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カーマン・ライン  作者: マン太
第3章 仲間

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28/82

2

 いよいよ、出撃の時刻となった。

 ゲートに置かれた機体の前で待機していると、ザインが声をかけて来る。


「じゃ、よろしくな」


「了解──」


 差し出された頼り甲斐のある、大きなザインの手を握り返そうとすれば、逆に手を掴まれ引き寄せられた。

 気がつけばザインの腕の中だ。


 なに?


 驚くソルの額に素早くキスを落とされる。


「ザイン?!」


「怒るなって。挨拶だろ? ──これくらいでカリカリすんなって」


 そう口にしたザインの視線は、後方でソルたちの出撃を見守っていたアレクに向けられた様だった。

 アレクはユラナスを従え、腕を組みこちらを見つめている。

 ザインはニッと笑むと、素知らぬ顔で二人乗りの機体へと先に乗り込んだ。

 ソルも急いでコックピットに乗り込みながら、ちらとアレクに視線だけ向ける。

 表面上はいつもと変らない。別段、先程のやり取りを怒る風でもないが。


 ザインの言うようなカリカリした様子なんてどこにも──。


 しかし、ソルが向けた視線に気付いたアレクの口元が、不意に引き上げられた。

 何処か艶めいた笑み。

 それは、最中に見せた笑みを思い起こさせ──。

 慌ててコックピットへ乗り込んだ。


 初めて人の熱を身体に感じたあの日。

 ただ抱きしめられるだけでない、体温。熱。息使い。手の触れる感触。汗に、声も。

 いや。声を上げていたのはソルだけだった。アレクも荒い呼吸は確かに漏らしていたが、みっともなく声など上げない。

 それでも、恥ずかしくてなんとか堪えたのだが。

 そんな様子がまたアレクを煽ったようで、笑ってソルを見下ろしてきた。

 挑戦的な、獲物を捕らえた猛禽類のような。例えるならそんな笑みで。

 その後、襲ってきた熱と痛み、それを超える快感。意識を飛ばすほどアレクの熱に翻弄され溺れた。

 初めての経験は正に嵐の様で。ソルは振り飛ばされないよう、必死にアレクの腕に背に捕まるのがやっとだった。


 けど、ほとんど振り飛ばされてたな…。


 思い出しても赤面する記憶だ。

 先程アレクの見せた笑みは、その時の笑みと同じだったのだ。

 ザインのキスなど、とうに及ばない行為を既にしていると言う、余裕から出たものなのだろう。


 ザインもいい加減にしてもらわないと…。


 ザインにちょっかいを出されるたび、アレクとの行為を思い出させられる事になる。

 機体に乗り込むとキャノピーが閉じられた。半球体状に作られたそこは座席に座った途端、全面がスクリーンとなる。

 ザインの乗る前方は通常の戦闘機と同じ作りだが、斜め上方、後部のソルがいる部分は球状になり、後方に大きくなる流線型を描く様に作られていた。

 機体は白。アレクの乗る機体にだけ、白銀で赤のラインが入っている。

 乗り込むと、セットしてある専用のヘッドギアを装着した。

 これでパートナーとの通信も、敵機の発見も容易になる。能力者用に開発されたヘッドギアで、ヘッドレストと対になっていた。

 ただ、安全面は心許ない。もし、敵機に攻撃を受け機体が激しく揺れる様な事があれば、まともに頭部や頸部に衝撃を食らうことになる。

 ある程度は鍛えていても、激しい衝撃に耐えられるものではない。

 敵機を撹乱するためだけに作られた特異な機体。正に能力者専用で。

 重要なのは敵機に発見されないよう機体を接近させ、撃墜するパートナーの援護をする事だった。

 敵機をいち早く発見し、瞬時に移動する。射撃の為の正確な座標取りをし、援護射撃も行った。移動、援護を主とし、攻撃のほとんどはパートナーに任せる。

 言うのは簡単だが、敵が強ければ強いほど、それは困難を極める。発見はできても援護まで手が回らない場合もあるのだ。

 模擬訓練やVRでの訓練では失敗はなかったが、実戦となるとどうなるかは分からない。

 アレクには、敵を発見することだけに専念しろと言われている。


 アレクに恥はかかせられない。


 実力があることはある程度認められてはいたが、実戦での成果はないに等しい。

 なんとしてもザインとの協力を成功させ、力があることを証明したかった。

 それが、自分を推してくれるアレクにせめてもの恩返しだ。

 こんな自分を好いてくれるアレクに、自分は何も返せてはいない、そう思っていた。

 準備完了のゴーサインが出て、ザインが機体を浮かせる。音もなくそれはゲートから宇宙へと跳び立った。


 この浮遊感。


 圧から解放され飛び立つ心地はなににも代えがたいと思う。


『ソル。行くぞ』


 ザインの声にほんの僅か逸らしていた気を元に戻すと、意識を周囲に向ける。

 モニターにはまだ映らない敵機の存在を感じた。


「ザイン、跳ぶ──」


 瞬間、機体が消えるようにそこを後にした。

 相手のモニターに機体が映ったと同時、攻撃するのだ。される側はたまったものではない。

 しかし、いざ敵機と相対した途端、


「っ?!」


 なんだ? これは──。


 相手パイロットの感情がどっとこちらに流れ込んできたのだ。


 恐怖と驚愕。強い敵意と殺意。

 コロセ、コロセと聞こえてくる。


 向けられた感情に、援護しようとした手が止まる。今までの経験ではなかったことだ。

 冷や汗が頬を伝い、身体がすくんだ様になって動かなくなった。

 攻撃がないと見た敵機が反撃に出る。ビーム砲が放たれ機体を狙った。

 ソルの動きがないためザインは自らの手で敵と対峙する。咄嗟に機体を翻し、ビームをやり過ごすと、素早い動きで敵機の後方につき撃墜した。

 難は免れたが、ザインでなければ撃ち落とされていただろう。


『ソル…!』


 強いザインの声に我にかえる。

 気がつけばザインが敵機を撃ち落とした後だった。


『どうした? 何かあったのか?』


「なん…でも、ない…」


 心拍数が上がる。呼吸も落ち着かない。身体は微かに震えていた。

 身体データはザインにも、旗艦にも送られていた。ザインは何か悟ったのか。


『…ソル、無理するな』


「大、丈夫…です」


 震える手を操縦桿に添える。


『わかった…。やるってんなら、敵機の位置情報だけ教えろ』


「了解…」


 頬に伝う汗を手の甲で拭った。


 ここでこれ以上、情けない姿は晒せない。


 ソルは敵を感知する事のみに専念した。



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