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カーマン・ライン  作者: マン太
第5章 波乱

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10

 

 別に寝るのに男も女も関係なかった。

 ことにこのセレステという男は、それを感じさせないくらいの美貌を手にしていて。

 翡翠色の瞳。白く透き通るようなしなやかな肢体。

 その行為にも手慣れていた。

 男を満足させるのに十分な術を持っている。普通の人間であればすぐに篭絡されるだろう。

 ここまでになるのは、相当の経験を重ねてきたはず。今もどこぞに情夫が山といるのだろう。


「抵抗はないの?」


 セレステの口元には皮肉めいた笑みが浮かんでいる。

 事が終わり、セレステはシーツも身にまとわず、裸体をベッドに横たえたまま、半身を起こしたゼストスを見上げていた。


「さあ。どうでもいいことだ…。ただの処理行為だろう? 感情は必要ない。お互い楽しければいい。そうだろう?」


「…皆、僕と関係を持つと、それなりに執着を持つみたいだけれど、あなたは違うの?」


「そんな気分にはならないな。情報が欲しかっただけだ。でないと話さなかっただろう? そうでなければ、お前のような奴とお遊びでも寝ようとは思わない」


 ゼストスはベッドから立ち上がるとシャワーを浴びに行く。背後で笑った気配がした。

 セレステは男娼そのものだった。本当にこんな男がソルの幼馴染なのかと疑ってしまう。


 ソルは分かって付き合っているのか?


 ソルの様子からも、このセレステからも互いになにかあった風ではないが。

 そこまで思って、ふと思い当たる。


 大切、だからか。


 自分にも覚えのある感情だ。


 大切だからこそ、傷はつけたくない──。


 セレステもソルが大切なのだろう。だから手出しはしない。無理強いもしていないのだ。


 その後、セレステの秘密の一部を知った。

 彼は旧連合の諜報員なのだと言う。アレクの抹殺を計画しているのだと語った。

 それを聞いてゼストスは協力の意を示す。既にアレクを亡き者にすることに躊躇いはなかった。

 その手段を相談され、ゼストスは一つ、提案する。

 それは、アレクが旗艦を離れたのを見計らって、その搭乗した艦を襲い辺境の地にある惑星アウローラへ堕とす、というものだった。

 旧連合軍でも、帝国に反意を持つものはそう多くはない。戦力も限られている。それなら無理に襲って反撃に遭うより、事故に見せかけ落した方が、被害も最小限で済む。

 アウローラを知ったのは偶然で。たまたま、近くを通過した際、そんな星があると教えられたのだ。

 惑星アウローラは年中分厚い雲で覆われ、容易に地表に降り立つことはできない。

 その雲は特殊で、どんな金属も腐食させてしまい、シールドも効かないらしい。

 一度、探査の為、近づきその成分を分析した艦が、機体を腐食させ這々の体で帰還した。雲に近づき過ぎたらしい。

 その雲はいつ晴れるかわからない。運よく晴れ間に降りれたとしても、そんな雲なのだ。もし、また上空を覆えば脱出することは不可能だった。

 一度、閉ざされれば次に晴れるのは一時間後か一週間後か、はたまた数十年後か。不定期なそれは予測不可能で。

 アウローラはそんな特殊な星だった。それで記憶していたのだ。

 今、丁度晴れの期間に入っているが、直に雲が覆いそうな気配を見せている。今すぐアレクを艦ごと落とせば、閉じ込められる可能性は高い。

 セレステはその計画に乗った。

 事故に見せかけるため、そう見えるようプログラムを組むことにした。例えバレたとしても、自分が組めば他の誰も解くことなどできないだろう。


 物理的に解除しても、その頃には──。


 慌てふためくうちにアウローラへ降下し、無事着陸できたとしても、脱出は不可のはずだった。


 彼さえ後を追わなければ──。


 彼にはその能力はもうないのだと、あれだけ叩きこんでおいたのに、アレクを助けるために出撃した。しかも、廃棄寸前のボロボロの機体に乗って。

 しかし、そんなことなど諸ともせず、ソルは敵を次々と撃ち落とし、計画を段々と狂わせていく。

 それはそうだ。彼はもしかしたら、帝国軍最強のパイロットかも知れないのだから。

 一番の狂いは、彼がその艦に同乗したことだ。あのボロボロの機体で出来ることではない。

 アレクの為にその力の全てを使い切り、彼を無事に星から脱出させた。ソルがいなければ出来なかったことだろう。

 そして、彼は命を落とした。


 なぜだろう? 


 彼を手元に置きたいがために、進めた計画であったのに。

 その報告を、ゼストスは独房で聞かされた。

 すでにアレクからの通報により、その裏切り行為がばれ拘束され。


 きっと、ソルが気付いたのだろう。


 ソルが出撃したのを知っていたのはゼストスだけだ。

 ソルを生かすために、旧連合軍にその情報を伝え、なんとかアレクの乗る艦へ帰艦するの妨害した。

 しかし、それが功を奏することはなく。


 自業自得か──。


 一番失いたくなかったものが、この手から滑り落ちていった。

 大切だからこそ、思いも告げず、ただ側にいた。ソルから受ける信頼を裏切りたくはなかったからだ。

 二人でいられるなら、それで充分だったのに。


 ソル──。俺は飛んだ間違いを犯した。


 君がいないのなら、ここに生きていても仕方ないと言うのに。


「…すまない。ソル…」


 その頬を後悔の涙が滑り落ちていった。



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