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カーマン・ライン  作者: マン太
第7章 未来

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4

 数日後、ゼストスへの面会を許された。

 ユラナスから教えられた時刻に面会室に向かえば、透明な強化ガラスの向こうにゼストスが座らされていた。俯いているため、表情を窺う事は出来ない。

 許された時間は僅かだ。早く声をかけたいと一歩進み出れば、入室した気配にわずかに顔を上げる。


「ゼストス…」

 

 髪は乱れ、その間に覗く緑の瞳は輝きを失っていた。その様子に胸が痛む。

 元はと言えば、自分の進言で捕らえられる事になったのだ。その行いは間違っていなかったとは言え、心が傷まない筈はない。


「ソル…。本当に、無事だったんだな…。良かった…」


 やつれた表情の中に僅かな光が浮かんで見えた。ソルはガラス越し、更に一歩近づくと、


「こんな事になったけれど、俺はゼストスに感謝してる…。ステーションにいた五年も、その前からも、ずっと側で気にかけてくれた…。俺が整備士として一人前になれたのもゼストスのお陰だ。今更だけど…。ありがとう」


 しかし、ゼストスは首を横に振ると。


「俺は…自分のしたいように、していただけだ…」


「それでも、俺は随分助けられた──」


「俺は…っ!」


 ソルの言葉を遮るようにゼストスが声を荒らげた。監視員が視線を向けてくる。それに気づいて、ゼストスは声を抑えると。


「俺は──君を誰かに取られたくなかっただけだ…。自分勝手な思いで側にいた。単なる独占欲だ…」


 吐き捨てる様に口にする。

 何もかも諦めたかのような表情に、取り付く島もない様に思えたが。それでも、ソルはゼストスを見据え。


「ゼストス。あなたがいたから、今の俺がある──。ガキの俺を、あなたは大人と同じ様に扱ってくれた。それが…どんなに嬉しくて、誇らしかったか。あなたがどんなに自分を卑下しても、あなたへの感謝の気持ちは変わらない」


「……」


「俺は…あなたを尊敬してる」


 ゼストスは言葉も発さず、ただ見つめ返してきた。監視兵がちらと時間を確認し。


「──時間です。レイ大尉」


 感情を排除した事務的で無機質な声が室内に響く。


「ゼストス、また機会があれば会いに来る…」


 名残り惜しげにゼストスを見るが。

 ゼストスは入って来た時と同じ様に俯いて、こちらを見ようとはしなかった。


+++


 それからひと月後。

 その日、惑星フィンスターニスの帝都官邸前に設営された会場で、アレクは皆の歓声に応えながら最後の演説を済ませていた。

 人々の熱気は止まない。

 エルガーの側近だったとは言え、病身のエルガーに代わり、一時悪政を引き取り、善政を敷いたのだ。民衆に受けないはずはなかった。

 もし、権力者になると言う野心があったなら、このままこの地位に留まっただろう。

 しかし、アレクにその手の野心はなかった。容姿や立ち振舞いから、知らぬ者にはその様に誤解されるが、その意志はない。


 ソルと生きる──。


 野心があるとすれば、それだけだった。

 演説が終わり、聴衆から選ばれた後任のクルーガが姿を現すと、その熱を引き継ぎ一気に場内が湧いた。

 庶民出の彼はやはり人気があった。人柄も然ることながら、苦労を重ねここまで来た事は知られている。親しみが湧くのだろう。

 上気する人々の顔を眺めながら、これで終わったのだとほっと息をつく。

 長く続いたファーレンハイト家の統治は終わる。もし、父が健康であったなら、帝位を継ぎ皇帝として君臨したのだろう。

 父なら善政を行ったはず。そうなれば、自分は何の疑いもなく跡を継ぎ、ソルと会うこともなかったのだろう。

 政務や軍務に邁進し、それはそれで遣り甲斐もあったはず。

 だが、一本、引かれた道を歩くだけ。


 味気ない人生だ──。


 自分の人生はこれで良かったのだと安堵する。今この手にあるものは、自ら掴み取って来たもの。


 愛する者も、全て──。


 背後に引いた所で、警護に当たっているソルと目が合った。どうしても自分もつくと言って聞かなかったのだ。

 言葉は交わさないが、視線だけで今までの労をねぎらっているのが伝わってきた。

 ソルだけにしか分からない、僅かな笑みを口元に浮かべて応える。


 これで、自由だ。ただ、あと一つだけ──。


 場内の一角がザワつく。何者かが自分の名を叫んだ。

 肩越しに振り返った瞬間、背に衝撃が走る。同時に焼かれる様な熱を感じた。

 正面にいたソルが驚愕の表情を浮かべ、駆け寄ろうとする。


 ああ…。これで──。


 ソルの腕が自分を抱きとめる。

 そこで、アレクは目をゆっくりと閉じた。



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