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恋の音色は星空と輝く  作者: 御子柴 流歌
第5章: アストライアの動揺
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6-5: 宴、二日目


 翌日。煌星祭二日目。


 ステージ発表で使う小道具の修正作業は、何とか作業が許されている時間でできるだけのことはしたつもりだった。急ピッチで補修などを終えたのでいくらか粗も目立つところはあるが、遠くから見る程度ならば何とかごまかせるはずだ。


 かなりしんどい作業になったのでクラスメイトの数名は体調が良くなさそうだったが、担任の高村先生がホームルームで、生徒全員に栄養ドリンクを進呈してくれた。いわゆる定番商品ではなく、ちょっと栄養成分が多く入っているランクの高いヤツだ。しかも先生の自腹だと言う話だった。


 妙なカタチでさらに団結力――と言っていいのかはわからないけれど、テンションはしっかりと上がったアタシたちは足取りも軽く、本番で使う機材や道具を分担して持ちながらホールへと移動する。一年生から順に発表をしていく流れだが、各学年内での発表順はくじ引きで決められる。ウチのクラスは最後から二番目の発表順だった。


「こういうのってさぁ、先にやった方がいいのか後にやる方がいいのかよくわかんねえよな」


 実行委員として各クラスが持ってきた道具の確認をしている内に、いつの間にかアタシのすぐ横をガードするように陣取っていたフウマが、口調とは裏腹に真剣な顔をしてステージを見つめながら言う。


「どーなんだろね」


「後の方が審査的に良いのかとも思うけど、先にやった方が後のクラスの出し物をぼけーっと見れるじゃん?」 


「え、先にやるべき理由ってそれなの?」


 てっきりアタシは『最初にインパクトのある出し物をやったら、後の人たちにダメージが与えられるから有利になれる』とか、『さっさと発表が終わった方が緊張から解放されるのも早く済む』とか、そういう対比をしてくると思っていたのだけれど。思いっきり肩透かしにあったような気持ちになる。――フウマのことなので、緊張とかそういうことは思っていなさそうだったけれど。


「発表はするけど、オレらだって一応観客みたいなところあるじゃん」


「まぁね」


「だったら、そこら辺も楽しみたいと思わね?」


「なるほどね、それは納得」


 アタシなら上級生の出し物の方をしっかりチェックしたいと思ってしまうけれど。――いや、決して同学年のが参考にならない的なことを言ってるわけじゃない。ただ見るならば、少しでも後学のために見たいと思ってしまうのだ。


「羽田くーん!」


「ほら、呼ばれてるわよ」


 かなり遠くの方からウチのクラスの子がフウマを呼んだ。あの位置からでもはっきり判別できるのは、コイツが何となく目立つからなのだろうか。昔から知っている人間としては、誇らしいようなめんどくさいような。でもフウマに関することならば、あまり悪い気はしなかった。


「ん。お前は? こっち来ねえの?」


「アタシはほら、実行委員だから」


「なるほどな」


「一応、ウチのクラスの発表の直前にはそっちに行けるから」


「わかった、じゃあみんなにもそう言っておくか?」


「よろしくー」


 おっけー、と言いながら力強く拳を握って、クラスの方へと戻っていく。そんなフウマの後ろ姿を見て、何故か笑みがこぼれてしまった。


「んんー? 白水さん、今のイケメンくんってカレシだったりするの?」


「いえいえ、全然違いますよー。小学校からの幼なじみっぽいヤツなんです」


 二年生の実行委員である香取さん――たしか、合唱部の所属だったか――が肘で小突きながら訊いてきたが、即答で否定する。それだけで終わらせてしまうとさすがに素っ気なさ過ぎるので、フウマの付加情報もくっつけてのご提供。案の定だけれど、香取さんは興味深そうにフウマが走って行く姿を見つめていた。


「そのわりにはすっごい雰囲気作ってたけど?」


「そんなことないですってば。アイツ、いっつもアタシのことバカにしてくるんですから。ああいう反応が珍しいくらいで」


「……あー、なるほど。そういうパターンなのかぁ。見た目通りかも」


 ちょっとだけ悪態を吐くアタシを余所に、香取さんは何かに納得したような様子だった。


「何がですか?」


「ううん。典型的な『悪ガキくん』がそのまんま大きくなったのかなぁ、って思って」


「そう! そうなんですよ。ホント困ったヤツで。いっしょにお昼食べててもすぐ人のおかず強奪してくるし、ちまちまとちょっかいはかけてくるし、揚げ足取れそうなところ見つけたらすぐイジってくるしで」


 言い出すと止まらない。実行委員の活動で困ったことがあるとすぐにサポートしてくれた香取さんは、お話もしやすくて素敵な先輩だ。年の差はひとつのはずだけど、もう少し年上のお姉さんみたいな感じがしてしまう。


「まー、悪いやつじゃないんですけどねー」


「白水さん的には、好きな男の子からはもう少し優しくしてほしいんだ?」


「んー……。あー、そうかもしれないです」


 反射的に答える。


 ――けど、今自分がどんな質問に対して『そうかもしれない』と答えたのかを、アタマの中で再確認する。


「え? あ、違っ! 違うんです! アイツが好きな子ってことじゃなくて!」


 違う、そうじゃない。優しくしてくれた方が嬉しいのは、たしかに本当のことなんだけど、その言葉に掛かってくる言葉がちょっと違ってて。好きとか嫌いとか、そういう次元のことじゃなくて。


「じゃあ、あの彼は()()()()だったのかもね」


「え?」


「白水さんの反応がその答えなんじゃない?」


「あ、香取さんと白水さん、今ちょっと良い? おしごとなんだけど……」


「はーい。……ごめんね、白水さん」


「いえいえ、全然。行きましょう!」


 香取さんがそう言ったタイミングに合わせるように実行委員担当の先生から新たな仕事が入ってきてしまい、それきりこの話題が続くことはなかった。けれど、黙って作業をしている間にだんだんと思考が落ち着いてくる。


 ――『好きな子からは優しくして欲しい』、そしてフウマの『戦略ミス』。


 その言葉の意味するところはわかる。けれど、本当に理解することには何となくブレーキをかけてしまうような気持ちになる。


 だって、それは。


 ――フウマはアタシのことが好きだったのかもしれない、という意味になってしまうから。


 軽く首を振って、そんなアイディアに大きく『ボツ』と書かれた貼り紙をつけておいた。


「あ、そうだ。香取センパイ」


「んー?」


 少し気になることがひとつだけあったことを思い出したアタシは、勢いに任せて訊いてみることにした。ずっと二年生以上の人に訊いてみようと思って、そのままにしていた疑問のようなモノだ。


 もちろん答えとして返ってくるものはある程度予想はしていたけれど、その通りの答えをもらうことが出来てアタシはほんのちょっと安心することができた。




     ○




 驚くことに、ステージ発表はひとつのミスもなく終えることが出来た。緊張感が抜けたかあるいは大成功に感動しすぎたのか、女子が何人かステージの袖に下がるときには既に泣いていて、思わずアタシももらい泣きしそうになってしまった。


 ステージ発表は生徒全員、教職員全員からの投票結果に加えて、明日の一般来場者にも人気投票をしてもらうことになっているため、この発表の順位がわかるのは明日の夜――つまりは閉幕式の時だ。それまではアタマのどこかで期待と不安が混ざったような気持ちを保管しておかないといけない。


 いかんせん自分たちとしては満足できる内容だっただけに、合格発表を待たされているみたいでちょっとツラかったりはする。ただ、テンションの上がりきったクラスメイトたちは「学年一位はもらった!」「これは勝っただろ!」と、噛ませ犬キャラが建たせる負けフラグのようなモノを思いっきり建てていたが、アタシも手応えがあったので口には出さなかったが心の中で同調しておくことにした。


「おつかれさまでしたー」


「おつかれさまー」


 他の実行委員とい合いながら、アタシは帰りのバス乗り場へと向かう。明日はいよいよ煌星祭の最終日。アタシやフウマは教室の店番みたいなことをすることになっているし、ナミとアストはそれぞれ部活動の発表準備があったりして、結局アタシ個人の時間が取れそうなのは閉幕式の前後くらいな気がする。


 今日だってそうだ。自分の持ち場を離れるわけにもいかず、お昼は実行委員のみんなと摂った。結局クラスメイトたちの顔は、自分たちのクラスの発表の時間以外だと、他学年の発表を見に体育館に来ているときだけしか見られなかったし、会話をすることはもちろん出来なかった。


「……ほんとはさ」


 小さく小さく呟いた声は、誰に届くわけもなく夏の夜空に溶けた。


 ――本当は、もっともっと楽しい気分で学祭の最終日を迎えることが出来たはずなのに。


 大事なところで一歩を踏み出せなかったアタシのせいだから、こういう風に嘆くのはお門違いって話ではあるのだけれど。


 だからこそ明日は、今までみんなのおかげでやってこられたことに対して、すべてに対しての恩返しをしなくちゃいけないんだ。


 ふと見上げた空には明るい星がちらちらと見える。この辺は街の中心部から離れている。街明かりが少ない分だけ星が綺麗だった。


「……あ、そういえば」


 いくつか思い出したことがあった。直ぐさまスクールバスがやってきたので、座席に座るなりアタシはスマホで検索をはじめた。



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