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恋の音色は星空と輝く  作者: 御子柴 流歌
第4章: 危険なカオリ
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4-5: ボクがいるから


「その時に居たか居ないかなんて関係ないでしょ。ウチのクラスのメンバーなんだから、そんな風に考える必要なんて無いじゃない?」


「や、まぁ、……たしかにそうなんだけど」


 それは、一応は理解しているつもりだったけど。ただ、全部は納得ができないというか。それは自分を納得させられるくらいの材料みたいなモノが少なかったからなのかもしれなかった。


「『だけど』なんて思うことないよ。何なら、セナがもっと強く言っちゃっても大丈夫だと思うんだよね」


「え……」


 強く言う、って言ったって。そんなことをしたら余計に波風を立てるようなことになってしまうんじゃないか――。完全に崩壊してしまった関係性のまま、高校1年生として残り半年以上を過ごすようなことは、さすがにしたくはないわけで。どうしたって良くない事態ばかりが脳裏にちらついてしまう。


「あれ? もしかして、意外と引っ込み思案になってる?」


「だって、それはさ」


 意外と? そんなことない。


 アタシは結構自分の中に閉じこもって、ごちゃごちゃと物事を考えがちだと思う。とくに最近はずっとそうだった。


「あんまりセナらしくないね」


「あ、アタシは……っ!」


 そこまで口から出かかって。ベンチから立ち上がってしまって。


 それでも、それ以上アタシの口からは言葉が出てこなくなった。


 ――アタシらしさって、何?


 ふつふつと湧いてきたそんな疑問を、アタシには見て見ぬ振りをすることは出来なかった。


 今のアタシには『白水星凪らしさ』なんて、ただのひとカケラもわからなくなってしまっている。


 それは少なくともナミに思いを打ち明けられて以来だ。あれからというもの、アタシはいつもの自分の調子に戻ることが出来ていない。もうあの頃のようには戻れないのではないか、ということもちょっとだけ頭の片隅では理解しつつある。だけれど、それまで持っていたはずの『白水星凪らしさ』までもが、実はまやかしだったんじゃないかという気さえしてきている。


「どしたの?」


「……ううん、何でもない」


 力なく、ベンチへ吸い寄せられるように座る。自分を見失って、足場も失って、底なし沼にはまったみたいにそのまま立てなくなってしまうような気もしてくる。


「だいじょうぶだって」


「え?」


 少しだけ困ったように眉をゆがめつつもアタシに笑いかけてくれるアストは、今日も変わらずに微笑む。――アタシが、アストの想いを宙ぶらりんにしているのにも関わらず。


「だって、セナだもの」


 思った以上に雑な答えが返ってきた。


「……それ、答えになってるの?」


「もちろん」


 冗談めかして言っているのかと思ってツッコミっぽいことを言ってみるけれど、アストはそこで折れたりなんかしなかった。冗談ではないらしい。


「真っ直ぐに素直に、自分の言葉で自分の気持ちをぶつければいいんだって」


「そう、かな」


「そうだよ」


 やはり即答だった。誰よりも今真っ直ぐに言葉をぶつけてくれているのは他でも無くアストのような気がするけれど、アストはアタシにもそれをするべきだと言いたいのだろうか。


「わがままにならない?」


「ならない」


 また即答だった。


「セナの真っ直ぐな言葉だったら、絶対みんな聞いてくれるから」


「ホント?」


「ホント」


 もはや何度目かわからないくらいの即答だった。やっぱり頭の出来が違うなぁ、なんて思ってみたりしているあたり、アタシにも少しだけ余裕が出来てきたのかもしれない。でも、もし本当に余裕が出来ているのなら、それは間違いなくアストのおかげだ。話をしようとしていないアタシに心地の良い言葉をくれる。そのお陰で気持ちにゆとりが生まれているんだ。


「だから心配無用。真っ直ぐに。……星の光みたいに真っ直ぐに、ね」


「……それ、アタシの名前にひっかけた?」


「もちろん」


「……もう」


 この前の博物館で言ったことのお返しみたいな感じなのだろうか。いたずらっ子みたいな笑い顔をされたら、ちょっと何も言い返せなくなる。


 でも、言い返そうと思えるくらいに、今のアタシには余裕が出来ている。それが間違いないことがハッキリした。さっきの部活終わりとはものすごい差だ。直前までユミにあんな薄っぺらい反応しか返せなかったのに。――ちょっとだけ、ユミに申し訳なくなる。あとでごめんなさいメッセージでも送っておくことにしよう。


「でも、ホントのホントに大丈夫かな」


「まだ心配?」


 いくらなんでも、心配がゼロにはならない。


「だって」


「ボクがいるじゃん」


「……え?」


 不意打ち。そうとしか思えない一言がアストの口から飛んできた。アストはそんな吐き出してしまった言葉を回収するみたいに、慌ててレモンティーに口をつけた。この前のアタシの家の前で言ってくれた『告白』にも似たような一言に、アタシは黙るだけだった。


  何か言葉を探そうとしても、やっぱり出てこない。巧い言葉を探そうとしているわけじゃない、小学生の国語の教科書か、あるいは幼稚園児の学習帳レベルのモノでもいいのに、それでも出てこない。


「慌てなくていいんだよ。まだ答えは出てないでしょ?」


「そ、れは……」


 ――どっちに対しての言葉なの?


「……そろそろバスの時間だし、帰ろっか」


「う、うん」


 すっと立ち上がって歩き始めようとするアストの手に、思わず自分の手を伸ばしかけて慌てて引っ込める。彼の視線がこちらを向いていなかったことに、ちょっとだけ寂しさみたいなモノを感じながらも安堵する。


 情けないくらいに俯いて歩くのは、夕陽がまぶしいから。丁度アストの横顔の高さに見える夕陽が目に刺さってくるから――。アタシはそうやって自分に言い聞かせながら、鼻の奥の痛みのようなモノをごまかした。


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