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カーマン・ライン  作者: マン太
第4章 別離

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6

 しばらくしてラスターも顔を見せた。

 綺麗な銀髪に涼やかな目元。その目でこちらを睨んでくる。恨みがましい目つきだ。


「随分久しぶりだね? ソル…」


「ああ。ラスターも変わりないな。元気そうで良かった」


「…挨拶なんてどうでもいい。ザインをなんとかしろよ」


「ザインを?」


「戦闘や用務がないと、嬉々として戦闘機を駆り出してここに入り浸ってる…。機体調整の為なんて言ってるけど公私混同だ。部下に示しがつかないんだよ」


 腕組みし舌打ちしそうな勢いだ。


「そういったって…。俺も出来る限り帰る様に促すのに聞かないんだ。ラスターだってザインの性格を知ってるだろ?」


 肩をすくめてみせれば。


「アレクはどうしているんだ? 怪我の後、ソルは彼の囲われ者になるのかとてっきり思ったのに…。アレクが何もしないからこうなるんだ」


「俺はそんなんじゃないし、だいたい、そんなのはごめんだ。パイロットとしてはダメでも、アレクのお蔭でここで充実した日々を送ってる。…これでいいんだ」


 するとラスターは深々とため息をつき。


「これじゃ当分、ザインが落ち着かないよ」


 そうぼやいた。

 二人の登場で暫くぶりに賑やかな一日が過ぎていく。

 ザイン達は試乗を終えると、慌ただしく旗艦へ戻って行った。ゆっくりできるのかと思えば、また次の任務が控えているらしい。

 アレクは皇帝に呼ばれ、しばしばフィンスターニスに滞在することがあるようだが、一度としてここへ立ち寄ったことはなかった。

 ここへ来るには遠回りになる。直接の用がない限りは立ち寄らないだろう。

 五年前。アレクとまともに話したのはあれが最後かも知れない。

 重傷だった体調が回復し、ようやく意識を取り戻したのは、フィンスターニスにある医療施設でだった。

 目を覚ませばそこにアレクがいて。ベッドの傍らに座り、気遣わしげにこちらを見下ろしていた。


 いったい、いつからいたんだろう?


 目が充血し、顔色も良くなかった。やつれた姿を見たのは初めてかも知れない。


「…体調はどうだ?」


 アレクは口元に僅かな笑みを浮かべて見せる。

 意識を取り戻したばかりでまだ頭の中は霞がかかったような状態だった。

 その時は気付かなかったが、視力も落ちたせいもあったのだろう。よく目をこらさないとアレクの顔が見えなかった。

 アレクは椅子からベッドサイドに移り腰かけると、額にかかった前髪を優しくかき上げてくれる。


「平気だよ…。寝ていれば回復する。それより、アレクは? 後遺症も残っていないのか?」


 すると、アレクは苦笑し。


「私など、掠り傷があった程度だ。…君が死ぬんじゃないかと、そればかり心配していた…」


 前髪をかき上げていた手が止まる。


「ごめん、心配かけて。でも、もう大丈夫だ。当分は戦闘に参加できないだろうけど…」


「いいんだ」


「アレク?」


 首を傾げれば、アレクが抱きしめてきた。金糸が光と相まって眩しく映る。


「君はもう、戦わなくていい…。連合軍も解散した。もう大きな攻撃は仕掛けてこられない。君はもっと安全な場所でゆっくりするといい…」


「アレク…?」


 その時は意味が分からずただその名を呼ぶことしかできなかった。

 その後、自身に起きた変化を知り、アレクの言葉の意味を理解した頃、ソルに異動の辞令が下りたのだった。

 ソルはザイン達を見送ったあと、ふと足をひと気のない研究所内の一室に向けた。

 梯子状のタラップを上がった先にある片隅がお気に入りの場所で。

 壁側の丸く取られた船窓からは宇宙が見える。星の輝きが地上で見るより濃かった。

 今、アレクは帝国内で重要な地位に就き、皇帝の覚えもめでたい。確か大将から上級大将に昇進したはず。

 ますます自分からは遠のいて行く気がした。


 寂しくないと言えば──嘘になる。


 ネックレスのトップを持ち上げ唇に押しあてた。

 青い石はアレクの瞳そのもので。

 自身の温もりで温まったそれが、アレクの温もりであればいいのにと切に願った。



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