「第6話」迷宮攻略1
迷宮。
それはある魔法使いが、悪魔界に続くゲートを封鎖するために創り出した建造物。迷宮は魔法使いの魔法によって作られたものらしく、とても頑丈な造りになっていた。その頑丈さを知ってか否か、日本に住まう人々はその異常すらも日常の一つとして思うようになっていった。
だから知らない、現在悪魔界で魔法を扱うことに長けた悪魔たちによって、迷宮の解析が行われていることを。
本来なら魔法の解析など悪魔にとっては朝飯前なのだが、魔法使いの魔法は強力かつ複雑化していて悪魔ですら解析に時間がかかってしまっていた。だがそれはもうじき完了する。解析が済み、悪魔たちが人間界に侵入してしまっては生物として劣っている人間では悪魔の大群には敵わない。では人間はこのまま滅んでしまうのか...。それは否である。
世界にはバランスという概念が存在する。悪魔界からの侵攻という危機にもバランスを保つため、それは君臨する。
もちろんそれはかの有名な「将軍」ではない。彼女も悪魔界と人間界のバランスを保つために誕生した選ばれた人間であるが、まだ足りない。
それは人間の守り手。人々の憧れ。悪魔という驚異に対抗すべく産まれる運命にあった抑止力。
「将軍」よりも大きな重りとなり、天秤を支えるそれは、異能『人類の防人』を携え、導かれるまま歩み始める。勇者として...。
ーーー
全五階層ある迷宮の二階層目でゴブリンを狩っていた僕は、異能の扱いに慣れないせいで未だにゴブリンに苦戦を強いられていた。主に『原子支配』を活用し刀を創り出し、振り回す。刀の扱い方を知らない僕はガブリエルさんに口出しされながら立ち回りを学ぶ。ゴブリンは群れる習性があるため近くのゴブリンだけに目を向けるのはダメなのだそう。今まで戦い自体を経験していなかった僕にとっては相手が複数いるだけで頭がパンクしそうだ。
そんなことを考えていた時、一瞬離れた所から弓を構えるゴブリンが目に入った。そのゴブリンは弓に矢をつがえて射るところだった。狙いが定まったのか僕を見てニヤリと笑みを浮かべる。
「まずい!」
そう思っても僕は刀を創造することしか覚えてないので対応しようがない。ガブリエルさんに助けを求めようとしたが、ふと今使ってる異能の名前を思い出した。
「そうだ...原子を操れるのなら空気中の原子を使って!」
刀を無造作に創りだした僕は空気中の原子に乗せゴブリンに飛ばすイメージをする。しかしイメージが足りないのか、とっさに創ったボロボロの刀は宙に浮いているだけで動こうとしない。あー....相手の攻撃食らっちゃうかなこりゃ。
「湊様!貴方様にはもう一つの異能がございます!」
ん?いやわかってるよ。『天使の采配』でしょ?でもあれは戦いの場面ではとても使いにくいんだ....
『制御』
あ!そういえば『原子支配』と同時に扱うことで正確に原子操作が可能になる機能があった!
僕は思い出したように「天使の采配」にも意識を向ける。すると、主の命令に呼応するように制御能力を上げた刀が勢いよく飛んでいく。刀はゴブリンが弓を弾くよりも早く、あっという間にゴブリンの腹部に突き刺さった。
「ふう」
原子支配の新しい使い方を学習し、それを成功させた僕は達成感から気が抜けてしまった。それを感じ取ったのか、背後にいたらしいゴブリンが僕に攻撃を仕掛けてくる。
「湊様、もっと視野を広く持ちながら戦わないと背後を取られてしまいます。」
そう言ったガブリエルさんは、僕の背後に回って攻撃を仕掛けてきた二匹のゴブリンを愛刀だという剣で一薙ぎ。無駄一つない動きで、ゴブリンの断末魔を聞く前に命を刈り取る。ゴブリンの血が刀に付着し、不機嫌そうにしている彼女を見て、本当に天使か疑いたくなってしまった。なんなら悪魔にしか見えない。多分それを言うと彼女はまた不機嫌になるだろうから何も言わないでおく。
「少し長く戦ったのでこの辺で小休止はいかがでしょうか?」
名目上配下の手前、格好つけて何も言わなかったがその提案はありがたい。どのくらいエネルギーを集めたのかも確認したかったし、さらにはガブリエルさんの異能のことについて聞きたかった。もし今後連携する場面にあった時に備えガブリエルさんのスペックについて知っておくのはいいことだと思う。僕の異能は知られてガブリエルさんの異能はわからないんじゃ不公平だしね。
そんなこんなで座れそうなところに座り、持ってきていた携帯食料を貪る。ガブリエルさんにも分けようとしたが人間じゃないので食べないのだそう。そもそも食事を必要としてないのだから当然っちゃ当然か。
そんなことを考えながら携帯食料を食べていたら、時々可愛いなどと呟きながらガン見してくる。とても食べにくい。空腹とか関係なしにガブリエルさんにも食べさせれば良かった。
少しの沈黙が続き、気まずくなった僕はガブリエルさんに話を振る。
「そういえば、ガブリエルさんの異能について詳しく聞いてなかったんだけど聞いていい?」
「勿論でございます。」
そういったガブリエルさんはこちらに向き直り手を前にかざしてくる。こちらのアクションを求めているわけではないようだったので黙って待っていると、頭の中に情報が流れてくる。
『読神術』、、、『読神』『読心』『力量看破』の機能を備えた異能
『読神』...契約者の考えをくみ取ることに長けた能力。契約者との完全連携が可能となる。
『読心』...相手の考えていることがわかる能力。相手が格下であればあるほど精度が向上する。
『力量看破』...相手がどれくらいの実力があるのかを鑑定する能力。鑑定の基準は能力の数、性能、オーラ。相手の技能は正確に判断できない。
ほらね、怪しいと思ったんだ。僕の考えを見透かされてるとずっと思っていたけどやっぱり黒だった。
ガブリエルさんを怒らせるのは危険だ。さっきのゴブリンのようになりたくないし、ガブリエルさんには特別優しくしようと心に誓った。でもこの異能って、、、
「ガブリエルさんの異能って僕と似て直接戦うには不向きな気がするんだけど、なんでそんな強いの?」
気になったことを素直に聞いてみた。
「私達天使はある方に異能に頼った戦い方をするなと教えられてきましたからね。私より強い個体が知り合いに一人いるのですが、その個体も戦いには不向きな異能を持っております。」
そうなのか。ある方というのが気になるんだけど聞いていいのかな。
「そういえば!ゴブリンを数匹倒しましたが、どれくらいエネルギーは貯まったのでしょう!」
この天使僕の心を読んだのか話を逸らしやがった、、。今は聞いてほしくないのかな。まあ僕も確認したかったし丁度いいか。
ー上ノ瀬湊ー
・異能・・・『原子支配』、『天使の采配』
・獲得可能な異能数・・・7つ
・エネルギー貯蓄量・・・37%
こんな見方できるんだ!
なんかゲームのステータス画面みたいでわくわくする!いずれ攻撃力とか見えるようになったら楽しいだろうな〜
エネルギー量は37%とやや増えている。確かゴブリン一匹あたり2%の上昇量だったから5匹倒したことになるのかな。全然倒してないじゃん、、、
「ま、まあこれからたくさん倒せるようになりますから!」
ガブリエルさんに慰められた。ちくしょう!息するようにように心を読むんじゃないよ!可愛いから許すけども!
その後何気ない会話をしてこの小休止を過ごした。
エネルギー量の下りから十数分後、湊とガブリエルはピクニックでの昼休憩を終えたかのように3階層の攻略を開始する。
湊は少しずつ今まで体験したくてもできなかった「非日常」に溶け込んでいく。




