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恋の音色は星空と輝く  作者: 御子柴 流歌
第5章: アストライアの動揺
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7-1: 夏休みと言っても、やっぱりいつも通り


 眠い目を擦りながら何とか到着。朝というにはやや遅い時間帯かもしれないけれど、今日も久方駅はそれなりの乗降客で賑わっていた。


 昨日の煌星祭三日目、その閉幕式を無事に終えて、晴れて久方煌星高校は夏休みになったわけだけれど、アタシは変わらず学校へ向かう。重たい授業道具を持つ必要はないけれど、その代わり背中にはテニスラケットやらなんやらが詰め込まれたバッグがある。夏休みと言っても、当然部活はあるという話だった。


 それでも良心的かなと思えるのは、いつもの休みの日と比べて集合時間が一時間以上遅くなっていることだろうか。言うほど帰りの時間は早くないので、一時間程度の時間差なんて付け焼き刃にもならないのだけど。


 しかし、久しぶりの部活のような気がする。学校祭準備との並行期間は終わっていよいよしっかりと打ち込めるわけで、その点を考えると幾分か気持ちは楽なところはある。


 ただし――――。


「ふわぁ……」


 ――それ以上に、このあくびは抑えようがない。


 家に帰り着いてベッドに入っても、何となくココロもカラダもふわふわとしているようで、眠気なんてほとんど感じなかった。それでもいつの間にか寝落ちしていたのはしっかりとカラダは疲れていたという証拠なのだろうけど、充足感というか満足感というか、そういう雰囲気の感覚に全身が包まれているような感じがしていた。


 だけど、さすがにこんな調子では部活のみんなに迷惑を掛けてしまいそうだ。ぺちぺちと自分の頬を叩いて気合いを入れつつホームへ向かって歩いて行くと、その目的地に見知った影がふたつあった。


「あれ? アスト? フウマ?」


「あ、おはようセナ」


「ん?」


 思った通り、アストとフウマだった。最初からこちらを向いていたアストはすぐにアタシに気付いて、フウマはそんなアストの反応を見てこちらを振り返った恰好だ。


「おっはよ、アスト」


「おはよ。朝から元気だね」


「そういうアストは朝から爽やかだね」


「ありがとっ」


 ちょっとだけ照れたように微笑んでくれるアスト。さっきまであくびをしていたはずなのに、いつの間にかアタシの眠気はどこかへ吹き飛んでいったような気がする。アストはいったいどんな魔法を使っているんだろうか。


「……早速朝から見せつけてくれるなぁ、お前らは。油断も隙もねえヤツらだぜ全く」


「うっ……」


 呆れたように笑うのはフウマだった。別に無視をしていたわけではないけれど、意図せず二対一の構図を作ってしまったのは事実だった。


「あ、あのね。フウマ。昨日あの後ね……」


「あーあー、要らん要らん。そんなのイチイチ要らん」


 昨日の顛末は説明してあげないといけない。そう思って話を切り出そうとしたアタシを、容赦なくシャットアウトするフウマ。


「え?」


「今さっき、ぜーんぶアストに聞いたから」


「…………ええっ! ちょ、ちょっと! それどーゆーこと!?」


 フウマとアストの間で、アタシはふたりを交互に凝視する。ただ見つめるだけでは何となく納得がいかなかったので、ほんのちょっとだけ恨みを込めて。アストの方にはその気持ちを少しだけ強くして。


「……なあフウマ。その言い方だとさ、ボクが自発的にフウマに対してしゃべったみたいな感じしかしなくて、個人的には全然納得いかないんだけど?」


「それはちょっとした言葉の違いだろ? 気にすんな気にすんな」


「コトバの綾で流せる問題じゃないと思うんだけどなぁ……」


 フウマはいつもの調子で軽く笑い飛ばそうとするけれど、珍しくアストはそれでも食い下がる。完全にゴネているというわけじゃないけれど、絶対に納得はしなさそうな雰囲気だった。


「ほら、セナ。この前言っただろ? 男子相手だとコイツ結構意地張るんだぞ、って」


「あ、なーるほど」


 聞いたときには『ホントなの?』と思ったけれど、まさかこんなに早く裏付けが取れるとは思わなかった。少なくとも今みたいな態度はアタシとふたりきりのときには見せたことが無かったと思う。今度からはアタシの前でも、ちょっとくらいは見せて欲しいな、なんて思ったりしてみる。


 そんなアタシを見てか、アストは少しそっぽを向いて「また余計なことを……」とか小さく呟いている。一応アタシにも聞こえているわけだけど、そこまで気にはしていないみたいだ。


 ただ、その前にひとつ、アストには訊いておくべきことがあるだろう。ぎゅっと彼の腕に抱きつくようにして耳打ちする。


「……ねえ、ところでアスト?」


「何?」


「……フウマに、どこまで、話したの?」


 コイツにだけは知られたくないことは、昨夜のことだけでも山ほどある。それ以外にもたくさんある。どこまでフウマが聞き出そうとしてきたかにもよるけれど、状況によっては戦争のようなモノに発展させても構わないわけで。


「……別に。付き合い始めたよ、って話だけだから」


「あ、そうなんだ」


 なら、別に構わない。フウマにはシャットアウトされたとはいえ、それくらいはアタシからも伝えたいところだったから。


「他に何かあったっけ?」


「ううん、別にそれなら。アタシから言わなくても済んだなー、って」


 アストがそっと耳元で訊いてくる。くすぐったいような、それでも嬉しいような。フウマはそれを見て怪訝な表情になった。


「その言い方だと、何か面白そうなネタ隠してそうに聞こえんだが?」


「んーん。別にぃ」


「何だよ、何か気になるなぁ……」


 今度はフウマが不満そうだった。ここでフウマをイジってもムダに煽るだけのことなので、適当にあしらうことにして口笛でも吹く真似をしようかと思って、――ふと気付く。


「ん? でも、だとしたら、アタシたちはフウマにいろいろと訊く権利があるわよね?」


 こちら側のネタを提供したんだから、そっち側の話もぜひ聞きたいわけで。


「あ、たしかにそうかも」


「あぁん?」


 等価交換を持ちかけたというのに、フウマは眉間に皺を深く刻んで苦笑い気味に凄んできた。如何にもセンシティブな話題を抱えていそうな顔だった。


「別にイイじゃん。っていうかマジで、あの後アンタとナミがどうなったのかは聞いておきたいし」


「……まあ、それもそうか」


「ボクたちの仲じゃん」「アタシたちの仲じゃん」


「ほら、セナもそう言ってるし」「そうそう、アストの言うとおり」


 全く同じタイミングで、ほとんど同じセリフで、アストをイジってしまった。


「お前ら、マジで息ピッタリなのな」


 フウマはまたしても呆れ気味に、でもさっき以上に楽しそうに笑った。


「……まぁ、たぶん、オレが報告するまでもないと思うんだけどな」


「えー? 何でよー」


「そう焦んな。もうちょっとで来るはずだから」


 そう言いながらフウマはスマホを見て、改札口へとつながっている出入り口の方を見る。


「来るって、誰?」


「色惚けは勘弁してくれ。……あ、ほら来た」


「え?」


 フウマが指した方を見れば――。


「あ、ナミ……!」


 ――そこに居たのは紛れもなく、明坂夏海その人だった。

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