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確かに戦況は帝国側に傾いていた。
連合の防衛は後退するばかりで、巡洋艦以外はほとんどが撃ち落とされたか、攻撃により戦闘不能となっていた。
帝国軍──アレクの軍はその最後の砦である巡洋艦へ攻撃を加える。初めは警告の為に。
次には本格的な攻撃へと移る予定だった。
ソルは味方の戦闘不能となった戦闘機を援護しながら帰艦を促していた。
そろそろ潮時か──。
最後の一機を援護しようと後退した所で、救難信号を受け取った。それはザインの機体から送られてきたもので。
ザイン…。ラスター?
最後の一機を艦へ送ると、すぐにその場へ急行する。どうやら、早々に休息を終わらせ出撃したらしい。
飛んだ先にあったのは大きく上部を削られたザインの機体だった。そこは自分たち能力者が収まるはずの場所で。
まさか──。
急いで通信を開く。
「ザイン! 状況は? すぐに牽引する」
救助用にある牽引ビームを作動させ──機体を捕捉し牽引するシステム──状態を確認する。するとすぐに返信が帰ってきた。
『ソルか。お前ひとりか?』
「そうだ。ラスターは無事なのか?」
『ああ。なんとかな。すぐに空いた穴を塞いでこっちに引っ張りこんだ。ただ、状態はあまり芳しくない…』
「わかった。このまま旗艦まで護衛する」
『頼んだ…』
すでにザインの機体は飛行不可能となっていた。
敵の攻撃によって出来た穴を応急処置で閉じたものの、中の空気を維持しているのがやっとだろう。ここからならそう旗艦も遠くはない。
それまで敵機に見つからなければいいけれど…。
ソルはそれを願いつつ、ザインの機体を牽引して艦へと向かった。
「ザインは? 怪我をしていないのか?」
『打ち身くらいだ。敵の不意打ちを食らってな。あれは…まるで俺たちの攻撃と同じだった。荒くはあったが…』
いやな報告だと思った。敵にも同じように行動できるものがいるとすれば、厄介だ。勝てたとしてもそれは僅かな差だろう。
今ここでは会いたくないな。
ザインたちが自力で飛べない今、狙われればひとたまりもない。
こうして明らかに負傷している敵に対して更に攻撃を加えることはまずないと思うが。それも相手の出方次第だ。
できるだけ敵機のいない場所を感知し飛行していれば。
「?」
ふと、誰かに呼ばれた気がして気を逸らした瞬間。突然、目の前に敵機が躍り出た。
ケイパー…?!
覚えのある感覚。はっとして、手を止めたその瞬間、相手のレーザーが尾翼を掠める。
このままだと。
「ザイン! 燃料は? 予備エンジンはまだ使えるか?」
『ああ。酸素の維持を考えなきゃ、なんとか。しかし──』
「この座標で飛べばあと少しで帰還できる。艦には連絡を入れた。酸素が切れる前に迎えが来るはずだ。敵は俺がひきつける。そのまま飛んでくれ!」
『ソル! 無茶をするな! お前の機体は専用じゃないだろう? 対抗できない!』
「ザイン。俺はこれ以上、ラスターに嫌われたくない。言われた通りにしてくれ。──以上だ」
それで一方的に通信を切る。既に艦からも迎えに来ると通信が入っていた。
これで大丈夫だ。後はケイパーだ。
ソルは敵機に意識を飛ばす。
確かに乗っている機体はごく普通の戦闘機だが、攻撃に特化したそれは機敏に動き扱いやすかった。
なんとしても、ザインたちをやらせるわけにはいかない。しかし、ケイパーはザインよりこちらを標的にしたようで、執拗に狙ってくる。
好都合だ…!
操縦桿を握り直し、機体を宙に舞わせる。
ケイパーの攻撃を先に感知し避け、なるべくザインの機体から離れた。ケイパーも追ってくる。
まるで元々の狙いがソル自身の様だった。
なるべく離れようとしているうちに、補給基地のある惑星が近くなっていた。
あまり近づくと星の引力にひかれてしまう。エンジンを逆噴射させそこから離れようとした瞬間、
ソル──。
確かに呼ばれた。
はっとした瞬間、右翼を撃ち抜かれる。それで飛行能力を失った。
爆発こそしなかったが、平衡を保てず大きく右側に傾き、旋回しだしす。
くそ…っ!
なんとか安定させようと苦慮しているうちに、機体はそのまま補給基地のある惑星へと引かれていった。
上手く大気圏に入らないと、途中で爆発する…!
大気への侵入角度を保てるかが不安だった。それでも歯を食いしばり、操縦桿を握るとなんとか手動で角度を保つ。脳裏にアレクの顔が浮かんだ。
ああ…。皆、こうして最後の時、大切な誰かを思って宇宙の塵となっていったのだな。
そう思った。
その覚悟がソルにはまだできてはいない。
急すぎるっ。俺はまだ、あなたといたいんだ…!
機体が激しく揺れ出す。惑星の大気に機体が摩擦を起こしだしたのだ。
侵入に失敗すれば、傷ついた翼に引火してしまう。そうなれば、二度と生きてアレクには会えないだろう。
あのネックレス。返しておいて良かったな…。
ふっと頬に浮かんだ笑みに、余裕があることを知って少し驚いた。
結局、俺はアレクが好きで。
ただそれだけなのだと思った。




