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恋の音色は星空と輝く  作者: 御子柴 流歌
第5章: アストライアの動揺
24/38

5-3: 真相


「ん? ちょっと待ってちょっと待って? うん? どういうこと? ……まさかフウマ、別れたとか言わないよね?」


 あっという間に出来上がってくる疑問符が、そのままの勢いで口から飛び出していく。


「違ぇよ。その、なんつーの? 『お試し期間』みたいなヤツなんだよ、まだ」


「お試し……?」


「ん? もしかして『デーティング』っていうヤツ?」


「あ……!」


「あー、そうそう。何かそんなこと聞いた覚えが……?」


 いまひとつ要領を得ない言い方のフウマは一旦放置して、アストに話の矛先を向けてみることにする。アタシも薄らと聞いたことがある程度だったので、少なくともアタシやフウマよりはモノを知っていそうなアストの訊くのが賢明だと思ったからだ。


 予想通り、アストはアタシの疑問を解消してくれた。デーティングとは、北米地域――アメリカとかカナダとか、そちらの地域の男女がお付き合いする前に設ける『お試し期間』のこと。付き合いたいという相手と、付き合うときにするようなデートや食事とかをして、それを踏まえて付き合うかどうかを決める、というような手順を踏むらしい。友達以上恋人未満な期間みたいなものと言い換えてもいいのだろうか。


「でも、結構日にち経ってるよね?」


「日にちはな」


「ああ、そっか」


 日頃からハードにサッカーをがんばっているフウマと、アタシの何倍もしっかりしているナミのことだ。かなりがんばって予定を空ける努力をしないと、このふたりがデートするなんていう機会はなかなか訪れない。


「まぁ、そんなわけだ。だから、付き合ってはないってこと」


「……まだ、ね」


「あぁ? 何かいちいち引っかかるな、お前」


「別に……っ。そういうわけじゃないけど」


 ――どういうわけなのかなんて、自分でもよくわからないけれど。


「っていうかお前ら、オレらの話ばっかり聞き出そうとしてるけどさ。お前らこそどうなんだよ?」


「ぅえ? な、何が?」


「とぼけんな」


 いきなりフウマからの口撃が飛んできて、声がひっくり返った。そんなアタシの反応がおかしかったのかフウマは薄らと笑みを作っているけれど、その眼差しだけはわりと真剣に見えた。


「連休の時に四人で遊びに行ったけど、あれだって途中からふたりずつで別れたじゃん? あれって要するに、お前らも同じだってことだろ?」


「ち、違……わないこともない、かもしれないけど……っ」


 否定しそうになって、それをもう一度否定して。でも、それも違う様な気がして、結局何を言おうとしたのか、一番最初にアタシの口からは何という言葉が出てくるはずだったのか、それが全然わからなくなってしまう。


 あの時――ナミたちと別れて、アストとふたりになった直後は、たしかにそんなことまったく思っていなかった。だって、アストはナミのことが好きなんだと思っていたから。だから、勝手に意気消沈していたアタシに元気を出させるために、ただの親切心でやってくれたことなんだと思っていた。


「あの、ね」


「んー。まぁいいや、お前には訊かねーから」


 言葉を整理しながら話そうと思っていたところで、フウマがそれを打ち切ってくる。そのままフウマは表情をほとんど変えないままアストの方を向いた。


「で? どうなんアスト?」


「違うかな」


「……っ」


 ――――――即答。


「ん?」


「いや……何でもない」


 思わず息を呑んでしまった。変な音も一緒に出てしまって、フウマが怪訝な顔を見せた。ごまかしたつもりだったけど、たぶん巧く出来てない。きっとアタシは今、平静を装ったような顔も作れていない。


「あれ? でも、どうして?」


「何が?」


「お試し期間って、ナミが言ったの?」


「そうだけど」


 意外な答えだった。あそこまで意を決した感じでアタシに言ってくれたのだから、

『お試し』なんていうモノはしないと思っていた。


「え。なんでそんな」


「それはナミに訊けよ。オレはナミにそう言われて、別に少なくとも断る理由もない

かと思っただけだ。『もし嫌だったら断ってくれていいから』なんて言われたけど、さすがにそれは出来ないだろ」


 それは理解できる。フウマに告白するという話をされたという裏事情を知っている身からすれば、フウマの方からナミに何かアクションを起こすとは考えられなかった。


「意外と考えてたんだね、フウマ」


「……アストも時々オレに失礼なこと言うよなぁ」


「違うよ、優しいところあるなぁって感心してただけ」


「……ふぅん」


 アストに褒められて嫌な気分にはならなかったらしく、フウマはそれでもまだ言いたいことはあったみたいだったけれどそれを飲み下すことにしたらしい。


 ホームに無機質な放送が響く。気が付けば次の電車がやってくる時間になっていた。本当はもうひとつ直接フウマに訊きたいことがあった。


 だけどアタシは――アタシたちはそれっきり、電車を降りてスクールバスに乗り換え、さらにはバスを降りるまで無言のままだった。いつも騒がしいアタシやフウマがいるのに、こんなことは珍しかった。



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