セリストリアは炎の剣が試験官に直撃する直前で後ろに飛び、魔力の壁を作り、爆風に巻き込まれないようにする。それと同時に目の前で爆発が起こった。セリストリアは気を抜くことなく、剣を構え、奇襲に備える。少しずつ煙が晴れていき、気づく。試験官の姿がなかった。

どこだ、と思った頃にはすでに遅かった。

「なかなかいい手だったが、詰めが甘いな」

試験官の声が後ろから聞こえ、大剣が振られる。それを

「予想通りですよ」

そう言いながら、魔力の壁を後ろに作り、防ぐ。それもただの魔力壁ではなく、衝撃を受けると、爆発するものだ。案の定、試験官はそれに気づくはずもなく、爆発に巻き込まれる。そこに追撃するように炎の剣も試験官へ飛んでいく。セリストリアは前に飛び、試験官から距離を取る。

(これで終わってくれるといいんだけど…)

そう願うが、叶うはずもなく、試験官はところどころ服を焦がしているものの、何事もなかったかのように立っていた。それを見たセリストリアは

「そろそろ終わってくれてもいいと思うんですけど?」

そう言うが、

「おいおい、こんな楽しい勝負をそう簡単に終わらせてたまるか。その年齢で俺とここまでやれるやつなんて他にいないぞ?」

試験官は獰猛に笑いながらそう返す。

(勘弁してくれよ…もうそろそろ10分じゃねぇの?いつまで続くけるんだよ)

試験官の様子を見てうんざりする。セリストリアは他にも手札は残っているが、あまり使いたいと思わなかった。

(次の一撃で決めるか、これ以上長引かせたくないし)

セリストリアは腰を落としながら剣を肩の高さまで上げると、ぐっと後ろに引き、左手は剣に添えるようにして構える。

「おいおい、そんな構えでいいのか?簡単に避けられるぜ」

試験官はセリストリアの構えを見て余裕を見せる。しかし、その声はセリストリアには届いていない。意識の全てを剣に注いでいるのだ。それを示すかのように剣には魔力を纏って蒼色に輝いている。

「ッ⁉︎」

試験官はセリストリアの瞳を見て戦慄を覚える。確実に次で終わらせる、そう言わんばかりの気迫と剣に圧縮された魔力を感じ取ったからだ。しかし、それと同時に、

「いいじゃねぇか!こい‼︎」

これは面白いと感じた。

その声が響くと同時にセリストリアは動く。それもただ動くのではなく、足に溜めていた魔力を爆発させ、爆発的な推進力で試験官へと近づく。試験官はそれを防ごうと大剣を構える。

キィィィイイイインッ!

金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。

「はあぁぁあああぁあああっ!」

セリストリアは吠え、試験官の防御を崩そうとさらに剣と全身に魔力を込める。

ピキッ。

「⁉︎」

試験官の大剣にヒビが入る。ヒビは蜘蛛の巣のようにすぐに大剣に広がる。しかし、

(やっぱりか…)

それと同時にセリストリアの持つ剣の切っ先にもヒビが入り始める。かなり無理をさせた使い方をしたことが原因なのだ。互いの剣のヒビが広がり、剣が割れる、そう思ったとき、

「そこまでっ‼︎」

と、女性の試験終了を知らせる声が響く。

「チッここまでかよ」

試験官は試験の終了に関して不満そうに、試験を打ち切った本人を睨む。試験を打ち切った人は女性だった。

「規定の時間を10分も超えてたくせに文句があるんですか?ヴァレリア」

それに対して女性は試験官を責める。ヴァレリアと呼べれた試験官は、

「文句はねぇが、せめて最後までやらせろよ。消化不良なんだが?ヴィオーネ」

最後まで続けて欲しかったことを伝えるが、

「それならあとで私が相手になります。文句ありませんね?」

ヴィオーネと呼ばれた女性はヴァレリアに冷たい視線を送り、黙らせると

「うちのバカが試験時間を伸ばすような真似をしてすみません。戦闘狂なんですよ、彼」

「い、いえ。なんとなくそんな気はしていたんで気にしていないです」

それを無視してセリストリアに近づいてそう言った。

「さて合否を発表したらどうですか?もう決めているんでしょう?」

「あたりまえだ。合格に決まってるだろ。それに俺とあそこまでやりあえたんだ。特待生でいいだろ」

ヴァレリアはセリストリアに合格であると告げた。それも特待生として、だ。

こうしてセリストリアの冒険者育成学校に通うことが決まったのだ。

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