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恋の音色は星空と輝く  作者: 御子柴 流歌
第5章: アストライアの動揺
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6-3: 謝罪と宣言


「教室の方あんまり見てきてないんだけど、作業とか大丈夫そう?」


「いや、それが……」


 どう考えてもイイ情報は出てこないだろうなぁ、と思えるような切り出し方で始まったフウマの説明は、案の定芳しいものじゃなかった。


 聞けば作っていた小道具の補修に使う材料が足りないとか、装飾用の素材が思ったより微妙でもう少し値段がするモノに変えた方が良いんじゃないかとか、よりにもよって学祭前日のこういうタイミングに出てきちゃうのか、と言いたくなるような小さなトラブルがものすごく頻発しているらしい。


 フウマ以外にも体力に自信がある男子が自転車を使って買い出しに向かっているとかで、その中でも抜群に運動神経が良いフウマは早くも戻ってこられた、ということだった。


「え。じゃあアンタ、早く戻った方がイイんじゃない?」


「……別にいいよ、他のヤツらまだ来てないし慌てなくても」


「いやいや」


 その頼まれ物を欲しがっている人がいるんだ、ってのに。そうやって気を揉んでいるアタシなんて全く気にすることなく、フウマは自転車から降りてそのままアタシの横に腰を下ろした。


「ちょっとくらいオレにも休憩させてくれや。それくらいしても罰は当たらんだろ。これでも結構キツかったんだぞ」


「……まぁ、それは全然。別にイイと思うわよ」


 実際あの坂道を、その荷物を載せた状態で駆け上がった来たわけだから、ここで「休むな、もう一往復行ってこい」なんてことは言わない。むしろこの速度でお遣いしてきたんだから褒められるべきだろう。これで否定されたらどんなブラック学級だ、って話だ。


 フウマはカゴの中の袋からスポーツドリンクを取り出して、中身を一気に半分くらいまで減らした。あれはたしかフウマが好きでよく飲んでいるモノだ。買い出しついでに自分のお気に入りも買ってきたのだろう。


「……それにしても」


「ん?」


「ちょっと、安心した」


「何が?」


 遠くの方を見つめながら零すように言うフウマに、思わず訊き返す。


「オレたち、何となくオマエに避けられてるような気がしてたから」


「……」


 つい無言を返してしまう。下手なことを言って取り繕うのは違うとは思った。暗にフウマの言うことを肯定してしまったような気しかしないけれど、ある意味事実だから仕方ない。


「お前最近教室にすらまともにいないから、こうしてしゃべんのも久々な気するしな」


「……ごめん」


「あー、いや。こっちこそスマン。別にオマエに謝らせるために言ったんじゃねーから」


 いつものフウマの口から出てくる言葉とはちょっと思えないタイプのセリフに困惑しつつ、ちょっとだけ涙腺を刺激されたような気がして、残っていたサンドイッチを口に放り込んだ。


「ナミがいちばん心配してるからな、とだけ伝えておく」


「……そっか。うん、そうだよね」


 実は先週末に一度だけ――たった一度だけ届いたナミからのメッセージを既読無視してしまってから、何となくそのままになってしまっていた。いろんな意味で顔向けできないような気がして、気後れして、あとは手の打ちようがなかった。


 それ以来ナミからも音沙汰が無いのは、アタシの考えを察してくれたのか、それともアタシという存在を諦めたのか。もちろんナミの真意を探ることも、今のアタシには出来ていなかった。


「アストもな。元々そんなに元気なキャラでもないけど、最近はとくに気が抜けてるっつーか」


 何となくその空気は察していた。元気なキャラでもなければ、クラス内でそこまで悪目立ちするようなタイプでもないアスト。でも案外背が高い方だし、顔だって悪くない――むしろ明らかにイイ方の部類に入る彼は、隠れた人気者だということをここ数ヶ月で思い知った。一緒に歩いているときにあれだけ視線を感じれば、さすがのアタシだって嫌でも気が付くという話だった。人当たりがよく、物腰穏やかで、機転は利く。隠れファンがいたって何も不思議な事はなかった。


「……ごめん、フウマ。アタシ、白状するわ」


「ん?」


 そんなアストに、そういうような顔をさせたのは間違いなくアタシだ。コイツにだけは言うもんかと思っていたけれど、この前のことを考えれば伝えないなんてアンフェアすぎる。三人に迷惑をかけてしまっている以上、正直に告げる義務があるだろう。


「……実はこの前、アンタに言われるよりもだいぶ前に、アストに『好きだった』って言われてて」


「ばーか」


「痛っ」


 ぺしっと軽く頭を叩かれた。反射的に痛いとは言ったが、全く痛みは無かった。


「なぁんで、そういう大事な話を早く言わねえかな」


「……バカにされる気しかしなかったからよ」


「しねえよ」


「しそうだもん。っていうかするもん、絶対。昔アタシは、……アンタに自分の好きなモノをバカにされたことあるから」


「……え?」


 ――無自覚かよ。良い機会なのでそのままの勢いであの頃のことを言ってみると、フウマも思い出したのか、だんだんと気まずさたっぷりの表情に変わっていった。


「それは、マジでごめん」


「うん、許す」


 何年か越しの謝罪。真正面からの謝罪を、しっかりと身体の真正面で受け止める。初めてフウマとの関係性が動いたような気がした。親しき仲にも礼儀ありとかいう形式的なことを言うつもりはないけれど、何となく胸の中に残されていたとげとげとした塊みたいなモノが、ようやく溶けていったような感覚があった。


 即答で許したのを一瞬だけ目を大きく見開いて聞いたフウマは、心底から安心したように息を吐いてベンチに身体を沈め直す。そのままもう一度大きく息を吸い直して、今度はため息をつき、さらには苦笑いを浮かべた。フウマにしてはちょっと珍しい、随分ころころと表情を変えるモノだ。


「なるほどな、そりゃあ敵いっこないわけだわ」


「え、何がよ?」


「……おおっと、いい加減戻らねえと」


 わざとらしくスマホの時計を見ながら立ち上がるフウマ。明らかに言う気が無かったことを言ってしまったのが丸わかりだった。まったく、隠し事ができないヤツだ。


「そこまで言ったんならアンタも言いなさいよ。……実際もう戻んないとヤバそうだけど」


「じゃあ、明後日、ちょっと時間くれよ」


「え?」


「明後日。今日とか明日は、たぶんこの後も忙しいんだろうし」


 こちらに笑顔を向けて言うフウマ。でも、その目の奥には真剣な光が見えた。



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