「第2話」選定<覚醒
今回も楽しんで頂けると幸いです。
現在の日本は、都道府県とは別に悪魔界へと続く扉が開かれる頻度が多い順番にⅠからⅧのエリアに分かれていた。悪魔に対抗するために団結した結果である。
各地域は協力し合い、今この時まで大きな被害無しに悪魔の撃退に成功している。そんな八つの区域の中、東北地方と呼ばれるエリアⅢでは月に一度開かれる「悪魔対策会議」がある建物で行われていた。
「悪魔対策会議」が開かれる一室は八つの区域いずれも防音に優れた部屋となっている。今回も、円形のテーブルを囲むように座った男達が議題について話し合っていた。
「して、今回のゲートの出現増加についてどう思う」
そう、今回この会議が開かれた理由がそれだった。エリアⅢはエリアⅠと比べてゲートの発生件数が少ない。しかし、ここ数日でエリアⅠ並みにゲートが増えているのは無視できない問題であった。
「どう思うもあるまい、小一時間話して結論が出ないのだからさっさとあの女を呼べばよいであろうが!あやつもエリアⅠ並みとなれば重い腰を上げてくれるだろうて」
それができたら苦労はしない、皆がそう心の中で思っていた。あの女とは世間で「将軍」の二つ名で呼ばれている世界防衛ギルドの序列一位、言わば世界最強。
さらに言ってしまうと、彼女は美人である。皆の前に出てくる時は決まって髪を一つに束ねていてその圧倒的な美貌で世界一美しいとも言わしめている。実際に大手企業の社長息子に求婚されたことがあるそうなのだが、断ったのだとか。彼女が言うには、
「んーー、私より強い男でないとお話にならないので」
大手企業の社長息子相手でもそう言いきってみせる胆力から、彼女は本当に世界最強なのだと皆に思わせたのだ。それと同時に世界最強より強い男などこの世には存在しない、一生独身だと一部のファンが安堵している始末。
「あの怪物は来てくれないであろうな、魔王が顕現しない限り...」
そういった男は一度その女を見たことがあった。自分も異能持ちだというのに彼女から感じたとてつもないオーラは男の体を硬直させた。
象と蟻を比べているような感覚。その経験から、そんじゃそこらのことでは出向いてくれないと確信していた。
その言葉を聞いて沈黙する会議室。動きを見せない会議室とは逆に、数ヵ月ぶりに「象」は動きだした。自分が探していた人の気配を察知して。
一一一
世界防衛ギルドの方にちょっかいをかけられてから2時間ほど、休憩を挟みながらランニングをした僕は帰路についていた。今日は休日に毎回行っているランニングを終わらせ、近くの公園で少し筋トレをした。毎回やっているこの一連の作業も体が軽いおかげで楽しかった。
家のドアを開けシャワーを浴び、朝食を食べながらテレビを見ていた。テレビ画面には毎日のように取り上げられている悪魔に関するニュースが映し出されていた。負傷者が出たことや世界防衛ギルドの活躍など様々な形で人々の興味をひこうと努力しているのが垣間見える。
自分もそっち側で生きたかった。異能を手に入れ、お金を稼ぎながら強くなる。そんな人間らしい欲望を持っていたのだけど僕はお金より力が欲しかった。別に喧嘩がしたいわけではない。勉強が得意ではない僕が一番になりたいと思ったもの。命に関わることだからスポーツ感覚で考えるようなものではないのかもしれないけど。
だけど、今は目標を掲げることすらできない。僕は選ばれなかったのだ。悔しかったから筋トレやランニングをしているけれど、そんなことで強くなれるなら異能なんていらない。
なんなら僕の場合、体に謎の違和感が発現するという持病つき。今はその持病が綺麗さっぱりなくなっているけど、またいつ体の違和感が再発するかわからない。
一悔しい、力が欲しい一
「貴方は選ばれました、貴方に力を授けましょう」
僕の目標を掲げるための一声が聞こえた。毎日のように今日は聞けるかなと待ち望んだ一言。
「えっ!?」
咄嗟に後ろを振り向き立ち上がるとそこには光輝く人が立っていた。その光輝く人は二枚の翼、頭上に輪を浮かせるというとてもわかりやすい姿をしていた。天使だと一目でわかった。
「僕に力を下さい!」
ずっと願っていたことだったから、相手が本物の天使ではないかもしれないのにそう叫んでいた。天使は少し目を見開いて驚いていたが、
「いいでしょう、貴方に私の能力の一部を与えましょう」
そう言ってくれた。
一一一
少し殺気を感じたけど、無視して地上に降り立つ。
地球に来るのも二度目。私は働き者だと自画自賛し、能力を与える人間を探す。力を与えるのだから悪用しないような優しい子を選ばなきゃいけない。
人間には見えないように姿を消し、二枚の翼を羽ばたかせながら辺りを彷徨うと、一人の男の子を見つけた。ランニングをしていたようで、汗だくの彼はどこか懐かしさと優しさを感じさせた。
家に到着したようだ。シャワーを浴び、朝食を取っている。もちろんお風呂は覗いていない。人間はお風呂を覗かれるのを嫌がるらしい。たかが裸を見られたからと言って何かあるわけでもないのに...やはり人間と天使は相容れないところがあるようだ。落ち着いたようでテレビを見ている彼に早速声をかける。私は短気なのかもしれない。
彼は驚き振り返る。私たち天使は人間に認識させようとしなければ人間からは私たちを見ることができないのだから、驚くのも無理はない。
彼は食い入るようにように力を欲し懇願する。あれ、この子優しくないのかなとこちらが驚いたがそんなことはない。私たちには心の「色」がわかるのだ。彼は優しい子なのである。だから力の一部を与えることを了承した。彼はとても嬉しそうだ。
ここからが大切で、彼の力の器の許容量を測らなくてはいけない。中には天使の力の一割を与えただけで器が飽和してしまう子がいる。そんなことにならないために彼の力の底を視る。魂の奥に器を発見し許容量を測ろうとして気付く....
(なに...これ....)
常人の何倍もの大きさの器に何度かそれが満たされた痕跡、さらには満たしたエネルギーを異能に変換させ何度も捨てていた痕跡まで見つかった。
これじゃない、これじゃないと異能を選んでいるように
そんなことあってはならない。力を与えるのは我々天使で、人間が自力で異能を獲得する例なんて聞いたことない。でもこの子がそんな芸当を可能とする子なら私達天使が気付くはず!
この子はエネルギーの原理すらも理解していないし、扱い方もわかっていない様子だったのだ。内と外で違う人を見てるみたい....
(いったい誰が異能を値踏みしたっていうの!?)
まさかと思い、私は器の内側を覗くと今朝まで満たしていたであろう痕跡を発見する。今回で八回目の値踏みのようだ。しかし今回は手に入れた異能を捨てていないみたいだった。捨てていないのならと異能を調べてみた。
『原子支配』
その文字を見たと同時に、誰かに見られているような感覚に陥った。周りに人はいない。けど、たしかに私を舐めまわすように見ている。こちらからは誰に見られているかわからない。しかし確かに私を値踏みしているような嫌な視線を感じた後あることに気づいた。
(異能を値踏みしていたのって....!!)
『君、いいね~~~!』
福音が響き、私の意識は暗転する。
読んでくださってありがとうございます!
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