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カーマン・ライン  作者: マン太
第7章 未来

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6

 離発着場に到着すると、真新しい宇宙船が停泊していた。

 純白の機体が目に眩しい。流線型のそれは、機体の型からも最新式なのが見て取れた。

 そこへユラナスは、ソルを伴いながら向かう。

 どうやらアレクは無事らしいが、やはり本人をこの目で確認しなければ安心できない。


 この中に、アレクがいるのか?


 あれから数時間は経っていた。

 会えるなら早く会いたい。無事な姿をこの目で確認したかった。

 まだ新しい匂いがする船内の通路を抜け、ブリッジへと向かう。


「さあ、こちらです──」


 ユラナスの言葉と同時に自動開閉式のドアが開き、内部の声が漏れ聞こえて来た。


「──けど、そこに戻って居場所はあるのか?」


 声の主はザインだ。もう一方は──。


「あるさ。その土地一帯を買い取った。かつての家を自分で買い戻すなど馬鹿げているが、それも仕方ない。それに、案外安く手に入った。使い道も無く買い手もつかなかったのだろう」


「しかし、一帯って言ったって、殆んど星ごと買い取った様なもんだな? 人の住める場所は買い取った場所位だろ?」


「そうだ。だから買った。それは、全て──」


 ふと、こちらの気配に気付き、視線を向けて来た。ソルを認めてその目元が緩む。


「──全て、ソルの為だ」


「アレク…!」


 駆け寄り飛びつかんばかりに抱きつく。確かな腕が、ソルの背を支えた。


「遅かったな?」


 金糸が目の前に溢れる。青い瞳がキラリと光って見えた。


「アレク…。生きていて良かった…。もう駄目かと…」


「信じろと言ったろ? だが、すまなかった。一時でも君に辛い思いをさせてしまったな…」


「いいんだ。俺だって、あなたに辛い思いをもっとさせた…」


「気にするな。済んだことだ」


 見下ろす眼差しは優しい。くしゃりと頭を撫でられ、腕の中、ほっと息を付けば。


「俺等がいるの、忘れてんのか?」


 ザインの声にハッとする。

 正直、アレクの姿を認めた途端、それ以外の全てを忘れていた。


「仕方ないさ。誰でも目の前で大切な人が倒れたら動転するだろ? ましてやあんなに血を吹き出して倒れたんだ。ソルの一番はアレクだ。俺たちが目に入らなくても仕方ない…」


 そう言ってアルバは肩をすくめて見せた。

 そのアルバは操縦席に座って出発の準備を進めている。傍らには腕を組んで睨みつけるラスターがいた。


「見せつけるのも大概にして欲しいっての。いい迷惑だよ。そういうのは二人っきりの時だけにしろっての」


「どっちに怒ってんの? アレク? ソル?」


 茶化す様にリーノがニヤ付きながら突っ込む。ラスターは更にむっとして。


「両方にだよっ」


 ザインもアルバも笑った。アレクも苦笑して見せる。

 時が昔に戻った様だった。互いの戯れ合いも終わらないうち、ユラナスが手を打つ。


「さあ。話しはそれくらいにして出発の時間です。ここでのんびりしている時間はありませんよ」


 その声にアルバは改めてコンソールパネルに手を伸ばすと、幾つかのキーを打ち込み。


「これで完了だ。いつでも号令を。アレク」


 言われたアレクはソルの腰に廻した腕に力を込め引き寄せると。


「発進を。行き先は惑星セグンドだ」


「了解」


 そうして船は滑らかに滑走路から発進し、広大な宇宙へ向け飛び立った。


 セグンドとは──。


 アレクの説明によると、そこはアレクの父親、クリストフ・フォン・ファーレンハイトが、病弱な為跡継ぎを廃嫡された後、療養を兼ねて移り住んだ場所ということだった。

 岩と砂ばかりの惑星だったが、オアシスが僅かにありそこを生活の拠点としていた。

 偶然、鉱石のある地層を見つけ、アレクの父クリストフはオアシスを発展させていったのだと言う。しかし、商売が軌道に乗った矢先、皇帝となった弟に滅ぼされ。

 その後、鉱石は尽き、見向きもされなくなった。帝国の管理下にあったのが売りに出され、それをアレクが買い取ったのだという。


「訪れるのは十歳以来だからな。買い取ってからは、居住部分のみ改築したが、あとはほとんど手付かずだ。未開の大地が広がっている…」


「そこに住む事になるのか?」


「そうだ。そこが終の住処になる。──嫌か?」


 アレクはソルの腰を抱き、引き寄せる。その瞳は悪戯っぽく光り、試すような色が浮かんでいた。


「そんなこと…。俺はアレクがいればそれで充分だ。──それに、楽しみだ。アレクがどんな場所で幼い頃過ごしていたのか」


「期待に沿える様な場所か分からないが、落胆する程ではないだろう」


「落胆なんてしない。早く見たいな」


 アレクはソルの額に口づけると、スクリーンに広がる宇宙に目を向けた。


「やっと手に入れた。自由な時間の始まりだ…」


 時を同じくして、アレク・ラハティ上級大将の死亡が正式に発表された。


+++


 その後、ケイパーは一時、留置所に拘留されたものの、暫くして解放された。


「俺は、ラハティを撃ったんだぞ?」


 極刑も覚悟していたケイパーは思わず、自由を告げた士官に詰め寄った。しかし、士官は表情も変えることなく。


「私は命令に従うだけだ。自由になったんだ。素直に喜べばいいだろう」


 そうとだけ言うと、拘留される前に着ていた服を手渡され着替えるよう指示さる。着替終わると直ぐに護送車に乗せられた。

 一体どこへ行くのかと思えば、着いた先は宇宙船用の離発着場だった。訝しく思っていれば、


「乗るんだ」


 兵士に急かされる。


「一体、どこへ?」


「着いたら分かる。早く乗るんだ」


 急かされ搭乗すれば、直ぐに出航となった。


 どこへ向かうと言うのか。


 それから数時間、高速で移動を続け、着いた先は見覚えのある場所だった。

 惑星ベルデ。連合の本拠地。そして、大切なものが待つ場所──。


「ケイパー!」


 名を呼び、その場に立ち尽くす者がいた。エッドだ。その腕に抱かれているのは──。


「生まれたの…! あなたと、私の子…。男の子よ」


「俺の…」


 よろよろと、まるで夢遊病者の様にその元へ近づく。


「名前を…決めてあげて」


 エッドが腕の中へ、まだ首もすわらない子どもを抱かせる。幼子は見える筈もないのに、こちらを見上げて来た。


「……っ」


 思わず目の端に涙が滲む。

 分かっていたことなのに、いざその小さな命の塊を手にすると、思っていた以上の感動が押し寄せてきた。


 この小さな命を守らねば──。


 それには、以前のような行動を起こすことは、二度とできないのだと悟った。また、気がつけばその気も失せていた。


 ここへ自分を戻したと言う事は、そういう事なのだ。


 アレクの采配なのか、ソルの助言なのか。

 なんにせよ、これからは自分ひとりで生きているわけではないのだと自覚する必要があった。命の重さを、その手に感じてようやく気付いたのだ。


 ソル。俺は──お前に、なんて謝ればいいんだ? 俺はお前の大切なものを、何度も奪おうとした──。


「ケイパー、行きましょう。この子が寒がるわ」


「ああ…」


 エッドに促され、ケイパーはゆっくりと歩き出した。その一歩一歩に生きることの意味を感じながら。



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