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カーマン・ライン  作者: マン太
第4章 別離

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2

 その後、ラスターは医務室で意識を取り戻した。

 外傷はむち打ちと鎖骨等の骨折。頸椎の捻挫。内蔵も一部損傷していた。あと少し、救助が遅れれば危なかったと言う事だった。

 しかし、その程度で良かったとザインは口にする。脳に損傷があれば元には戻れない。


 ラスターをそこまで追い詰めたのは──。


「ケイパー…」


 あの後、医務室へと連れていかれた様だが、その後の容体は知ることはできなかった。

 それでもアレクの弁によれば急所を外したそうだから、命は取り留めているのだろう。


 俺を恨むだろうな…。


 ケイパーから見れば裏切り者以外の何ものでもない。


 それでも、俺は──。


「ソル。いいか?」


 ドックにいると、ザインが声をかけてきた。整備の手を止めて振り返る。


「ザイン、体調はいいのか?」


 ザインも打ち身を負っていた。しかし、肩をすくめてみせると。


「大したことないさ。それより、あの時の礼を言ってなかった。助かった…。ありがとう。あのままだったら、死ぬまで宇宙を彷徨ってたか、敵の捕虜になっていた」


「ザインとラスターが無事で良かった。これで前のはチャラになるな?」 


 笑んで返せば、ザインは苦笑し。


「今度はこっちに大きな借りができた」


 ザインはそういうと、ソルの傍らに歩み寄って肩に手を置く。


「今度は俺がお前の為に命を張る。──必ずだ」


「そんな…。俺なんかの為に」


「なんかじゃないさ。お前がアレクを思っていなけりゃ、とっくに自分のものにしてた。それくらいは好いてる。そんな相手の為に命を張るのは当然だろ?」


「ザイン…」


「無理強いはしないさ。アレクは警戒しているようだが…。お前がその気になったら遠慮なく声をかけてくれ」


「よく続くな…」


「ふん。諦めは悪い方だからな? そうだ。ラスターが話したいって言ってたぞ。時間があるとき医務室にいってやってくれ」


「…わかった」


 じゃあなと、去り際、ザインは素早くソルの腕を取り引き寄せると額にキスを落としてきた。


「ザインっ!」


 腕の中で睨みつければ、悪びれもせず。


「減るもんじゃねぇだろ?」


 そう言って軽くソルの頬を指先で弾くと去って行った。ソルはため息をつくと。


 ザインといい。


 どうしてそこまで自分に固執するのか。

 それが人を好きになると言うことなのだと、最近ようやく気が付いたのだが。

 アレクに対する自分と同じだ。


 アレクの為なら、俺はなんだって出来る。彼を守るためなら命も張れる。


 そういう事なのだ。

 ケイパーが撃たれた時はショックだったが、やはりそこに倒れていたのがアレクだったらと思うと、胸が押しつぶされそうになる。正気ではいられないだろう。


 彼をなくしたくはない。


 アレクは自分にとって、なくてはならない存在だった。


+++


 病室に人の気配はなかった。

 ただ、別室のモニターでは逐一データを監視している。

 白いシーツに横たわるラスターの顔色はひどく青白く見えた。照明やシーツの色が映っているせいだけではない。

 気配にそれまで閉じていた目を開く。


「ああ…。来たか…」


「話があるって、ザインから聞いた」


 ラスターは薄く笑うと。


「いい様だろ? あっけなく敵にやられてさ…」


「生きていて良かったと思ってる」


 ソルがまっすぐ見つめてそう口にすると、ラスターは目を瞠った後、声を立てて笑った。


「っとに、お人よしだな…? ザインやアレクはそれにやられてんだな。それが素なんだからやってられないよ」


「本当の事を言っただけだ。ラスターに何かあれば、皆、悲しむ…。俺も…。俺は一度もラスターを嫌った事はない。…嫌われては──いたけど…」


 ラスターはふうっとため息をひとつはくと。


「俺は、やっぱりお前の事が嫌いだ。嫌いだけど…」


 ちらとこちらを見やった後。


「仲間としては認める。ザインを助けてくれたからな? 俺じゃできなかった…」


「ラスターは、ザインを守った。その結果だ。相手は俺たちと同じ能力を持ってた…。 ラスターじゃなきゃ助けられなかったはず。ザインもそれは分かってる」


「ザインは…お前を望んでる…。俺はもう必要ないんだ。これで身を引くつもりだ…」


 ラスターは力なく天井を見つめたままそう口にする。何処か投げやりにも見えるその態度にソルはクッと手を握り締めると。

 

「ザインだってラスターを必死に守った。それは大切だからだろ? 失くしたくないからだ。思いの形はそれぞれで…。一つだけじゃない。でなきゃ、助かる見込みが僅かな人間と残り少ない酸素を二人で分けあおうなんて思わない。…ラスターはザインにとって大切な存在なんだ。必要ないなんて口にすべきじゃない」


 ソルはラスターを強い眼差しで見返す。

 それまでソルの言葉を黙って聞いていたラスターは、不意に視線を外すと。


「…っとに。いやになるな…」


 そう呟くと顔を上げ。


「ソル。握手してくれるか?」


「ラスター…?」


「ほら」


 差し出された手を、ソルは恐る恐る取ると、ラスターは強く握り返してきた。


「ありがとう。ソル」


 そうとだけ言うと、すぐに手を放し、目を閉じた。


「もう休むから。話はこれで終わりだ」


 こちらに背けたラスターに、


「お休み。ラスター」


 そうとだけ言って、そこを後にした。

 ラボに戻りながら、


 少しは受け入れてくれた、という事だろうか。


 先程の言葉を思い起こす。

 これですぐに態度が変わるとは思わないが、それでも以前とは違っているように感じた。

 

+++


 補給基地にある病室で目覚めたケイパーは、自分が帝国軍の軍医によって手術を受け助けられた事を知った。

 辺境の惑星に、優秀な医師などいるはずもなく。


 敵の手で助けられるとは──。


「クソッ…!」


 起き上がる事もできず、寝たまま握りこぶしを作り、ベッドのシーツを叩く。


 アレクと呼んでいた。


 ソルの上官。過去、彼を庇い連合を後にした。そしてまた、ソルは迎えに来たその男と去って行き。

 聞けばあの上官は帝国軍内でかなりの力を持つ士官だという。

 仲間の命を奪い、連合を危機に追いやり弱体化させようとしている人物。

 そして、友人を拐かした。


 ソルの奴。認めようとしなかったけど、あんなのどう見ても利用されているだけだ。


 あんな見てくれだけの高慢な男が、ソルに真剣になるはずがない。


 ソルは俺と同じ、普通の人間だ。ああいった輩とは一生交わるはずがない。俺が目を覚まさせる。


 ケイパーは叩いたシーツを今度はギュッと握りしめ、暗い決意を固めた。


+++


 連合軍の補給施設が帝国の手に墜ちたのを皮切りに、アレク達、傭兵部隊に他の施設も奪うように指令が飛んだ。

 フットワークの軽いアレクの部隊は何かと重宝するようだった。それに、失敗しても帝国の本体に傷がつくことはない。

 いいように利用されているだけの様でもあったが、勿論、それだけで終わらせるつもりはなく。

 その人気を利用しようと支援してくる権力者や貴族に取り入り、後ろ盾となってもらいその地位を着実に上げていった。

 ソルと初めて会った時は大尉だったのが、今は大佐だ。


「勝手なものだが。それをこちらも利用する」


 作戦の合間、自室のソファで寛ぐアレクは、傍らに座るソルについと視線を向け。


「ここの所、戦闘が続いているが体調は大丈夫か? 無理をさせている…。それにドックにも詰めているようだが」


「整備や改良は楽しくて…。でも、大丈夫だ。ちゃんと寝てる」


 アレクが手を差し伸べ、頬に触れて来る。


「私もソルに触れるのを控えればいいのだろうが。私には君に触れる事が癒しになる。済まないな」


「お、れは…。俺も…貴方といられるなら…」


 頬が熱くなる。

 アレクから求められることは嫌ではない。自分があられもない姿を晒すのが恥ずかしいだけだ。

 するとアレクの口元がすうっと引き上げられ。


「嬉しいな…」


 頭ごと胸に抱かれる。

 心地良い温もり、心音。ホッとする瞬間だ。

 こうしているだけで十分なほど心が満たされる。


 ずっとこんな風に時を過ごしたい──。


 以前、自由な時間を得るために戦いを選んだのだとアレクは語った。今もそれは変わらないのだろうか。


「アレク…」


「なんだ?」


「この先、目的を達成したら、アレクはどうするんだ?」


 アレクはソルの赤毛に白い指を絡ませながら、


「心配か? 私がこのまま戦いの中に身を置くと」


「…今のあなたはとても生き生きしている。そのあなたが、隠遁生活なんて、想像出来ないんだ」


 するとアレクは笑った。


「誰しも戦いの渦中にあれば高揚もするだろう。だが、私は見失わない。ソルがここにいてくれるなら尚更。君が私の元にいる限り、見失わずにいられるんだ。自分の行先を…」


「アレク…」


「だから独りでどこかへ行こうとするな」


 声と共に額にキスが落とされる。抱きしめて来る腕は、途方もなく温かく感じた。



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