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カーマン・ライン  作者: マン太
第2章 流転

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12

 広い宇宙を飛ぶのは、やはり気持ちが良かった。深い闇と星の世界を、何処までも飛んで行きたくなる。

 

 いつか、ただ飛ぶだけの目的で、この宇宙を自由に駆け巡りたい。


 そう思った。


 その傍らにアレクがいてくれたなら、どんなに楽しいだろうか?


 ピピピと小さな電子音がして、敵機が接近したことを告げる。それで現実に引き戻された。今は悠長に宇宙旅行を楽しんでいる場合ではない。

 このままでは程なくして、ザインにロックオンされてしまうだろう。

 しかし、その音が鳴る前から、ソルはザインの存在を感じ取っていた。


 これが特異な能力なのだろうか。


 相手がロックオンしようとした寸前で機体を翻し飛び去る。逃げるだけならザイン相手でも何とか対応出来た。

 ザインは確かにかなりの腕で、一瞬でも隙を見せれば、直ぐにロックをかけられた。その度に警戒音が鳴る。

 その為、始終気を張りめぐらし動きを感覚で捉えた。目を閉じると、余計に感覚が研ぎ澄まされる。


 ああ、──来る。


 そう思ったところへザインの機体が現れた。

 それを避け、兎に角、上下左右に逃げる。

 ザインは分からないが、普通の相手なら相当苛立っている事だろう。

 ザインも負けずにソルの後方へ喰らいつく。ここまで張り付けるのは彼だからだ。アレクが隊で一番の腕と言うのは頷ける。

 かわしたと思っても、次の瞬間には後方にいるのだ。傍から見れば、曲技飛行でも行っているように見えるだろう。

 そうして、追って追われている間に約束の三十分が経ち、ユラナスから終了の連絡が入った。

 ソルはザインに遅れて機体を旗艦に戻す。

 ハッチを開け、ヘルメットを取ると頭を振る。漸く呼吸出来た気がした。緊張で身体が強張っていたのが分かる。


「やるな。小僧。──いや、ソルか。俺はザインでいい」


 機体を降りようと縁に手をかけたところで、ザインが声をかけてきた。


「俺の方こそ…。逃げるのに必死でした…」


「はは。お互い様だな? ──ほら、こっちだ」


「ありがとう…」


 伸ばされた腕に手をかける。

 炎のような刺青の入った太い腕、は頼りがいのあるものだった。

 半ば抱えられる様にして降り立つと同時、大きな手の平がポンと頭に降ってきた。


「全ての動きを読んでいただろう? だが、次は簡単に行くと思うなよ? これでも、ラスター相手に訓練してるからな。お前らの突拍子もない動きには慣れてる」


「思ってません…。俺なんて、そんな──」


「謙遜は良くないな。ソル」


 アレクはこちらに向かってくると、ソルの両肩に手を置き自分の方へ引き寄せた。


「どうだ? ザイン。少しは見直しただろう? …私のソルを」


 その言葉にザインは片眉を上げて見せ。


「ああ。見直しました。…惚れないよう気を付けましょう」


「そうだな。是非、そうしてくれ」


 笑顔で返すザインに、答えるアレクの目つきがどこか厳しい。

 なぜだろうと首を傾げつつ、二人のやり取りを眺めていたソルに。


「そろそろ次の準備を。次はソルが追う番です。十五分間、休憩を入れた後始めます」


 ユラナスが促し、それで会話は終わった。

 アレクはなぜあんな厳しい目をして見せたのか。


 仮にも仲間、部下だと言うのに。


 その後、アレクは何事もなかった様に他の隊員らと会話していた。

 ソルはユラナスの指示で、休憩を取るため少し離れた場所にあるベンチに腰かける。

 そこで水分を補給していると、ゼストスが声をかけてきた。


「君が例のソルだとは。改めてよろしく。ゼストスだ。一応、ここの一番上で整備を担当、管理している」


「こちらこそ──」


 慌てて立ち上がろうとすると、手で制された。


「疲れただろう? 座ったままで」


 仕方なく座ったまま、差し出された手を握り返す。


「あの時は、有難うございました。的確な指示で、俺の思いつきもちゃんと対応してもらって、助かりました」


「いや。君は凄いよ。あの歳であそこまで対応できるなんてね? 操縦士なんてやめてこっちに転向しないか? 本気でアレクにそう進言してもいるんだ。勿体ないよ」


「そう言われると…。俺もパイロットになるのは夢でしたけど、やっぱり飛ぶだけじゃないから…。正直、整備士の方があっているとは思っています…」


「はは。素直だな? パイロットも戦闘以外は暇だしな? ぜひ、こっちも手伝ってもらいたい」


「アレクが許すなら幾らでも…」


「それが難関だなぁ。いや、しかし、君のエンジニアとしての能力も折り紙つきだしな。押せばなんとかなるかもしれない。もう少し粘ってみるよ」


「よろしくお願いします」


 そう言って笑んで見せると、おや、とゼストスは眉を上げて見せ。


「君。笑うといいね? いいアイドルになるよ」


 ゼストスはそう言って笑うと、ソルの肩を叩き、じゃあとそこを後にした。

 冗談を言ったのだろう。

 入れ代わりにアレクが戻ってくる。


「ゼストスと話したか?」


「はい。あの時の人だったとは…。もっと年上の人かと思ってました」


「ここは若く能力のあるものが多い。その分血の気の多いものも、手の早いものも多いが…。ゼストスはいいが、ザインには気をつけろ? あいつは手が早いし、見境もない」


「…え?」


 すると、アレクはああ、と得心して。


「まだそういった類の話はソルには早かったか? しかし、十七才にもなれば好きな相手のひとりくらいいただろう? 連合にいた時は、何もしてこなかったのか?」


 ソルは気まずげに視線を落とすと。


「…それは…。俺には、その──」 


 忘れられない人がいて──、などとは本人を前に口にできない。

 アレクがずっと、心を占めていたのだ。他の誰かがそれに取って代わることはなかった。するとアレクは腕組みし。


「どうにかしたくなるな。君を見ていると…」


「アレク?」


「別に同意があれば、性差や年齢も気にはしない。早めに手をつけておかないと誰かに持っていかれそうだ…」


 アレクの白く細い指が顎を捉えてきた。

 まさか、ここでキスはしないと思うが。ドキリとしてしまう。


「笑って愛想を振りまくのはいいが…。そう言う顔を見せるのは私の前だけにしろ」


「…!」


 白い指先が唇をなぞる。それだけで肩がビクリと震えた。


「そう…言うって、いったい…?」


 すると、アレクはソルの耳元へ唇を寄せ。


「キスする一歩手前の顔だ」


 低く落ち着いた声音が耳朶に響く。

 カアッと頬が熱くなった。アレクは身体を離すと笑い。


「さあ、行ってこい。…ここで待っている」


 手を引き、ベンチから起こしてくれた。


 その後、見事開始数分でザインをロックオンし、訓練時、最短記録を更新した。



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