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「ソルを行かせた?」
休息はカプセル状のベッドで行われる。
通常は医務室にそれがあって利用するが、アレクの場合は私室にそれがあった。
三十分も休めば大抵の疲労は解消される。
ユラナスの報告によれば、その間にソルは戦場へと飛び出して行ったと言うのだ。
「引き止めましたが、本人の強い希望でした。味方の帰艦を手伝うだけと条件はつけましたが──」
「私は許可していない」
「……」
ユラナスは押し黙る。
しかし、ユラナスを責められない。彼に止められるわけがないのだ。
休息が終った兵士から戦場へ送り出すのは当たり前の事で。通常の判断であれば間違ってはいないのだから。
しかも、これを置いていった。
アレクの脇にあるテーブルには例の青い石が置かれていた。スター・サファイア。今では貴重な青い石。
これを渡した意味を分かっているのか?
いや。分かっているからこそ、置いていったのか。
「…いつ戻る?」
「味方の帰艦が済めば。それもじきです」
しかし、そう答えた途端、緊急を知らせる連絡が入った。
それはソルの乗った機体が補給基地のある地上へ墜落したと言う報告だった。
その後。ブラシノス連合が降伏を申し入れて来た。
最後まで前線で残っていた巡洋艦がやられたのだ。これ以上の抵抗は無理だろう。
速やかに補給基地を占拠し、ソルの行方を追った。しばらくしてソルの情報に訂正が入り、墜落ではなく不時着したとの事だった。
施設を管理する連合士官に問いただすと、先程捕まった捕虜は専用の施設に収容していると言う。
施設には捕虜がたった一名しかいなかった。データにアクセスすると、ナンバーと共に氏名が表示される。
ソル・レイ。帝国士官。
急いで収容所へ向かえばそこには先客がいた。
隣室にはモニターがあり、会話もすべて聞き取れる。どうやら連合時代の友人らしい。必死に帰って来いとソルを説得していた。
しかし、ソルは動揺しつつもそれを拒否し。
そうでなくては。流石私のソルだ。
この際、石を置いて行った事は許してやろう。もう、同じことは繰り返させない。
ただ、動揺している点が納得が行かないが──。
アレクは衛兵と共に、ソルが捕らえられた部屋へと入って行った。
こちらを認めた途端、困惑していたソルの表情が明るくなる。対照的に友人の青年の表情は険しくなり、鋭い視線を投げかけて来た。
その手がそっと着ていたジャケットの内側に入るのを認める。ソルからは見えていなかった。
邪魔者は消すべきか。
警護隊員が銃を突きつければソルが止めに入る。
しかし、このままでは──。
隊員に撃たれるだろう。そうなれば命はない。
仕方なく、衛兵が撃つ前に自らの手で撃った。ソルの願いを聞き入れて急所は外す。
ソルの顔面が蒼白となったが、どちらを取るのか問えば迷わず自分を選んだ。
そうでなくては──。
先程、動揺を見せた事は許してやろう。
+++
そして今、旗艦グリューエンに戻ったソルはアレクに手を引かれ、廊下を進んでいる。
あまりに足早に歩くため、続くソルは息切れがしていた。
「アレク…! 手を…!」
行き違う士官たちが目礼しつつも、その様を目で追っている。
「離せばまた逃げ出す。君は全てを置いてここを飛び出していったくらいだからな?」
「逃げない…! だから、手を──」
言い終わるか終わらないうちに、アレクの部屋の前まで来ていた。
中へ入った所でようやく手を離されたが、その強く握られた手をさする間もないまま、いつになく乱暴に顎を取られ上向かされる。
「…勝手な行動を取るな。君の出撃はどんな危機が迫っていようと、私の許可なしにはさせない。もし、今後同じことを繰り返せば、今度は君自身の処分も含め、周囲の者もただでは済まされない。よく覚えて置け」
「分かった…」
言い訳はできなかった。アレクはそのまま続ける。
「それに、──これだ」
アレクは一方の手にいつのまにか例のネックレスを握っていた。青いトップが淡く輝く。
「これは、私が君に与えたものだ。それを私の同意なしに外し、他の者に託すとは──言語道断だな?」
「…でも、それは…俺に何かあったらと思って…。大事なものなんだろう? 失くすことはできない。だからユラナスに渡した」
「大事だからソルに渡した。君以外に渡したいと思わなかったからだ。石の運命は君と共にある。もし無くしてはいけないと思うなら、そういった危険に合わない様に行動には細心の注意を払うことだ」
「アレク…」
石の運命は俺とともに。
その言葉の意味を反芻していると、おもむろにネックレスの留め金を外し、再びそれをソルの首へと回した。
それはブン!と小さな電子音を立てて首の後ろで止まった。それを訝しく思えば。
「これは私がこのトップに触れない限り外れない仕組みになっている。今回の件でそう作り変えた」
「って、そんな、アレク! 本当に何かあったら石ごとなくすことに…!」
するとアレクは腰に腕を回し引き寄せると。
「もう一度言う。この石は君自身だ。無くすつもりはない」
「…っ」
カッと頬が染まる。
それをアレクは満足げに眺めた後、口づけてきた。そっと触れるだけのキスだ。
「…頼む。二度と私のいないところで無茶をしないと誓ってくれ」
アレクが頼むなんて──。
懇願されるのはこれが初めてかもしれない。
そこまでされて、否とは言えなかった。
胸がトクリ、トクリと音を立てだす。
「…分かった」
「いい子だ」
そういうと、アレクの優しいキスがもう一度唇に落とされた。




