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十二支史 召喚獣が獣耳少女で困る   作者: 佐藤 白
序章 召喚士官学校の問題児
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つっよいナルカミのガチバチ召喚獣装備

 ナルカミが意識を向ける先からは爆音と悲鳴が響き渡り、炎と閃光が辺りを照らす。


「そんなに向こうが気になる?」


 女子生徒のシズメは組手相手のナルカミに声をかけた。

 明らかにこちらへ意識を向けておらず、それでも彼の召喚獣である雷狼は余裕を持ってシズメの岩で出来たアルマジロのような召喚獣に対応している。正直、敵わないなと思っていた。


「あれだけ汚い叫び声を上げられたらね。それに流れ弾も飛んできそうだし」

「それは言えてる。もっと離れとこっか」

 

 いくら演習場が広く頑丈に作られているといっても、その中では一人の教官と二人の補助監督に加えて十数人ほどの生徒たちが同時に演習を行っている。そんな状態で広範囲を破壊するような攻撃をするなど明らかに組手の規模を超えてやり過ぎだった。

 直に教官が止めに入ることだろう。それをナルカミは少し残念に思った。

 サイバネは周囲を省みず攻撃しているようで被害が出ないよう巧みに制御しているし、一方的に攻撃されているエトも召喚獣なしで複数の属性を操り全ての攻撃を捌き続けている。

 同期はおろか学校全体でもあそこまで出来る者は中々いない。出来ることなら組手を中断して、もっとしっかり見たかった。特に全ての属性が使える召喚獣とは如何なるものなのか?

 ナルカミの興味は尽きない。


「どうにか彼の召喚獣を見れないものかな」

「エトくんは召喚獣を使えないらしいよ」


 ナルカミの小さな呟きが聞こえたのかシズメは口を挟んだ。


「うん? 彼のことに詳しいのかい?」

「詳しくはないよ。同じ学校出身ってだけ」

「……そうなんだ」


 『だけ』と言われるのはなんだかエトが居たたまれないように思えるナルカミであった。


「あの頃のエトくんは召喚獣を出せないことに悩んでたみたいで。それでもすっごい強かったから虐められるとかはなかったんだけど、近寄りづらい感じだったんだよね」

「へぇ、今はそんな風に見えないけど」

「卒業するちょっと前からなんか吹っ切れたみたい。噂では先生に告白して振られたらしいよ。可愛いよね」

「それはまたお気の毒に」


 噂になっていることも含めてとナルカミは心中で手を合わせた。


「ただ、召喚獣を出せないというのは残念だな。まぁでも、これからに期待かな?」

「わたしもエトくんの召喚獣ってすっごい強いんじゃないかと思ってるんだよね~。だから召喚するにはまだレベルが足りてないんじゃないかなって」

「中にいるのは間違いないから、そうだろうね。やっぱり気になるな」

「全部の属性が使えるぐらいだし、伝説にあった鵺みたいなすっごいキメラっぽい感じだったりして」

「仮にその通りだったら彼も嫌がるだろうね。その辺りの感性は一般的みたいだったし」


 ここまでの会話でナルカミはシズメに対して少し苦手意識が芽生えていた。そんなことを知ってか知らずかシズメは内緒話をするように顔を寄せてくる。


「実はね。私も一度しか見たことがないんだけど、エトくんにはもう一つ奥の手があるの」


 また噂話かと身構えたナルカミだったが、奇しくもそれは彼の興味を引く内容であった。


「昔、外で魔獣に襲われていた所をエトくんに助けてもらったことがあって。その時のエトくんがね、今戦ってる姿とは違って……」


 そこで不意に笛の音が鳴り響く。教官からの集合の合図だ。


「この話はまた今度にしよっか」

「そうだね。色々と教えてくれてありがとう。助かったよ」


 内容的にはあまり褒められたことではないが、興味深い内容であったことは間違いない。ナルカミはシズメに礼を言いながらも後でエトに謝罪することを決めた。


「えへへ、『夜叉』のナルカミくんにお礼を言われるなんて照れちゃうな~。また今度お話しようね!」


 シズメはそう言って小走りに去っていった。


「あはは、またね」

 

 夜叉とはナルカミの血筋を表す家名である。誇りに思ってはいるものの、こうしてたまに煩わしいと思うこともあった。


「それにしても」


 あまりお近づきになりたくないタイプの子だったなとナルカミは思い、静かになったエトとサイバネの方へ視線を向ける。

 そこには恐縮した様子の補助監督に注意を受け、無表情ながらどこかしょんぼりとした様子のサイバネと、息を荒げながら大の字になって倒れ伏すエトの姿があった。


「はっ、はっ、はぁ~。け、怪我するかと思った」

「思いのほか余裕そうだね」

「ん? ナルカミか? お前の方こそ余裕そうじゃん。こっちはもうへとへとだっての」

「それはお疲れ様。立てるかい? 肩貸そうか?」

「この手だけで十分だ」

 

 ナルカミの手を借りて立ち上がったエトは深呼吸をしつつ、大きく伸びをして息を整える。特に目立った外傷はないが、許容量を上回る力の行使の連続はエトの肉体を内側から傷つけていた。しかし、それも一休みしている間に全快する。


「ふぅ、ありがとな」

「いいさ、むしろ君に謝りたいことがある」

「なんでだ?」

「君の過去を人伝に聞いてしまった。本当に申し訳ない」

「ああ、初等部の誰かだろ? いいって別に。気にしねぇからさ。ただまぁ、何をきいたんだ? いや、一応な」


 ナルカミは正直に召喚獣が出せなくて悩んでいたらしいことと先生に告白して振られたという噂のこと、もう一つ奥の手を持っているらしいことを話した。


「えっ? それだけか?」

「うん。これで全部」

「本当に大したことじゃなかったな。改まって謝るもんだからびびったぜ」


 エトは最大の秘密がばれていないことに安堵して胸を撫で下ろした。


「そう言われると多少気が楽になるよ」

「だから気にしなくていいって、慣れてるし」

「それじゃ僕の気が収まらない。今度、美味しいものでもご馳走しよう」

「マジで!? いいのか!?」

『こいつ、ご主人を餌付けしようとしてる? ホモ?』

『おい、止めろ』


 テンションが上がったかと思えば、一瞬で真顔になるエトの様子を見てナルカミは頭でも打ったのかと心配になった。


「済まない。少しいいだろうか?」


 そこへサイバネが二人に声をかけてきた。


「むっ、貴方は『夜叉』の……」

「あっ、君は『大社』の……」

「んっ、知り合いか?」


 サイバネとナルカミがお互いに顔を見合わせ、エトは二人を見比べた。どことなく雰囲気が似ているような気もする。両者とも姿勢が良く、堂々としている所とか。などとエトは思った。


「いや、初めましてかな。ナルカミと呼んでくれるかい?」

「そうだな。初めましてナルカミ。私のことはサイバネと呼んでほしい」


 そう言って二人は握手を交わした。

 エトは何かありそうだなと思ったものの、険悪な雰囲気ではなかったため追及しないことにした。誰だって知られたくないことの一つや二つはあるだろう。エトにはそれがよく分かる。


「時に食事の席を設けるとの話を耳にしたが、私も同席願えないだろうか? 許してもらえるのであれば費用はこちらで用意させてもらう。私も彼には借りができてしまってね。詫びる機会を求めていたのだ」

『ご主人、こいつもホモ?』

『いい加減にしろ』

『うっ、ごめんなさい』

『後で尻叩きな』

『ホント!? やったー!』

『えぇ、嘘だろ』


 銀色に輝くフサフサの尻尾を振って喜ぶマゾメス犬ペット少女の氷天戌(ひょうてんじゅつ)ヒヨのせいで、サイバネの話がまるで頭に入ってこない。


「えーと、なんのことだ?」

「先ほど補助監督に注意を受けたのだが、私はどうも加減を間違い、貴方の身を過度な危険に晒してしまっていたらしい。済まなかった」

「いや、次から気をつけてくれればそれでいいって。お前ら二人とも気にし過ぎだぞ。それはそれとして、飯食いに行こうってんなら俺は有難く歓迎するぜ」

「そうだね。じゃあ、僕と君で折半するというのはどうだろう?」

「承知した。心遣い感謝する」

「お堅いね。家格じゃ君の方が、いや、この場でそれは関係ないか」

「無論、ここでの学びは平等であるべきだ」

「なぁ、話がまとまったんならいい加減集まらないと不味いんじゃ」


「むっ」

「あっ」

 

 結局、集合の合図を無視して駄弁っていた三人は仲良く教官に叱られることとなった。

 そして今、先ほどの組手より広く場所をとった土俵の上でエトとナルカミは向き合っている。


「あーあ、まさかペナルティで試合を組まされるなんてな」

「僕としては願ったり叶ったりだけどね」


 覇気のないエトとは正反対にナルカミは戦意と電光をその身に走らせる。


「お前、やっぱり戦闘狂かよ」

「悪いね。こればっかりは性分なんだ」


 先ほどの組手では一体しか召喚していなかった雷狼が三体召喚され、その内の一体が稲妻の如き槍となってナルカミの手に収まった。


「獣装使うとかガチガチの武闘派じゃねえか」

「君も似たようなものだと思うけど」

「一緒にするな。先に言っておくけどこれはただの虚仮おどしだからな」


 エトは再び憑依召喚を発動して光輪を背負った。相変わらず見た目の威圧感は凄まじい。十二支たちがもつ本来の威圧感が漏れ出ているのかのようだ。


「そうは見えないけどね。奥の手もあるんでしょ」

「勘弁してくれ」


 楽しそうでありながら凶悪な笑みを見せるナルカミにエトは辟易とする。この試合が終わったら、サイバネと一緒になるべく高い店を紹介してもらおうと心に決めた。


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