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カーマン・ライン  作者: マン太
第4章 別離

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13

 

「なんだ。あいつ、結構やるんだな?」


 傍らに座るゼストスが感心の声をあげる。

 ランチの合間、ラウンジに置かれたディスプレイから流れるニュース映像に、アレクの傍らに立つセレステの姿を見つけたからだ。

 旧連合軍との戦いにまた勝ったと、キャスターが告げている。

 一つ、また一つと旧連合軍に所属していた国は、領地である惑星を奪われていった。全て滅ぼすつもりはないが、反乱分子に対しては徹底的に強く出ている。

 今の所、帝国は支配下に置いた国に対して圧政を敷いてはいない。反乱はようやく落ち着いた空気を乱すものだった。

 ディスプレイに映る、アレクとセレステが居並ぶ姿はまるで一幅の絵の様で。


 あの怪我さえなければ、絵にはならなくとも、今もその傍らに立っていたはず…。


 そこまで思って、首を振る。

 タラレバでものを考えるのは良くない。どんなに選択を間違ったとしても、これが今の自分なのだ。素直に受け入れるしかない。

 そう思うと、急に自分だけが陰の中に取り残されたように思えた。


 そんな、はずがない…。


 ソルは服の上から石を握りしめ、胸に湧き上がる寂しさを押し殺した。


+++


 初めてセレステがアレクと言葉を交わしたのは、テスト飛行でだった。

 ユラナスに指示され搭乗すると、暫くしてアレクが乗り込んで来くる。

 搭乗前、よろしく──そう短い挨拶があった様に思う。


 この男が──。


 自分よりは黄金色に近い金糸に青い目。帝国の大将であり、ソルの思い人でもある。


 そして──。


 セスは下唇を噛んだ。

 忙しい合間を縫ってのテスト飛行だ。これで結果が出なければ、二度とアレクのパートナーに選ばれる事はないだろう。

 このチャンスを逃す訳には行かない。セスは本気を出し挑んだ。

 結果は後日となったが、手応えはあった。

 思った以上に、アレクと飛ぶ初めての飛行は良かった。


 それもそのはずだ。合わないはずがない。


 セスは独りごちるが、その理由を口にするつもりはなかった。


「お前は──」


 搭乗後、コックピットから降りた所でアレクが声をかけて来た。しかし、いやいい──と軽く首を降ってそこを後にした。


 何を言いかけたのか。

 

「後日、連絡します。それまで研究所で待機を」


 ユラナスはそう口にするとアレクの後を追った。


 気づくはずなんて──ない。


 気づかせるつもりもないが。

 アレクの側に就くこと。それがセレステの目的だった。そうでなければ、後の計画に響く。


 誰にも邪魔はさせない。


 これで晴れてアレクのパートナーとなれれば、何もかも上手くいく。

 セレステはその唇の端を釣り上げ、どこかしらゾッとするような、冷たい笑みを浮かべた。


+++


 セレステとの機乗は、思った以上にすんなりと行った。

 まるで以前からそうであった様に、アレクの動きに柔軟に反応し、違和感を感じさせず。


 何なのだろう。これは──。


 初めて会ったはずなのに、旧知の如く息が合う。ただ、ともすると機械を載せて機乗している様にも思えた。


 冷静過ぎるのだろう。


 ソルと共に宇宙を駆けた時は楽しかった。胸が高揚し戦場だと言うことを忘れ。


 あれはソルだったから──と言うことか。


 テスト飛行を終え、セレステ・ヴァイスマンの顔を見たとき、どこかで会った事があるのかと聞きかけ、それを止めた。

 そんなはずはないのだ。記憶の何処にもこの男は引っかからない。


 しかし、妙な感覚だ──。


 好意はない。部下の一人だ。忠誠さえ誓っているならそれで良かった。

 結局、その感覚は戦場に出ても変わらず。

 自分の内に生まれた感覚の正体が何なのか、知るのはもっと後になってからだった。


+++


 その情報を知ったのは、一日の仕事が終わり、夕食を取るために、人影まばらなラウンジを訪れた時だった。

 同じくラボにこもっていたゼストスも傍らにいる。ゼストスに続いてカウンターに置かれたトレーを手に並んだ。

 ゼストスが思い出した様に振り返ると。


「明日、一度セレステが戻って来るぞ」


「どうかしたのか?」


「月一の検査だ。身体検査含め、色々な。到着は遅くなるらしいが──」


 ああそうだったと思い出す。

 能力者は通常の人間より負荷がかかるため、カウンセリングなども頻繁に行うのだ。

 ふと置かれたディスプレイがその日あった情報を伝えてくる。


『──エルダー皇帝は、その帝位を次女エルマ様へと譲ることをお決めになられました。その後見人として、新たに宰相に就いたラハティ上級大将を据え、同時に長女であるゲルダ様との婚姻を発表されました。これにより、ラハティ上級大将はファーレンハイト王家の血縁者となり──』


 ──え…?


 トレーを運ぶ手が止まる。

 傍らのゼストスが恐る恐るといった具合にこちらを覗き込んで来た。


「今の…。本人から聞いてたか?」


「…いや」


 手が震えるのを悟られないよう、そっとトレーを元の場所へ戻し。


「すまない…。用事を思い出した。一旦、部屋に戻る──」


「ソル…!」


 引き留めるゼストスを後に、ソルは自室へと足早に引き返していた。


 聞いていない。そんなこと──。


 ここ数週間、自分はほとんどラボにこもりきりで、外界の情報も得ていなかった。

 だから、そんな動きがあったことにも気付かなかったのか。巷では噂になっていたのかもしれない。


 婚姻──。


 地位を得るなら手っ取り早い方法だ。形だけの事、きっとアレクはそう言うかも知れない。

 分かっている。ソルとの関係なんて、大っぴらにできるものではない。


 でも──。


 形だけでも、誰かとそうなるアレクを見るのは正直辛かった。

 このまま部屋に戻る気がせず、結局ひと気のないラボに戻る。

 機械音とオイルの匂い。それはソルにとって安心できる場所だった。

 誰にも会いたくないと、お気に入りの場所、タラップを上がり上部に張り巡らされた通路の隅に向かう。

 いつもの様に、丸窓からは深い宇宙が広がって見えた。そして、そこには僅かな光に照らされ、なんとも情けない顔をした自分がそこに映し出されている。

 部屋に帰ればアレクから通信が来ているのだろうか。──いや、事前に連絡がなかったのだ。今更、言い訳の様に連絡があるはずもなく。

 地位が上がればそんな話が出てくるのも当たり前。しかも皇帝の娘だ。頂点を狙うアレクがそれを受け入れないはずがない。


 分かってはいる──。


 同じ言葉を繰り返す。

 王宮に下る度、娘たちとも会っていたとは聞いてはいた。

 かといって年端もいかない少女に心を許したわけではないだろう。相手はまだ十六になるかならないかの少女だ。

 彼女と密かに愛をはぐくんでいたなど、そんな時間などなかったはず。全て計略の内だろう。


 こんな事で動揺するなんて。俺はまだ…子どもなんだな…。


 置かれた椅子に座ると、膝を抱え丸くなる。

 ここへ来て五年。既にアレクとは終わったのだと噂する人間もいた。


 終わってはいない──。


 揺れる自分の思いを打ち消し、何とかここまで来たが、もう限界だった。


 アレクに──会いたい…。

 

 そう思ったとたん、胸に思いが込み上げ、頬を熱いものが伝っていった。


「っ…」


 こんなことで泣くなんて。


 どこかで分かっていたことだ。

 ソルを遠ざけるようになった時から、いつかこんな日が来ることを。

 それでも、心は繋がっているはずだ。そう思ってきた。

 ふと、胸にある石がその存在を告げてきた。これがあると言う事は、例え婚姻したとしても、心はここにあると言う事。


 でも、あなたの声を聞けない今。どう信じろと言うのだろう。


 もし、これが計略のひとつで、二人の関係が終わっていないのだとしたら。

 たったひと言、待っていろと言って欲しかった。それを聞けないほど、今、ふたりの距離は開いている。

 ぎゅっと二の腕を抱える様にして、更に身体を縮めた。


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