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カーマン・ライン  作者: マン太
第6章 青い石

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5

 セレステがアウローラに到着した時、まだ雲は若干薄い状態だった。

 この計画に備え、アウローラの情報は得ていた。この様子なら、もたつきさえしなければ、ぎりぎり間に合うだろう。

 ワープを使える戦闘機を使えた為、なんとか間に合ったようだ。

 つい今しがた、アレクを乗せたシャトルが飛び立ったばかり。だが、今はまだ、セレステの知るところではなく。

 研究所のあるステーションから飛び立つ際、整備士の静止を振り切って飛び出してきた。跡を追跡されているだろうが、今はかまっていられない。


 どこにいる?


 ヘルメットを装着し、不時着した時のままの艦に横付けると、開いたままだったゲートから中へと入る。

 既に機体の一つも残っていなかった。


 ソルは脱出したあとなのか。それとも──。


 ふと視線を巡らすと、奥の方、片隅に着陸時の衝撃で寄せられたガラクタの類が折り重なっていた。

 そこに随分年季の入った機体が一つだけある。廃棄寸前だったのだろう。尾翼に銃弾の跡が黒く焼け焦げ残っている。

 しかし、それはまだ新しいものだった。

 そこでゼストスからの報告を思い出す。ソルは廃棄寸前の機体を飛ばして行ったと。


 まさか──。


 直ぐに機体へ駆け上がり、コックピットの中を確認する。

 するとそこには座席に蹲るようにして倒れ込むソルの姿があった。力なく垂れた腕の先にはヘルメットがある。


 ソル!


 直ぐにハッチを開け、そのヘルメットを装着させた。

 時間はない。この間も着々と雲は濃くなって来ている。

 それにこの大気をマスクも付けず吸っていると言うことは、肺をやられている可能性があった。何より口元が血で汚れているのが証拠だ。


 いや、それよりも生きているのか?


「ソル、分かるか?」 


 軽く身体を揺すった。顔色は蒼白で意識もないようだが、首筋に触れれば、弱いながらも脈動を感じられ、体温もある。


 まだ間に合う。


 直ぐに身体を抱き起こし機体から下ろすと、自分が乗ってきた機体へと運んだ。


 絶対に死なせない──。


 セレステは急いで戦闘機を出す。

 目的地は決めていた。一番ここから近く設備も揃っている星、エクラだ。

 そこは、セレステの第二の故郷でもあった。


+++


  久しぶりの帰還だった。

 孤児院から商家へと養子に引き取られ、生活面では豊かであっても、精神面では最低な日々を送り。

 その養父の元から自立するため、中等部で帝国の士官学校へと入った。

 その士官学校入学の相談にのり、資金援助を願い出てくれたのがアスールだ。当時、ブラシノス連合軍の上級士官だった。

 養父が旧連合との大きな契約を取り付けるため、自分を差し出した相手。

 美しければいいだろうと、まだ十代頭の子どもを差し出すのだから、養父も何もあったものではない。養父とは名ばかりで、目を惹くセレステを手にいれたのもその為だけだった。

 男にはそんな風に養子にした子どもがあと、数人はいた。いい暮らしは保障されたが、扱いは奴隷に近い。

 しかし、アスールは差し出されたセレステに一切手を出さず、その後、支援を名乗り出た。

 濃い焦げ茶色の髪と、グリーンの瞳を持つ、セレステより一回り以上も年上の男。

 かなりの身分の男だったが、セレステにとってそれは重要な事ではなく。

 自分を生かすための便利な道具として利用していたに過ぎない。

 しかし、男はそれでも満足だったらしく、ろくにセレステに手出しをしないまま、パトロンのように見守っていた。

 士官学校に入ってからは、もう養父の家に帰ることもなく。エクラにあるこの男の別荘を、まるで自分の実家の様にして暮らしていた。

 帝国軍に入隊してから帰るのは久しぶりだった。

 アスールはどんな顔をするのか。しかも、彼からすれば余計な荷物まで持ち込んで。

 しかし、これだけは手放す訳には行かない。

 が、久しぶりに顔を合わせたアスールは、ただセレステの帰りを喜び、それ以上、詮索も追求もして来なかった。


「彼は落ち着いているよ。顔を見るかい?」


 部屋で端末を使い、その後の情報を入手していれば、この家の主が部屋を訪れ声をかけてきた。

 アレクはやはり助かったらしい。ゼストスは拘束されたとあった。


 やはり──。


 ゼストスから自分の素性がばれるのは時間の問題だった。ここへ帝国軍が来ることは避けられそうにない。

 セレステは深いため息を漏らしたあと、端末のディスプレイから目を離し、アスールを見上げた。

 端末の乗った机に手をつき、傍らに立つ男の濃い茶色の髪は綺麗に撫でつけられ、一分の隙も無い。セレステとは違った深い緑の瞳がじっとこちらを見つめていた。

 十七歳ほどセスより年上になる。

 落ち着いた物腰の男だが、昔から本心が読めない男でもあった。

 そういえば、ゼストスとよく雰囲気が似ていると思う。あの男も優しい物腰だったが、どこか底知れぬ闇のようなものを抱えていて本心を読み切れなかった。


「そう。見に行く。…その前に、アスール。その…彼なんだけれど…」


「セスのボーイフレンドかい?」


 セレステはカッと頬を赤くすると。


「そう言うんじゃない。ソルは…孤児院の頃の幼馴染だ。大切な友人だった…」


「そう言えば、前にそんな事を言っていたね? ソル・レイ大尉。帝国軍、上級大将アレク・ラハティの友人。いや…愛人との説もあったが。実際はどうなんだろうな?」


「…アスール。調べたのか?」


「それはそうだろう? 大切な君に害をなす人間だったら、ここへ入れはいけないと思ってね? 用心にこしたことはない」


 そう言うと、アスールは指を伸ばし、セレステの美しい金糸に触れ口づけた。


「アスール。ソルを傷つけたら許さない。もしそうなったら、彼を連れてもうここには帰って来ない」


「おや。それはいけないね。来たばかりだと言うのに。だったら気を付けないと」


 ふっと笑んでセレステの髪から首筋へと手を滑らし引き寄せると。


「彼を大切な客人として扱おう。勿論、誰にも話さない。君に逃げられたくはないからね」


 言ってから愛おしそうに口づける。アスールは普段自分の感情を露にはしない。

 けれど、今日は違うらしい。どこかその行為に怒気と嫉妬が含まれている気がした。セレステはその背に腕を回すと。


「それくらいの気持ちってことだ。本気で逃げ出すわけじゃない…」


「それは良かった」


 アスールは抱き返すと、ほっと息をつく。これが演技なのか本心なのかは分からない。

 ただ、いままで一度として酷い仕打ちを受けたことがないため、この男を信用してここまで来たのだった。だから、ソルも連れてきた。


「でも、長居はできない」


「どうして?」


 アスールは顔を覗き込んでくる。

 ここにソルを連れてきたのは、アスールが一番信用が置ける男だったからだ。

 帝国は──アレクはセレステの裏切りに気づき追ってくるだろう。ここもすぐでなければならない。


「僕は帝国を欺いていた。ラハティを消すためにとある計画を実行したんだ。でも失敗して……友人のソルを危険な目に遭わせた…。乗ってきた戦闘機も追跡されている。アレクは僕を追ってここへ来る。…捕まるだろう」


「捕まらせなどしない」


 アスールの二の腕を掴む力が強まるが、セレステは笑うと。


「無理だ。奴は手段を選ばないだろう。そんなことになれば、ソルが生きていることも知られてしまう…」


「セレステ…」


「アレクにはソルは死んだ事にしておきたいんだ」


「しかし、彼が目を覚ませば、アレクに会いたがるだろう? いつまでも縛り付けて置けはしない。それに、君はどうなる? 捕まればただではすまされない。あの青年を殺した人物として、帝国の宰相の命を狙った者として、処罰が下るだろう。…生きては帰れない」


「…それでも、ソルは渡したくない…。アスール、申し訳ないが、彼を僕の代わりに見守って欲しい。手は…出してほしくないけど」


 アスールは苦笑すると。


「私はそんなに見境なく人を襲うような人物にみえるかい?」


「アスール…」


「君の願いなら聞き入れる。だが、私は君をみすみす死なせるようなことはさせない。それこそ、どんな手を使ってもね?」


 それにセレステは答えなかった。ソルを助け出した時点で覚悟はできている。

 ただ、アレクシスにソルを渡したくなかった。それだけだった。

 それで、アスールとは別れた。



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