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次の日の午後。
アレクは警護にザインを伴ってフィンスターニス向かった。
皇帝と再び謁見するのだと言う。今回の件も含め、今後について話し合うとのことだった。
その後、旗艦に合流し旧連合軍の討伐に向かうのだ。
セスはここで身体検査があるため、同行はしない。
次に会えるのは何時になるのか──。
無意識に胸元のネックレスの鎖に触れる。石は引き取られる事もなく、ソルの元に落ち着いていた。
ただ、アレクの思いは確かに受け取ることができた。これでもう、何があろうと揺らぐことはない。
ソルもアレクらの旧連合軍との戦闘が終了次第、フィンスターニスに向かう予定だった。
出発前、アレクの見送りがてらデッキに出ていると、セスが声をかけてくる。
「昨日は、ごめん…」
伏し目勝ちなセスに苦笑すると。
「謝らなくていい。俺を心配しての事だろ? その気持ちは嬉しかった」
「さっきまで…ずっとラハティ提督と一緒にいたんだろ? 今は、勝ち目がないのは良くわかった。けど…諦めない」
「セス…?」
セレステは手を伸ばすと、ソルの頬に触れ呟く。
「僕が先に見つけたんだ…。あいつになんか…渡さない」
その瞳に強い決意と、暗い焔が浮かんだ様に見えた。
何を言って──。
言葉を発しようとした所で、アレクらの出発の時間が来た。エンジンが独特の金属音をたて、巡洋艦がゆっくりと前進する。
既にアレクは艦内にいるため、その姿を確認することはできないが、もしかしたら、どこからかモニターでこちらの様子を見ているかも知れない。
「僕も、検査の時間だ…。また、後で」
セレステはソルから離れると踵を返し背を向ける。その時にはもう、先程見せた暗い影は掻き消えていた。
セス……。
その出発前の事。
ラボの自室にいるとザインが声をかけて来た。
今回、ザインには新しい機体が渡されている。当然、二人乗り用なのだが、今回、ラスターは連れていなかった。
そこまでの戦闘になるとは考えていないらしい。
「お前もフィンスターニスに行くんだってな? ゼストスが嘆いていたぞ。俺もついて行くと息巻いていたが流石に今回は無理だろうな」
「どうだろう。アレクなら許可しそうだ。もし可能なら俺も心強い」
「なんだ? ゼストスは来てほしいのに俺は拒絶か?」
「そんなわけ無いだろ? 今までのように気軽には来られなくなるだろうが、是非顔を見せに来てくれ。それにザインの機体は俺が主になって見てる。嫌でも顔は合わせるさ」
「お前が宇宙にいなくなるのは寂しいな…」
「ザインには可愛いガールフレンド達も、ラスターもリーノもアルバもいるだろ? 他にもたくさん。俺ひとりいなくたって──」
するとザインは目を細め。
「お前一人がいなくなるのが堪えるんだ。少しは分かれよ」
そう言って額を小突いて来る。
「ん。…分かっている」
「本当か?」
「今まで嫌がらせを受けなかったのも、ザインのお蔭だ。士官学校も出ていない孤児院出の子どもが突然現れてチヤホヤされれば、良く思わない奴らも出てくる…。表立って言えない分、影で嫌がらせも受けたはずだ。けど、アレクが見られない日常を、ザインがずっと見ててくれた。ザインが俺を気にかけてくれたから、他が手出しして来なかったんだ。今更だけど感謝してる…」
「そういう『わかってる』か…。まあ、結果そうなったってだけだが。けど、お前の事はフリじゃなく本気だ。…今もな」
ザインの腕がソルの腰に回され、正面から向かい合う形になった。ソルはひと呼吸置くと。
「口ではそういうけど、本当は手を出すつもりはないんだって分かってる…。正直、離れるのは寂しい。けど…離れたって忘れない。ザインはずっと大切な友人だ」
ザインは目を瞠って暫く黙っていたが。
「…ったく。これじゃ手も出せねぇな」
髪をかき上げ苦笑する。
「出すつもり、なかったろ?」
「そういう事にして置く…。じゃあな。お前の大切な君をちゃんと守って来るよ。ま、俺の出番はないだろうがな」
「ありがとう。ザイン。頼んだ」
「おう。お前に恨まれたくはねぇからな? 任せとけ」
そう言うと、ザインはラボを出て出発ゲートへと向かった。
そのゲートから今まさに、アレクの搭乗した巡洋艦が飛び立とうとしている。
ここから惑星フィンスターニスまではワープを使えばさほど時間はかからない。
ただ旗艦から研究所のある宇宙ステーションを経由するのは迂回航路だったはず。
ステーションに立ち寄ったのは、ザインが駆る予定の機体の動作確認の為としていたが。
はじめ、自分に会うために来たのでは──と、一瞬過ぎりもしたが直ぐに否定した。
そんなわけがない──。
仮にもアレクはエテルノ帝国の皇帝に次ぐ存在なのだ。そんな個人的な理由で動くはずがない。
しかし、早朝ベッドの上で、アレクは目覚めたソルの髪を撫でるようにかき上げながら、
「君に会うために、ここへ来た…」
そう告げた。
微睡み始めていたのが一気に目覚める。ユラナスが良く承知したものだ。
「やりすぎだ…」
そう上目遣いに抗議すれば、アレクはすっとの端を吊り上げ笑むと。
「婚姻の誤報に、居ても立っても居られなくなってな。久しぶりの逢瀬だ。…誰にも文句は言わせない」
「アレク…」
「五年だ。お預けが長すぎた。例え君自身に非難されても…な」
そうして深く口付けられ、それを合図に出発に間に合うギリギリの時間まで、互いの熱を確かめあった。
どうか無事で──。
旗艦を離れたとは言え、防御も万全のはず。何も心配する必要はない。
轟音と共に巡洋艦は浮き上がり、ステーションを後にした。




