何だか気になる隣の席の後藤さん。
「ガタガタ」
立て付けが悪いためかスムーズに引けない。
木でできた古臭い。いや、雅な歴史を感じる扉だ。
ちょうど、人一人が横になれば通れるぐらいのスペースな空いたので制服を擦りながら入室する。
クラゲのようになびくカーテン。
それとは対照的な彼女。
窓際に座る彼女はいつものように本を読んでいた。肘を付き、顎を支えながらページをめくる。その動作動作が浮世離れしていて、正直見惚れていた。
雪のように白く、触れたら溶けてしまうような危うさを孕んだ肌と艶のある髪。
僕が人形にペンキとニスを塗っても再現できないだろう。
「後藤さん、今日も早いね。おはよう」
「……。」
時が止まったような錯覚を得る。だがページをめくる音によって非常な現実を知る。
本日もデイリーミッション達成である。
八時に時になればチャイムがなるように、後藤さんに挨拶をすれば無視される。
これが世界の理であり、今日という日の始まりであった。
このハシビロコウ女は恐らく、信仰する宗教によって男性への挨拶が禁止されているのだろう。そうでなければおかしい。
異様なキャッチボールの光景に憤慨しながらも席に着く。
対象との距離は約三十センチ。十分撲殺が可能な範囲である。
応答せよ、繰り返す。応答せよ。殺害の許可求む。
「ビクッ」
殺意を練り上げていると目標に動きがあった。女は左の方向を凝視している。
あれ、というか僕?
「た、橘くん。居たんだ?」
え。
あー、気づかれてなかったのか。そうであるなら仕方ない。誰だってそういう時もある。
「うん、後藤さん。おはよう」
「おはよー」
美人の表現として人形のようという比喩は正しくないのかもしれない。
だって、こんなふうに人形は笑えないから。