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カーマン・ライン  作者: マン太
第4章 別離

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15

 ユラナスからの報告が終わり退出すると、半ば呆然としながら自室へと戻った。

 惑星フィンスターニスは、帝国の本拠地のある星だ。

 不毛の星へ人工的に水と緑を運び、人の住む星へと変えられた。ただ、人が住む場所以外は荒涼とした大地が広がり、昼夜の温度差が激しい星でもある。


 アレクは本格的に自分を切り離そうとしている…。


 いよいよ、お払い箱なのだ。

 過去の存在である自分を、なるべく遠ざけたいのだろう。胸元に仕舞われているこのネックレスも、いずれ返さねばならない。


 本人が取りに来るのだろうか…。


 考えただけで胸が苦しくなる。

 フィンスターニスには皇帝が住む宮殿が置かれていた。婚儀はそこで行われるはずで、僅かでも花嫁となる少女と過ごすのだろう。

 一時的にでも同じ星にいることは出来るが、それだけだ。


 せめて宇宙に出られたなら──。


 他のものと睦まじく微笑み合うアレクなど、正直見たくなかった。

 戦いが終わり異動が済んだなら、研究所に籠ればいい。外界などシャットアウトして、研究と後進の指導に当たるのだ。

 残された道は、仕事に邁進する──。


 ただ、それだけだ。


 自らの指紋と瞳の照合で部屋は開く。

 他人が入ることは、特例を除きまずないのだが、入った途端声をかけられた。


「ソル。久しぶりだな? 以前会ってから半年近くになるか…」


 思わず言葉を無くして、数歩入った所で立ち止まる。

 黄金色の髪に透き通る様な青い瞳。

 その特例を使えるものが、部屋に設えたソファにゆったりと構え座っていたのだ。


「──アレ、ク…」


「顔を見せてくれ」


 差し出された白くしなやかな指先に、誘われる様に数歩踏み出したが。

 その手の届く範囲まで進めなかった。


「…もう。忘れられたかと…」


「ソル。いつになったら私を信用する? いいから来い」


「……」


 それでも躊躇っていれば、痺れを切らしたのか、アレクはそれまで座っていたソファから立ち上がって、こちらに足早に向かって来た。

 そうしてソルの二の腕を掴むと。


「先程の言葉は冗談か? 本気で思っているなら直ぐに考えを改めろ」


 ソルはグッと唇を噛み締め堪えたあと、顔を上げてアレクを見据えた。


「どんどん、あなたが遠くなる…。あなたは自由を得るためと言ったけれど…。昇り詰めたその先に自由はあるのか?」


 自分と過ごしたいと言ったあの言葉に嘘はないのだと思う。

 けれど、進めば進む程、身動きが取れなくなっているのではないか。


「…ソル。私を信じろ。いや、信じて欲しい。今回の異動は君を今よりもっと安全な場所へ移す為に考えたものだ。連合が解散した今、頻繁に宇宙へ出る必要もない。となれば、私はフィンスターニスでの滞在が増える。会う時間ももっと増す…。君と落ち着いて過ごしたいのだ」


 一方の手が頬を滑り顎を捉えると、唇にキスが落とされた。労る様な優しいキス。

 思わず目の端に涙が滲む。


「…婚姻の発表は、広報が先走っただけだ。皇帝も希望を口にしただけ。端から受ける気はない。受けなくとも、自由は掴める。もうすぐだ。──ソル。だから、私から離れるな…」 


「っ…!」


 なんで、そんな泣き出しそうな顔をするんだ。


 ずるい。俺をずっと放って置いて──。


 いや。放ってはいないのだろう。アレクの思いは変わっていない。だから揺るがない。


 でも、俺は揺れてばかりで、不安に押し潰されそうで。信じたいのに信じきれず。


 こんなに弱い人間だったなんて…。


「ソル。君は自分で思うより、強くはない。初めて君を見たとき、生きているのが不思議なくらいだった。あの小屋で震える君を見た時、ここから連れ出さねばと思った。私は…君と共に歩きたい。不安なら私に吐き出せ。傍にいてやれなくとも、聞くことは出来る」


「でも、それじゃ邪魔になる…」


「大切に思う者の思いを聞くのに、何が邪魔なものか。このままの状態で君を放って置けば、いつか奴に盗られるだろう。──セレステ・ヴァイスマンとは知り合いだそうだな?」


「…孤児院で一緒に過ごした仲だ。前に話したろ?」


 アレクは腰に腕を回し抱き寄せると。


「報告は受けている。奴はただの友人だと思ってはいない。共に機乗したから分かるが、あの手の人間は厄介だぞ。まだザインの方がマシだ」


「俺はあなた以外に気を移すつもりはない」


 キッと睨み返せば、アレクは笑みを浮かべ顎を取り。


「明日は午前中まで休みを取ってある。ゆっくりとその思いを聞かせてくれ──」


 それは久しぶりの邂逅だった。


+++


 アレクがいる。


 現実に思えなかった。


 こうして腕の中にいるのに、すぐ間近で息をしているのに。


 鼻先をその胸元に押しあて、アレクのなじんだ香りを吸い込む。懐かしい、忘れもしない。


 アレクの香りだ──。


 出会った時と何も変わっていない。ずっと同じものをアレクは身につけている。

 どんなに外身を飾るものは変わっても、それは変らない。


「目が覚めたか?」


「アレク…」


 頬にキスが落とされ、ついでに唇にも落ちて来た。

 受け止めているとだんだんとキスが深くなっていく。思わず吐息が漏れて、頬が染まった。

 目が覚めたのをいいことに、もう一度、アレクは目的を持って深く触れてくる。

 けれど、早急にではなく、ゆっくりといたわる様に。今まで会えなかった分を、丁寧に埋めていく様に──。

 身体に覆いかぶさってくるアレクの重みと熱が心地よかった。


 ずっと、こうしていたい──。

 無理だと分かっていても。


 でも、きっと近い将来、そうして過ごすことができるはずだ。


 今度こそ、アレクを信じる──。


「ソル…。よそ見をするなよ?」


 身体の奥にあるアレクの熱量が増す。

 思わず息を飲んで、せり上がる感覚をやり過ごすと。


「するわけ、ない…っ」


 久しぶりの感覚にくらくらとめまいがするよう。抱え上げられた足が痛むのに、それさえ気にならなかった。


 アレクが欲しい。


 ただそれだけで。自分でもどうかしていると思うのだが、会えなかった間に出来た穴を埋めるのには足りなくて。

 必死にアレクにせがむ自分がいた。


 こんな姿、アレク以外に見せられやしない──。


 アレクは笑むと。


「君のこんな姿を知っているのは私だけだ…。ソル、誰にも渡さない…」


「ふ…っ」


 抱きしめられ、耳朶に響く声に泣きたくなった。

 誰にもこの時間を奪われたくなかった。



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