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カーマン・ライン  作者: マン太
第4章 別離

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14

 どれ程の時間が経ったのか、気が付けば壁に背を預けそこで眠っていた。

 強張った身体をグンと伸ばす。時刻は既に深夜にあたる。早朝と言ってもいいだろう。


 泣いたまま眠りにつくなんて、いったいいつ振りだろう。


 タラップを降りレストルームで顔を洗う。鏡を見て酷い顔だと思った。腫れた瞼に笑うしかない。

 深い息をひとつつきそこを離れると、背後で人の気配がした。


「…ソル?」


 澄んだ声音が響く。振り返るとセレステが立っていた。


「どうしてここに? ──ああ。いや検査があるんだったな…。今、着いたのか?」


 それには答えず、セスは詰め寄ると。


「ラハティ提督の事、聞いたでしょ? それで、心配になって…。着いて直ぐ部屋に行ったけどいなくて…。探した」


「大丈夫だ。セス、別に気にするほどの事じゃない…」


 言いながら、答えた声音が思っていた以上に弱々しく内心苦笑した。


「嘘だ。だって、ソル。泣いたろ? せめて本当の事言ってよ。話しならいつだって聞ける…」


「ありがとう…。でも、大丈夫だ。もうこの話題はよそう。アレクが昇進することは喜ばしいことだ。それより、体調はどうだ? どこか不調はないか──」


「ソル!」


 セスは歩き出したソルの二の腕を掴んで、無理やり振り向かせる。


「僕はそんなに頼りない? ソルが傷ついてるってわかってて、放っておけないよ!」


「セス…」


「お願いだから、一人で泣かないでよ。ソルは一人じゃないんだから…」


 そう言うと頭ごと抱きしめてきた。フワリと金糸の髪が視界を遮る。


「アレクがソルを捨てるなら、僕がいる。ねぇ…、ソル。僕じゃダメなの? 僕ならずっと側にいる…。ソルを離さないよ。別れたあの時みたいに後悔したくない…」


 懐かしい温もり。

 幼い頃、孤児院のほとんどスプリングの効かないベッドで、身体を寄せ合って眠った記憶が蘇る。

 この温もりに縋れたならどんなに幸せだろうか?


 それでも──。


 セスの身体を離そうと肩に手をかけた所で。


「おい。俺を差し置いてそれは聞き捨てならねぇな。ソル。ユラナスが探してるぞ」


 ラボの入り口に人影がたつ。見なくとも声でそれが誰かわかった。


「ザイン…。どうしてここに?」


「俺がここに来る理由は知ってるだろ?」


 ザインが意地悪く笑って見せた。

 ゼストスが呼んだのか、はたまた別の用務があったのか。ユラナスまでとは余程の事だろう。ソルはため息をつくと。

 これ以上ここにいてはややこしくなる。ソルはそっとセスの肩に手を置き自分から離すと。


「セス。その気持ちだけ受け取っておく。凄く嬉しい。ありがとう…。けれど、前も言った様に今は誰かとの先は考えられない…。また明日──」


「ソル!」


 セスの声を背にそこ後にした。


+++


「なかなか情熱的な幼なじみだな? まるで俺の姿と重なって同情もしたくなるが──」


 ザインと共に通路を進む。

 ミーティングルームでユラナスが待っているとの事だった。今回はその護衛もかねてここへ来たのだと言う。直々にとは珍しいと思った。


「ザインとはまた別だろ? …口でそう言いながら俺に手を出さない。けど、セスはそうじゃない。分かるんだ…」


 セスは本気だ。


「ほう。俺の態度をそう捉えてたのか…。けど、知らない仲じゃないんだろ? 少しは受け入れてやってもいいんじゃねぇのか?」


「でも、俺は応えられない…」


 自分の気持に嘘はつけない。

 セスは大事な親友だ。けれど、アレクに対する様な感情は持てない。形だけ慰める事は出来なかった。


「あの発表を聞いてもお前の意志は変わらねぇのか…。アレクは地位を得るためなら、犠牲は厭わないってことなんだぜ? それが大切なものを傷つける結果になろうともな?」


「傷ついてなんか、いない…」


「ソル?」


「今の俺があるのは全てアレクのお蔭だ。彼が望む道ならそれを支えるまでだ」


「ったく…。赤い目してよく言う」


 ザインはそう言うと、ソルの目元を指の背で撫でた。


「っ、ザイン?」


「何度も言うが、お前がもう無理だと思うなら俺を頼れ。セスとかいうガキじゃお前の相手は務まらねぇ。…ちゃんと慰めてやる」


 そう言って立ち止まったザインは、ソルの肩を軽く抱いた。

 打算のないその温もりにホッと息をつくが。


「ありがとう…。ザイン。でも、──大丈夫だ」


 軽くその背を叩いた後、身体を離す。濃い茶色の瞳が心配気に見下ろして来た。

 セスにも同じく感謝していた。こんな自分を気遣ってくれる。


「何かあれば遠慮なく頼れよ?」


「ああ…」


 そこでザインと別れ、独りミーティングルームへと向かった。

 

「ソルです…」


 部屋の前で名乗ると機械音と共にドアが開く。そこには相変わらず表情を読み取り難いユラナスがいた。


「随分、部屋を留守にしていたようですね? こちらが送った通信には──まだ目を通してはいないようですね」


「すみません…。暫くラボに籠りきりで。帰ったら見ます」


「その必要はありません。ここで報告します。あなたの配属先の変更です。次の旧連合軍残党との対戦後、正式に帝国軍の研究所へ配属替えとなります。赴任先は惑星フィンスターニスにある宇宙開発研究所の主任研究員です。そこでは軍用機の開発と能力者の研究、指導に当たってもらいます。今と内容は然程変わりません。ただ地上に場所が移るだけです。報告は以上です」


「…フィンスターニス。帝都のある星に?」


「そうです。士官としての階級も合わせて上がり大尉となります」


「もう、宇宙には上がるなと…? アレクの指示で?」


 しかし、ユラナスは答えず、ただ黙ってこちらを見返すのみ。それを返事と受け取ると。


「…わかりました」


「以上です。もう下って頂いて結構です」


 そう口にした灰褐色の瞳が、鋭い光をたたえた気がした。




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