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カーマン・ライン  作者: マン太
その後

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日向ぼっこ

 僕の名前は、アルコ。

 今、僕は二人の憩う姿を、温室のガラス張りの壁の間からそっと覗き見ている。

 その二人とは、僕のいる孤児院の院長、アレクとそのパートナーのソルだ。

 今日も温室内に置かれたベンチで仲良く日向ぼっこしている。

 そこは、敷地内の奥まった場所にある温室。白や赤のミニバラ、黄色の金魚草、フリージア、ピンクのデルフィニウムに薄紫の桔梗。ありとあらゆる花々が咲き乱れている。

 奥まっているため、早々ひと目につくことはない。そこをアレクとソルは憩いの場としているのだ。

 僕はここへ来て数カ月後。敷地内の探検に出掛けて偶然、そんな二人を見つけた。

 ソルはアレクの膝を枕にすっかり寝入っている様子。そんなソルを見下ろすアレクの眼差しは、誰に向けるより優しい。

 あんな風に優しい眼差しで見られたいけれど、如何せん、僕は悪戯っ子で天邪鬼だから、全然そんな目で見られる事はない。

 いつもソルを困らせて、アレクに睨まれるのが落ちだ。

 わかってる。ソルを困らせたって仕方ない事を。


 でも、甘えたいんだ。ソルみたいに優しくていい大人を見たことがなかったから。


 アレクとソルは、孤児院の他にも色々やっている。と言うか、孤児院もその一つで。

 他には大きな施設を使って野菜を作ったり、惑星内の探査をしたり──主に危険な動植物の調査、管理、時には処分だ──他にもあるらしいけれど、主なのはそれで。

 ああ、忘れてた。僕たちの為に学校の様なシステムもある。

 きちんと単位を取って修了すれば、それぞれの卒業資格も取れるのだ。

 学科教えるのは主にユラナス、アルバ、ゼストス。数学に科学、歴史に地理に言語。情報もある。その他、色々な事を教えてくれる。

 ちゃんと興味が湧くよう導いてくれ、単なる詰め込みではなく、知識になるよう教えてくれた。

 僕は体術や射撃以外は得意じゃないけど、言語や歴史は他のよりは楽しい。

 ユラナスは色々な国の言葉が話せて、凄いなと思う。発音も正確で教本の様だとアルバは言っていた。

 そのアルバはユラナスの補佐をしている。

 背が高くスラリとした容姿は、特に女子に受けていて、その時間中はひと言も私語をしない。勿論、授業はわかり易く、フレンドリーに接してくれる為、いつも授業は和やかに進んだ。

 情報系はゼストスだ。数学や科学、工学系も。物静かだけど、話は面白く、いつもあっという間に時間が過ぎていく。

 ちなみにゼストスは、ソルの師匠なのだと言われている。

 実技である体術や射撃は、ザインとリーノ、ラスターが教えてくれた。希望があれば船の操縦もだ。これは覚えていて損はない。

 僕は一番に願い出た。

 孤児院はまだ始めて二年ほど。それでも既に十五人、入っている。

 掃除や洗濯、食事の用意は当番制。ソルが中心になって指示を出す。ただ、ソルを始め、皆他にも作業や仕事があるため、補助に人が入る様になった。

 年配の女性と若い女性二人。三人とも、院に住込みで働いている。

 この若い二人は互いにパートナーで、背が高く黒い短髪の女性がアキラと言い、もう一人、小柄で栗色の髪の女性がリーベと言った。ザインの知り合いなのだとか。

 年配の女性はノラと言う。恰幅がよく料理好きで世話好きな田舎のおばさん風だが、地方ではまだあった、ゲリラ的なテロに巻き込まれ家も家族も失って。

 身寄りも無く途方に暮れて、つい僕ら用のボタンを押してしまったのだと言う曰く付きの女性だ。

 ノラを初めて見た時、子どもではない為、ソルは一瞬迷ったものの直ぐに連れて帰る事にしたのだと言う。

 後は用務員として、やはり年配の男性がいる。ノラより更に歳は上だけれど、全然歳を感じさせない。いつも背筋をピンと伸ばし、院の整備や庭の手入れを欠かさない。

 名前はハンス。なんでも、ソルが昔、世話になった人らしい。元は旧連合軍に所属する整備士だったとのことだった。

 ソルの昔の知り合いと言えば、ちょくちょく来る奴がいる。この男はやたら感じが悪く、いわゆるヤンキーな奴で。

 歳はソルより少し上なのに、ここにいる誰にも似ていない。兎に角、感じが悪い。

 直ぐにからかうし、チビだとバカにするし。僕はいつもケリを食らわすが、あまり効果はないようで。いつもそんな僕を笑って見下ろしている。

 名前はケイパーとか言った。

 ソルはそんな奴なのに、いつも会うとニコニコと機嫌がいい。僕よりは年下の息子のが一人いて、二人目がパートナーの女性のお腹にいるらしい。

 アレクはそんな二人を少し離れた所で黙って眺めている。

 なんとなく、気に入らないとその表情から読み取れるけれど、僕のように態度には示さない。さすが大人だ。

 アレクとソルが運営する院はここだけだけど、同じ様に関わった院がほかの惑星にある。大きいのが、エクラとベルデにあると言う事だった。

 僕らみたいに、不当に虐げられている子ども達のSOS を受けて、各地に救済に動いてくれるのだ。

 それは、簡単なシステムで。年端の行かない子どもでも簡単に連絡がつくようになっている。

 僕がここへ来られたのも、そのお蔭だ。

 それは、何処にでもある皆が使える端末で、その開いて直ぐの画面上にあるボタンに直に触れればいいだけ。

 そこから指紋認証して直ぐに調査が入る様になっているらしい。中には親などに叱られ、その腹いせに連絡する奴らもいて、その見極めも大変なのだとか。

 僕は辺境の惑星にいて。孤児院とは名ばかりで、集めた子ども達を不当に労働させていた。

 僕はチビで肌の色も褐色で。目つきも悪く反抗的だったから、よく酷い仕打ちを受けていた。

 八歳になったある日。叩かれる友達を庇って、職員を突き飛ばしたら、運悪くそいつがよろけて転び頭を打った。

 僕たちにする体罰に比べれば、それはかすり傷にもならないのに、食事を一切抜かれ、叩き続けられた。

 もう、ダメだと思った。

 その日。閉じ込められていた倉庫のカギが、何故か偶然、開いていて──後で知ったが、庇った友達が上手くやって開けてくれたらしい──僕はそこから飛び出した。

 とは言ってもヨレヨレボロボロだ。

 顔は腫れ上がり、服は破れ泥だらけ。素足のまま歩くボロ雑巾みたいな僕に、誰も目を向けない。

 たまに視線が合っても、その内死ぬだろうと視線を反らし見向きもしなかった。

 よくある事だった。路上生活者が野垂れ死ぬ事なんて。

 お腹が空きすぎて、何も考えられない。それでも最後、僕は力を振り絞った。

 いつか院の職員が笑って下らないと話していた事を思い出し。


『哀れな子どもを保護する施設があるらしい』 


 ボタンを押すだけで来るなんてあり得ない。きっと、人買いの連中が考えた事だろうと、嘲笑っていた。

 それでも、最後の望みと思い縋ったのだ。

 そして、見事迎えが来た。

 僕は直ぐ側の路上に倒れていて。それをソルが見つけてくれた。どう見ても、路肩の隅に溜まったゴミと同じに見えただろう。

 けれど、ソルは構わず抱き上げここまで連れて来てくれた。行きの船の中で甲斐甲斐しく世話をしてくれた事を今も忘れていない。

 きっと、母親がいたらこんな感じだろうと思う。

 その後、僕のいた院は廃業になり、子どもたちは全て保護され、あるものは院に、あるものはきちんとした里親の元へと引き取られた。

 ここにいるのはそんな似たような境遇に置かれていた子どもばかりだった。下は三歳から上は十五歳まで。

 ここの院はもう定員いっぱいで、今の所、これ以上は増えないらしい。後は他の惑星の院に行くことになる。

 ソルはやはり孤児院出で、苦労したらしく、この惑星に落ち着いて暫くしてから、アレクに提案したのだとか。

 アレクは止める事はなく、ソルの提案を受け入れたがそこに条件をつけた。

 と、言うか以前からの取り決めだったらしいけれど。

 それは、一日、何処かで必ず二人だけの時間を作ること。ひと月に数日は、同じく二人だけで過ごす日を作ること。だ。

 それは、いつの間にか他の人達にも浸透して、それぞれ、自分の時間を大切にするようになったらしい。

 院のアキラとリーベもそうだ。最近はザインとラスターも動きが怪しい。アルバは医師として月に数度訪れる、ナインと言うアルバより少し年上の女性と仲良く過ごすのを目撃されている。

 リーノは農業プラントを手伝う、一見すると男の子みたいなソバカスいっぱいの元気のいい女の子、サランと仲がいい。

 この子は孤児院に来た子で、今は院を出て、職員用のアパートに住んでいる。いつもリーノとバカ話をして笑っている。

 ゼストスは──これが、変人で休みの日に嬉々として、研究にいそしんでいる。

 新しい農業用ロボットの開発やシステムの構築が楽しくて仕方ないらしい。

 時々、その様子を覗きに行くと、ソルと熱心に話し合っていて、きっとそれがゼストスの癒やしなのだと思う。

 ユラナスは、特定の相手がいない。休みの時は、ずっと仕事中のアレクや、家事を担うソルの側にいて、世話をしたり手伝ったり。

 そこはゼストスと同じらしい。癒やしは二人の側にいる事で。

 二人が休暇に出ている時は仕事を入れてしまうから、一人ぼんやりすることはないらしい。

 それぞれが、思うように生きている。

 それでも、底辺には互いの絆があって、何かあれば直ぐに集まって皆で解決していた。

 僕はここに来られて幸せだ。ようやく、生きている実感を得ている。ひとりの人として生きられている──。

 僕はそのへんに落ちているボロ雑巾でも、体のいいサンドバッグでもない。

 誰からも見向きもされない、生きていても価値のない、そんな人間ではないのだ。


 それを教えてくれたのは──。


 僕は視線の先の二人に目を向ける。

 アレクは大切そうに、愛おしそうに、ソルの髪を撫でていた。


 もう、そっとしておこう──。


 僕はそれ以降、二人の時間を覗き見るのはやめた。決して邪な気持ちで見ていたわけじゃない。見ているとこちらが幸せな気持ちになったからだ。

 でも、もう十分、幸せはもらっていて。

 これ以上、与えられてもパンクしてしまう。


 二人はずっと幸せだと分かっているから──。

 

 僕は安心してその場を立ち去った。



ー了ー

その後のお話し、最終話です。

これにて取り敢えず、完結となります。

長い間、お付き合い有難うございました!

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