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十二支史 召喚獣が獣耳少女で困る   作者: 佐藤 白
序章 召喚士官学校の問題児
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秘奥義★ケモミミモード

『憑依召喚 日天子(にちてんし)水天寅(すいてんいん)月天午(げつてんま)氷天戌(ひょうてんじゅつ)

『主様のために!』『今度はもっと上手くやる』『ママに任せて下さいね』『散歩の時間だー!』

二支対衝(にしたいしょう) 光闇』『三会四局(さんかいしきょく) 冬』


 複数の属性が組み合わさるというのは思っていた以上に厄介だなとナルカミはエトの評価を上方修正した。

 今、エトの周囲には液体で構成された盾が展開されている。それらは大きさと形と数を変え、二体の雷狼からの電撃を防いでいた。

 盾に触れた電撃は否応なく分散される。合間を縫って攻撃しようにも、何かしらに作用する引力があるようで電撃を逸らされてしまう。おまけに景色も歪められているため距離を測りにくい。

 加えて盾は形を変えて剣にもなり、ナルカミへと襲い掛かる。それらは眩い光を放つため視認するのが困難であり、槍で弾けば触れた箇所が凍り付いた。


「なるほどね。やるじゃないか」

「そりゃどうも」

『くっ、この犬ちょこまかと。大人しく言うことをききなさい!』

『ママ、もっとちゃんと誘導してくれないとご主人様に当たる。あっ、ちょっと痺れた』

『うーん、いまいち暗いですね。電力不足でしょうか?』

『ご主人! なんかこいつ全然凍らない! キライ!』


 惜しむらくは同時に扱える属性と物量が少ないことに加えて効力が弱いこと。

 もっと大量にあらゆる特性を合わせ持つ物体を用意されれば苦戦は必至であった。引力が強ければエト自身が回避行動をとる必要もなく攻撃に専念できただろうし、ともすれば雷狼を絡めとって壊すこともできたかもしれない。光による目くらましも雷属性で光に耐性のあるナルカミの目を潰すには至らず、そもそも電磁波と音響で位置を把握できる。

 これらは本人が言っていた出力の低さに起因するものだろう、とナルカミは凍り付いた槍を電熱で溶かしながら推測する。 


「でも、この程度なら力業でなんとかなるかな」

『むむっ、それは聞き捨てなりませんよ!』

『カチンときた。泣かす』

『あらあら、まあまあ、随分と悪い子ですね~』

『ガルル! シネ!』

『いや、殺すのはダメだからな!』


 十二支たちの殺気が形を成すように霧状の小さな針がエトの姿を覆い隠し、さらに広範囲を埋め尽くすようにナルカミと雷狼へ迫る。だが、雷の力で肉体を強化されたナルカミによる槍の一振りは空気を裂き、衝撃波を生じさせて霧を吹き飛ばした。


「うっそだろ、おい!」


 エトは槍による払いと突きの連撃を後退しながら体を捻ることで辛うじて躱し、雷狼からの電撃を新たに展開した盾でなんとか防ぎ切った。


「うんうん、体術も中々のものだ」

「この戦闘狂め!」


 追撃もそこそこに悠々と足を止めるナルカミにエトは毒づいた。


「褒め言葉として受け取っておくよ。所でまだかい?」

「まだって何が?」

「君の奥の手さ。準備に時間がかかるものかもしれないからこうして待ってるんじゃないか」

『主様! 私達の出番です! 袋叩きにしてやりましょう!』

『そんなにいらない。私だけでも血祭りにできる』

『スイちゃん。ここはママが旦那様の代わりに教育してあげる場面ですよ~』

『ご主人ご主人! お外お外! 凍らせてかき氷にする!』


 エトは十二支たちの物騒な声を聞き、見た目も中身もヤバイこいつらを出さずに済むなら奥の手を見せてもいいのではないかと思うようになった。

 奥の手にしただけあって、あまり見せたいものではない。とはいえ、十二支たちと違って絶対というほどではなく、ナルカミが相手であればそこまで気にならない。

 しかし今は授業中。観戦中の生徒と教官たちの目もある。

 その上、奥の手には時間制限があるのだ。命の危機があるわけではない。尊厳の危機である。故に使用したら最後、速攻で勝負を決めなければならない。

 未だに底を見せないナルカミを相手にそんな博打はご免であった。


「こんな所じゃ使えないって言ったら?」


 食事の約束もある。場所を変えて後日見せるのが無難と思っての発言だった。


「へぇ、まだまだ余裕みたいだね」


 しかし、ナルカミはそれを挑発と受け取ってしまったらしい。変に恰好つけたのが良くなかったようだ。


「それなら僕も少しだけ本気を出すとしよう」


 二体の雷狼が二筋の電光となって槍に宿る。三体分の召喚獣をまとめた槍は巨大化し、雷撃の域まで強化された電流はそこに在るだけで大気を破裂させ、周囲に強風を巻き起こす。


「待て待て待て! 今のは時と場所を変えようって意味だぞ!」

「あはは、ごめん。風上だから全然聞こえないや」

「嘘つけ! 絶対聞こえてんだろ! バーカ! バーカ!」


 やけくそ気味に罵倒しながら全力で防御を固めるエトに対し、笑顔のナルカミは一瞬で空高く跳び上がった。

 そして、エトの真上を陣取ったナルカミは槍を大きく振りかぶる。


雷轟大槍(らいごうたいそう)


 放たれたのはまさしく雷の如き一撃であった。

 耳をつんざく雷鳴と目を焼く稲光が演習場を埋め尽くす。観戦していた生徒たちは悲鳴を上げて身を竦め、周囲の生徒たちを守っていた教官たちが慌てて救助に向かおうとした。


「あー! クソ! 死ぬかと思ったじゃねえか!」


 槍が落ちたグラウンドは抉れて陥没しており、一面に土煙が立ち込めている。その中からエトの叫び声が聞こえてきた。

 

「無事で何より」

「無事なもんか!」


 土煙を吹き飛ばして現れたのは可愛らしい鼠耳と尻尾を生やしたエトの姿であった。服はボロボロで体から煙を上げながらも見える範囲では傷一つ負っていない。


「えっ、何それ?」

「お前が散々見たがってた奥の手だよ!」


 エトは吐き捨てるように言った。


『融合召喚 日天子』


 召喚獣と融合することにより、能力だけでなく肉体も大幅に強化されるエトの十八番。時間経過で融合した召喚獣に近づいていき、終には女体化してしまうという見た目の問題を除けば彼が最も得意とする技である。

 ざわつく生徒たちの中からカワイーという歓声が上がった。この場で唯一今のエトの姿を知るシズメの声である。

 エトは拳を握り締め、体を震わせた。


「ぐっ、だからこれを使うのはイヤだったんだ」


 十二支たちを表に出すよりは断然ましだが、自身のコスプレ感あるケモ耳姿を衆目に晒すのもまたエトの羞恥心を刺激する。


「うん、なんか、ごめん」


 居たたまれなくなったナルカミは思わず謝った。


「もういいって。こうなったからにはボコボコにしてお前にも恥をかかせてやるからな!」


 多少可愛らしい見た目になろうとも、その威圧感は増している。ナルカミは凪いだ戦意が再び滾るのを感じた。


「せっかく恥ずかしい思いをしてまで奥の手を見せてくれたんだ。こっちも恥ずかしい奥の手を一つ披露しよう」


 槍から雷狼に戻っていた三体が再び電光となり、今度はナルカミに纏われた。

 形作られたのは狼の面を思わせる兜に鎧。鋭い爪の付いた手甲と足甲。そして、全身からは絶え間なく雷光が迸る。


雷轟夜叉(らいごうやしゃ) 鳴神(なるかみ)


「獣装としては槍じゃなくてこっちが正しい形なんだけど、子供っぽくてちょっと恥ずかしいんだよね」


 ナルカミ少し照れくさそうに爪をバチリと鳴らした。


「なんだよそれ! 全然カッコイイじゃん! 俺だってそういうのが良かった!」

「そうかい? ありがとう」

「マジでボコボコにしてやるからな」

「良いね。受けて立つよ」


 戦意が最高潮に達した二人が互いに構えた瞬間、エトは既にナルカミの懐まで入り込んでいた。

 振りかぶられた手には陽光が収束したような眩い輝きを放つ剣が握られており、驚愕するナルカミの目に日輪を彷彿とさせる軌跡を焼き付けながら振りぬかれた。

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