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十二支史 召喚獣が獣耳少女で困る   作者: 佐藤 白
第一章 高天原存亡記
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閑話 十二支反省会

十二支簡易紹介


日天子ネネ:ねず耳ロリ巨乳巫女。最初に十二支入りした彼女たちのまとめ役。

鋼天丑チウ:おっとり系乳牛お姉さん。ことに及ぶとついつい羽目を外してしまいがち。

水天寅スイ:褐色白髪猫娘。クールなようでいて歌と踊りでエトを誘惑するのが得意。

花天卯ハナ:ハートアイズロリータバニーガール。気は弱いがあっちは無茶苦茶強い。

風天辰フウ:谷間全開龍仙女。実はアマツ達のご先祖だったりする。つまり昔のエトもまた先祖。

岩天巳ミミ:大和撫子風激重蛇娘。三歩後ろを歩くより巻き付く派。

月天午ママ:下着エプロンでママを名乗るウマ娘。実はエトの母だった事はない。娘だった事はある。

薬天未ヨウ:ゆるふわもこもこのボクっ娘。毒舌だが十二支の中ではかなり親切。

炎天申エン:三角帽子マントシャツパンツ姿の魔女っ娘。火力が高いが故に呼ばれることが少ない。

雷天酉ユウ:生き恥ドレスを纏う小悪魔系天使。色々と知っているが嘘つきなので注意。

氷天戌ヒヨ:無邪気無防備わんこ。妖精のようなワンピースを着るが、下着は絶対に履かない。

梵天亥ボン:ホットパンツビキニの猪突猛進元気溌剌少女。戦闘では十二支最強だが、あっちは十二支最弱。

「これより十二支会議を始めます!」


 日天子ネネがガベルのように打ち出の小槌をガンガンと叩き鳴らした。


「あらあら、まるで裁判みたいね」


 その様子を鋼天丑チウは微笑ましいものを見るように笑顔で見守る。


「その場合、被告人はユウちゃんで決まりでしょうか」


 月天午ママは柔和に、しかしどこか意地の悪い笑みを浮かべて言った。


「また吊るすつもりですか? 主が相手ならばともかく、皆様方に縛られるのはもう飽きてしまいました」

「今度は簀巻きにして山から転がす刑に処す。川流しの刑でもいい」


 己の素性を偽っていたにも関わらず悪びれる様子のない雷天酉ユウに対し、水天寅スイは容赦のない提案を行う。


「そのためにもより広範囲に地面を張らねばなりませぬ」


 岩天巳ミミは地平線も水平線もない外の様子を見て気合を入れた。

 此処はエトの魂に付随し、その体内に展開されている異空間であり、彼と十二支たちの精神が反映される夢境。獣化状態のエトが武器を出し入れしたり、シイがムラクモの刀をすり抜けたりしていたのもこの空間を利用したものである。

 もっともエト本人はその存在をただの脳内イメージだと思っており、今生では彼と混ざった十二支たちに占拠されていた。

 以前は地下宮殿と旧高禍原の一部を再現していたのだが、封印が解けた影響で歴史をなぞるように崩落。現在は新高天原を参考に再建中である。また、制限が解放されたことで空間自体は拡張されたので、葦原と黄泉國も順次再現する予定。

 先日の地下宮殿では失敗したが、いずれ滅びゆく現世を捨て去り、エト共々こちらに永住することが彼女たちの目標であった。


「静粛に!」


 ネネが再び小槌を叩き鳴らすと、十二支全員の元へお茶とお菓子が用意される。温かい緑茶と冷たい麦茶、甘い饅頭としょっぱい煎餅の組み合わせである。


「わーい!」

「僕これ好きなんだよね。有難く頂きます!」


 氷天戌ヒヨは尻尾を振ってお菓子を口に詰め込み、梵天亥ボンは両手に饅頭と煎餅を持って交互に食べ始めた。


「ねえ、ケーキとかもっとお洒落なデザートはないの?」

「ありません! 自分で用意して下さい」

「融通が利かないわね」


 炎天申エンは不満を口にしながらも、饅頭を口にした。


「酒とつまみはないかのう?」

「会議が終わるまで駄目です!」

「うーむ、仕方なし」


 要望を却下された風天辰フウは残念そうに煎餅を噛み砕く。


「(ふぅ、これで会議を乱すおバカさんたちは大人しくなって雑談も減るでしょう)」


 我ながら見事な策だとネネはほくそ笑む。


「それではまず議題を決めましょう。何か意見はありますか?」

「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」


 しかし、ネネの問いかけに返って来るのは咀嚼音のみ。今度は誰もかれもお菓子に夢中で、発言しなくなってしまった。


「……」


 三度、小槌が叩き鳴らされ、お菓子のおかわりが消える。会議場にはブーイングの嵐が吹き荒れた。


「静粛に! 静粛に! 最初の議題に入ります! いいですか! 私達は今回やり過ぎました!」


 ネネの宣言に誰もが目を逸らして押し黙る中、氷天戌ヒヨは別だった。


「ご主人は怒っててもいっぱい愛してくれるからスキ!」

「「「「「「「「「「「分かる~」」」」」」」」」」」


 十二支たちはヒヨの言葉に口を揃えて同意する。エトがこの場にいれば頭を抱えたことだろう。


「まー、でも今回は嫌われる一歩か二歩手前までいっちゃったと思うけどねー。フウがお尻に尻尾突っ込んだ時以来じゃない?」

「そ、そんな! と、殿にき。嫌われて……死にます」

「ちょっと!? 自分の尻尾で首を吊るのは止めなさいよ! どうせそんなんじゃ死ねないんだから!」


 ミミとエンが騒がしくする中、薬天未ヨウの言葉を受けたフウはバツが悪そうに頬をかいた。


「あれは我も反省している。もっと慣らしておくべきだったとな。故に今回もそっちは自重したではないか」

「一緒になって調子に乗っちゃったボクが言うのもなんだけどさー。今回だってもっと段階を踏むべきだったと思うなー。今回はボクらに負い目を感じてみたいから良かったけどさー」

「そうね。お姉さんにあるまじき恥ずかしい真似をしてしまったと反省しているわ。皆も次からは気を付けましょう?」


 チウの言葉に「異議なし」とスイが頷き、他の者も頷いた。


「結論が出ましたね! では今回の反省はこれで終わりとします!」

「あれ? これ反省になってます?」


 ネネが小槌を鳴らして決をとる。ユウの呟きは誰の耳に入ることもなかった。


「次の議題はユウさんについてです」

「えっ、本当にまだ尋問を続けるつもりだったのですか?」

「違います。ユウさんが知る情報を分かり易くまとめようということです!」

「成程。ですが、先日も言ったように私も多くを知るわけではありません。大本が同じであっても皆様と同じように、シイを名乗る彼女とは記憶を共有していませんから」


 封印が解けたことでシイは大部分の記憶を取り戻した。

 しかし、エトと十二支たちの記憶は彼女に受け継がれるが、彼女の記憶はエトと十二支たちに受け継がれない。いや、厳密にいえば受け継がれてはいるが、読み取れない。

 なぜなら暗号化された記憶がそれを解く鍵と一緒に分割されて各々に配られているようなものだからだ。そのため分割された記憶と鍵を単体で持っていても意味がない。全てを統合した存在であるシイだからこそ砕かれた記憶を繋ぎ合わせ、取り戻すことが出来たのだ。


「そもそも私達って今どうなってるの?」

「そうですね。前世で獣化と憑依融合により主と一心同体となった私達は、主に相乗りする形で転生を果たしました。その結果、より一層主との結びつきが強くなり、互いが混ざり合うことになったようです。皆様もお気づきかと思いますが、前世とは分かり易く異なる点があるでしょう?」

「お胸がおっきくなった気がします!」


 自分の胸を両手で持ち上げながら元気よく答えるヒヨに続いて「私も」という声が次々と上がる。各々が確かめるように己の胸を手にしてみれば、前世ではなかった重みと弾力を感じる者が多数いた。


「ママもそうですね~。これでお乳が出るようになっていれば完璧だったのだけれど」

「お姉さんはそんなに胸の大きさが変わった気はしないわね。なぜか、お乳は出るようになったけれど」

「あらあらまあまあ~、この丑さんは~、喧嘩を売っているのかしら?」

「お、怒ることではないでしょう」

「こらこら今は止めなってー」


 チウを威圧するママを隣のヨウが宥める。しかし、彼女のまた出る側であるため、火に油であった。


「うむ、つまりこれはあるじの欲による影響ということかの?」

「正解です。主の煩悩と結びついたことで私達の姿が変化したのです」

「即ち豊満な胸が殿の好みと? もっと胸を強調するお召し物に着替えた方がよろしいでしょうか?」

「それは今更じゃない?」


 十二支は既に誰もが胸を強調するような服を身に纏っている。比較的露出の少ない着物姿のミミでさえ花魁のように胸元を大胆にはだけているのだ。また、普段の行為からエトが胸を好むことなど彼女たちにとって周知の事実であった。


「ただ、良いことばかりではなく、記憶障害などの問題も発生しているようです。もっとも誰しも赤子であった時のことを覚えていられないように、前世でのことが朧気なのは当然のことなのかもしれません」

「じゃあ、ユウさんとシイさんは一体? 私達とはどう違うのです?」

「もうほとんど覚えていませんが、かつて私の大本である二人で一柱の神である姉妹は主と共に過ごすために己の力を十二に割き、皆様へ分け与えました。そうして残った最後の一つを宿して主の元へ舞い降りたのが私です。そして、皆様に分け与えた力と主の力を統合した存在がシイ様であると考えます。もっとも記憶にないので確かなことは言えませんが」

「結局、よく分かんないんだけど。姉妹って誰さ?」

「大本の姉妹はまあ、前々世の私と思って下さい。それにしょうがないじゃないですか。私も皆様と同じで覚えていることは断片的ですし」


 ボンの問いに辟易とした様子でユウは答えた。次いで思案顔のチウが問いかける。


「なにか他にユウちゃんが覚えていることはないかしら?」

「そうですね。主との出会いであればこの魂に焼き付いております」

「うわぁ、それはそれは長くなりそうですね~」


 ママは微笑みながらも棘を感じる言い回しで言った。


「あれは大本の私達が暇を持て余して下界を眺めていた時のこと。水浴びをする主の姿が目に飛び込んできたのです」


 転生した今でもあの光景が瞼の裏に焼き付いている。

 雄々しく逞しい天性の肉体を基に、無駄を削ぎ落し磨き上げた彫刻のようでありながら、その赤みがかった浅黒い肌が溢れんばかりの生命の脈動を感じさせる。そこへ濡れた黒髪が首筋から背筋へかけて張り付き、筋肉沿って水滴が滴り落ちる様はこの上なく煽情的で、極めつけにあの眼。曇りなき眼と視線が交差した瞬間(勘違い)、ないはずの心臓が脈打つのを確かに感じ取ったのだ。


「出会ってないじゃん。ただの覗きじゃん」とボンは呆れた。

「そこで私達はすかさず主が脱ぎ捨てていた衣と神器を回収しました」

「えっ、何で? 意味分かんないんだけど」とエンは困惑する。

「そして、近場にいた娘に神託と共に分割した己の力を与え、困り果てる主の元へ誘導したのです。確か、ネネさんの前々世だったのような気がします」

「衝撃の事実なんですけど!?」


 自分の名前が出てきたことでネネは驚きの声を上げた。

 前々世のことなどもはや己の名前さえ覚えていないが、あの日の光景は今でも鮮明に思い出せる。

 雄々しく逞しい天性の……以下略。


「申し訳ありませんが、主のこと以外はあまり記憶に残っておらず、主とネネさんの間に何があったのかまでは……」

「この話いつまで続くのー? マッチポンプな上にまだ出会ってすらいないんだけどー」


 面倒くさくなってきたヨウが先を急かす。その要望に応えてユウは話の大部分を省略することにした。


「では、なんやかんやで転生を繰り返す主を見守りつつその周囲の人物に神託と力を与え続けた私達は高禍原を創造し、魔装化を用いて転生させた前々世の皆様を前世では一つの一族にまとめ上げ、共に地下宮殿を建設。そこへ主を拉致監禁することに成功します」

「言葉を取り繕うこともしなくなったな。いや、妾たちも共犯ではあるが」


 フウは過去を懐かしみながら言った。人の道からは外れていたが、色んな意味であの頃が最も絶頂を極めた時期であったかもしれないと。


「そうして主と一心同体となり、目的を達したかに思えた私達でしたが、憎きあの男の襲来で全てはご破算に」

「な、なんだか、ここまで聞いた話だと向こうの方に正当性があるような」


 よよよと涙を見せるユウに対し、花天卯ハナは恐る恐る純然たる事実を口にした。もっとも向こうは向こうでエトとの殺し愛を望む異常者ではあるのだが。


「そうして、分けた力を統合して抗うことを決めた所までは覚えているのですが、それからのことは記憶にありません。ですが、こうして転生している以上、相打ちにでもなったのでしょう」

「えっ、終わり?」

「端折り過ぎてユウちゃん出てきてなくない?」

「ユウさんの大本が黒幕だったということは分かりました」

「皆様も前世と今世では共犯者ではありませんか」

「取り敢えずご主人様に土下座して欲しい。頭がめり込むくらい」

「全裸土下座ですか。行為の導入としては悪くないですね。今度試してみましょう」


 十二支たちは口々に辛辣な感想を述べるが、ユウはまるで堪えた様子がない。


「あ、あの、皆さん! 今回のことのお詫びも兼ねて、皆で精一杯マスター様にご奉仕しませんか?」

「「「「「「「「「「「賛成~!」」」」」」」」」」」


 勇気を振り絞った体でありながら、その実欲望に濡れたハナの提案は満場一致で賛成を得たことで即座に可決された。



「というわけで先日のお詫びに一人二時間交代で丸一日、全力でご奉仕させて頂きます」

「まだ搾り取る気かよ。つーか、それだと俺の時間が無いじゃん。帰れ」


 あれから数時間かけて女の喜びを教え込まれつつ深度3から深度2へと切り替わり、女としてのエトの姿にヒートアップした十二支たちに攻められ続けることさらに半日。男に戻って怒りの反転攻勢からの多勢に無勢で敗北に一日費やしたエトはすっかり疲れ切っていた。

 そのため十二支たちは提案を却下されるどころか丸一日出禁を命じられてしまう。無理矢理食い下がろうとする者もいたが、破れば二度と口をきかないと言われては泣く泣く退去する他なかった。


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