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天使か悪魔か人間か  作者: なー
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「第5話」配下時々師匠

先ほどまで配下として僕に対しとても丁寧な口調だったガブリエルさんが、無いはずの眼鏡を押し上げるしぐさをするところから僕の修業が始まった。そもそも僕は異能とは何か、異能はどう使うのか、そもそもエネルギーとは何かも理解してない素人だった。『原子支配』の扱い方以前の問題な気がするなあ...。そうなると、どこから聞くべきか。


「ではまず『原子支配』とはどういった異能なのか詳しく教えて下さいませんか。もちろん、他者に漏らすという愚行は誓って致しませんのでご安心ください。」


「そこは信用してるよ」


なぜ僕が会って間もない女の子をそこまで信用してるかは僕でもわからない。けど、僕の頭が大丈夫と思ってしまっているのだ。不思議だ。


そんなわけで、僕は天使さんから貰った異能の解説をわかっている範囲でしてみた。『天使の采配』の説明が長くなったのは言うまでもあるまい。そもそも教えてもらいたい『原子支配』はわからないことが多すぎる。魔法は対象外としているようだけど、魔法ってこの世界にあるの?異能は魔法とは違う気がするし。


おっと、本題はそこじゃない。問題は原子を扱えるだけじゃ攻撃にならないという点だ。原子って物質を形成するのに必要なめっちゃ小さい粒子でしょ?そんなのをどうやって攻撃に使うってんだい。ちっちゃすぎてぶつけても痛くないでしょ。 


「な、なるほど。湊様、もしかしてその異能は何か制限がかけられていたりとかは明記されていますか?」


「いや、かけられてないと思うよ。異能見たとき表記されてなかったし。」


なんか驚いてるみたいなんだけど。もしかして、すごく頭良くないと扱いきれないとか!?僕文系なんだけど...。原子核ーとか言われても覚えてないよ。


「湊様。まず、その異能を扱うにあたって原子核などの知識は今すぐに忘れて下さい。」


やっぱりガブリエルさんって僕の心を読んでるよね?そういう知識がいらないのはありがたいけど怖いよ。


それにしても、異能って理解して正しく使うもんだと思っていたのにそうじゃないのか。身近の異能持ちはとてもわかりやすい異能だったから比較対象が居なくて分からなかったや。


「まず、異能の世界はイメージが全てでございます。理解は大切ですが、戦いの場面ではどれだけ自分の戦いをイメージできるか、そしてイメージを実行できるかが勝利の鍵となってきます。」


ほうほう、イメージが全てか。僕の得意とするところだ!それでも原子への理解が足りなさ過ぎてイメージすら湧かないんだけど。原子をぶつけて戦うのは確実に違うから...。あ、そういえば物質全般が原子の塊じゃなかったっけ。


「じゃあさ、原子をそのまま使うんじゃなくて剣とかにして戦うのはどう?剣なんて使ったことないから扱い方が不安要素として残るけど。」


「いいですね!そういう使い方ならイメージを持つだけで本質的な理解とはかけ離れています!今の湊様にピッタリな戦い方かと!」


途中まで嬉しかったのに最後にディスられたんだけど...。一応契約では僕の配下なんだよね?誠に遺憾なんだが?


僕は心の中でそうぶつぶつ言いながらさっそく剣を構成するイメージをする。さっきガブリエルさんに言われた通り、理解しすぎないことが今の僕には大切なんだ。鋼や鉄で作るからではなく、丸っこい原子をくっつけまくって完成形である物質だけを想像する。過程をすっ飛ばして構成することが早いし楽でイメージしやすい。完成形は僕がイメージしやすい刀でいっか。刃がまっすぐ伸びるのではなく少し弧を描くイメージで。


そうしていくうちに、僕の手のひらには光を発しながら形作られていく刀の姿が。


「え?」


何やらガブリエルさんが驚いているようだがこの調子なら、慣れたころには剣の雨を降らせることだってできるかもしれない。なんてロマンあふれる異能なんだ。


「も、もう完成したのですか?イメージが大切と言いましたがそこまで早く...」


「んー、多分僕が文系だからかな」


まさかこんなに速く具現化できるなんて思わなかったから、文系だからと適当なことを言ってごまかしておいた。だって自分でもわからないんだから答えようがないじゃんか。『原子支配』の使い方はしばらくこんな感じでいいか。物を創造できる限界点とかは練習していく中で知っていこう。あと知らなきゃいけないことは...。


「異能の後になっちゃったけど、オーラの抑え方も教えてほしい」


「あ、そういえば」


この天使さん忘れてやがった。オーラの抑え方を教えて欲しくば配下にしろと言ってきたのに、あんまりだ。


「そこまで落ち込まないで下さいな。異能を扱えるようになった湊様なら簡単すぎて教えるまでもないので少しイジワルをさせて頂きました、お許し下さい。」


完全に僕のことをなめている。確かにガブリエルさんは音もなく僕の背後に現れたから、僕より断然強いのは異能を扱えていなくてもわかる。ガブリエルさんの異能とか今度聞いてみよっと。そんなことを考えていた僕に、ガブリエルさんは続ける。


「何回もお話しましたがこの世界において戦いはイメージが全てでございます。それはオーラにも同じことが言えます。何が言いたいかというとオーラを引っ込めるイメージをするだけでいいのです。普通の人間はオーラなんて放てませんのでイメージが難しいかもしれませんが。」


ここでもイメージなのか。案外僕に優しい設計になってるな。それでもオーラを抑えるイメージか...。手を使わず手繰り寄せるイメージはしにくいから...何かを内に秘めるイメージならしやすいかな。


考えがまとまったらさっそくやってみる。内に秘めるイメージ。僕に漂っているであろうオーラを吸い寄せるイメージ。イメージはしてみてるけどできてるのかまったくわからない。


「できてる?」『ああ、いい感じだ』


「はい、とてもお上手ですよ!」


ん?なんかもう一人の声が聞こえたような気がする。そう思って辺りを見渡してみたけど、薄暗いこのエリアには僕とガブリエルさんしかいない。上層には他に人がいるだろうけどここまで聞こえてくるとは到底思えない。


「ガブリエルさん、誰か他の人が話してる声とか聞こえないよね?」


自分から聞いといてなんだけど聞き方すごい怖いな。ホラー映画のセリフとかにありそう。


「いえ、()()()のお声しか私の耳には入っておりません。」


そういったガブリエルさんはニコッと綺麗な笑顔を見せてくれた。その笑顔は僕に見せていた笑顔とは少し違った気がしたから思わず見つめてしまう。数秒間ガブリエルさんと見つめあうという、ラブコメならフラグが立つイベントが発生したのだが、それを折ったのはガブリエルさんだった。


「どうかなさいましたか、()()?」


「あ、なんでもないよ」


ガブリエルさんはとても不思議な人だ。僕の配下になりたいと言ったり、僕にすごい丁寧に話してくれる。かと思ったら僕のことをナメてくるし。なんで僕の配下になりたいなんて言い出したんだろう。一番初めに聞くべきことを聞いていなかったな。今度時間がある時に聞いてみようかな、答えてくれないだろうけど。


「では湊様。異能を扱えるようになりましたし、オーラの制御もマスターなさいました。これからこの迷宮を攻略してみませんか?」


迷宮攻略。一般的に異能を扱う人間は迷宮を攻略しても特に意味をなさない。なぜなら得たエネルギーに使い道はないから。迷宮攻略に必要なボスは倒すと多くのエネルギーを獲得できるが、実際に迷宮を攻略する人は迷宮を攻略したという実績が欲しい人か訓練の一環で攻略する人くらいなのである。その結果として今の日本にある迷宮はほとんど全てが未踏破なのである。この迷宮も例に漏れず未踏破の迷宮なのである。しかし、今の僕は...。


「僕はエネルギーを有効活用できるから迷宮攻略はむしろすべき...。」


「その通りでございます。この迷宮は比較的難易度が低めなようなので修業には丁度いいかと。想像してみてください。一般人は迷宮を攻略した実績と疲労だけが残りますが、湊様は迷宮を攻略するたびに強くなるのです。私より強くなるのも時間の問題かと」


ごくりと生唾を飲み込む。強くなりたい僕にとってその甘言に耳を貸さないわけがない。噂によると世界最強と言われているあの「将軍」も才能に恵まれ、究極の異能を持っていると聞くが根本的な力の向上はないのだそう。すさまじく熟練度を上げているのもあり世界最強の地位を欲しいままにしているようだが、僕は根本から強くなれる。今のところ異能の許容量は『原子支配』『天使の采配』を抜いて七個あるので限界値はあるだろうが強くなれるのならなっておくべきだ。


「湊様、ワクワクなさっておりますね?その可愛らしいお顔を見ればわかります。私も同行致しますので安心して迷宮攻略をなさってください」


その言葉で僕は決心する。我ながら扱いやすい人間である。


「うん、わかった!」


フンスと鼻を鳴らし将来の自分を妄想してニヤける。ガブリエルさんもいるし敵を片っ端から倒してエネルギーにしてやるぞ!そう意気込んで迷宮の奥地へと足を進める。


ーーー


迷宮の奥地へと足を進める彼を見つめながら私は思う。


(なんて可愛らしいのでしょう!あの方にそっくりなんだから)


そう、私は異能の説明を受けたときから彼のとんでもなさに驚きつつ納得もしていた。私を生み出し指導してくれたあの方にとてもそっくりなのである。異能の内容もあの方と似通っていて性格も似ている。ここまで私の愛したあの方に似ているせいか、すでに惚れてしまいそう。そんなことを考えていた私に...


『こいつはもう俺みたいなもんだから愛するならこいつを愛してやってくれや。もう俺の実体はないんだし』


「はい、承知いたしました。()()()の分まで湊様に尽くさせて頂きます。」


『ああ、そうしてくれや。あとよ、お前の同僚もこいつの配下にさせろ。あいつらもお前と同様に勘がいいだろうから自分から配下になりたいって言うだろうよ。時間がある時に頼むぜ』


私だけでは不満なのかと言いたかったが、そんなことを言ってしまって嫌われたくないので大人しく従う。これも惚れた弱みなのか。


ここで一つ気になることを思い出した。私の異能『読神術』で彼の心を読んだときついでにどのくらい強くなるのか参考程度に拝見した。驚くべきことにあの方ですら薄っすら底が見えたのに彼は力の底が見えなかったのだ。いくら強くなる異能を持っているからといって際限なく強くなるわけではない。それとも、これから際限なく強くなれる異能でも手に入れるのであろうか。彼は私だけでなく、あの方すら超えてしまうのか。


そんなことを考えていた彼女、ガブリエルは頬を染めながら湊を見つめていた。

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