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カーマン・ライン  作者: マン太
第3章 仲間

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32/82

6


 その後、着換え終えたソルはアレクの部屋を訪れた。

 ソルが着ているのはごく普通のクルーが着用する制服。戦闘スーツ以外、決まった制服はない。まだ正式に帝国軍には迎えられていないのだ。あえて言うならつなぎだろうか。

 それを着ても一見して見習い整備士としか目に映らないだろう。パイロットになど見えるはずもない。


「来たか。入れ」


 ドアのロックが外れ自動で開く。ここはアレクの私室で、許可がなければこのドアは開かれない。

 開いた途端、品のある香りが漂ってきた。その香りに肩に入っていた力が抜ける。

 アレクがキッチンに立って、紅茶をカップに移す所だった。


「あ…」


 惑星デアで過ごしていた時も、そんな姿を見た事はなかった。驚いた様子のソルにチラと視線を寄越したあと。


「紅茶くらい淹れられる。そう、驚いた顔をするな」


 その口元は笑んでいた。


「…いえ。その、…いい薫りですね?」


 一歩前へ出るとアレクがソファを差し示す。


「座ってくれ。それと、二人だけの時は敬語は禁止といったはず」


「アレク…」


 以前も注意を受け気をつけていたのだが、どうしても普段、敬語で接している時間が長い。つい口をついて出てしまうのだ。


「もし、今度使ったなら、皆の前でキスするぞ。私は構わないがな?」


「…分かった。気を付ける…」


 冗談と分かっても、そんな事をされたらたまったものではない。

 ソファに座ると、磁器に入った紅茶がテーブルに置かれた。湯気と共に品のある薫りが漂う。アレクに似合う香りだと思った。


「これは私が幼い頃、住んでいた惑星で採れたお茶と同じ種でな。母が好んで飲んでいた。勿論、私も好きだ」


「──ん。いい香り…」


 口に含むとその香りが鼻から抜けていく。品があるが、嫌な薫りではなく。味も良く普段飲みつけないソルでも素直においしいと思えた。

 アレクも紅茶を手に傍らに腰を下ろす。ソファがゆっくりと沈んだ。


「…また、あの頃に戻って、ソルに食事を作って欲しい所だな」


「そんな…。俺の料理なんて、大したことは…。でも部屋にキッチンがあって。あれは嬉しかった。簡単なものなら作れるし」


「ここにもある。ユラナスがうるさいからお前を個室へ移したが…。何か作りたいならここで作るといい」


 確かにここには本格的なキッチンが備え付けられている。遠慮なく作れそうだが。


「俺が作るものなんて、ここで食べたらきっと口にもできないよ…」


 あの時はそれしかなかったからアレクも受け付けたのだと、今は思う。

 ここで出される料理はきちんと栄養士に管理され料理人が作ったプロの味で。その辺の高級レストランなどでは太刀打ちできないほどだ。


「私は、ソルが作ったものが食べたいんだ」


「アレク。そんなものを口にしたら、ユラナスが怒り出すよ。『アレク様に何を食べさせているんだ!』って。これ以上、睨まれるのはごめんだ…」


 ユラナスにラスターに。


 探せばもっといるかもしれない。自分を気に食わないと思っている者たちが。

 仕方ないことではあるが、いい気分はしない。出来る事なら、穏便に穏やかに生きたいのだ。


「ユラナスは…。あれは幼い頃から私の側付として育った。あれの親も父の側付きだったんだ。代々仕えている家系でな。私の家はとある事情で滅ぼされたが、奴だけは残った…。私の過去を知る唯一の人物だろう。私の本当の名を覚えているか?」


「覚えてる…」


 アレクシス・フォン・ファーレンハイト。

 忘れるはずもない。ファーレンハイト家は惑星セグンドにあった王家の末裔。もし間違いでなければ。

 アレクは笑むと。


「君に渡してあるあの石。あれは私の家系を示すものだ。…家系については調べたか?」


「その…、少しだけ…」


「ふふ。だろうな? 君がただぼうっと私が迎えに来るのを待っていたとは思えない」


 アレクはソルの頬に手をのばすと白い指先を触れさせた。カップはすでにテーブルに置かれている。


「私の父はクリストフ・フォン・ファーレンハイト。惑星セグンドに追いやられた王家の家系だ。現帝国の皇帝は父の弟。私の父はその弟に滅ぼされ、戦闘で死亡した。母とは既に離婚した後だった。かろうじて生き残った私はユラナスの家を頼って逃げ延びたが、その途中、襲われてな。行方不明になった事にしてある。でないと、叔父がしつこく追ってきてな。叔父は兄である私の父が、王位を狙っていると思い込んでいた。その息子も同列と思っていたのだろう」


「…誰も、生きている事は知らないのか?」


「そうだな。今のところはだが…。ユラナスの父ももういない。これも私を追ってきた帝国の者にやられた。知っているのはユラナス、あとはソル。君だけだ」


「どうして…そんな大事な事を…?」


 自分が漏らすとは思わないのか。アレクは笑うと。


「君が漏らした所で誰も信用しないだろう? それに…、君はそんな事はしない。そんなことをすれば、君は大切なものを失うだけだ」


「……っ」


 見透かされている。

 もし、生きている事が知られれば、再びアレクは皇帝に狙われるのだろう。そうなれば無事では済まされない。帝国がある限り永遠に追われることになる。

 正にソルは大切な者を失う事に成りかねないのだ。

 そんなことをするつもりはさらさらない。

 しかし、と思った。

 ならなぜ、アレクは今、帝国に雇われる身分でいるのか。親の敵の憎い男の元でその役に立つような真似をしているのか。



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