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カーマン・ライン  作者: マン太
第2章 流転

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23/82

10

 アレクの持つ部隊の主だったものに紹介されたのはその数時間後。感傷に浸る間もない。

 旗艦グリューエンに降り立ち、身支度を整えるのもそこそこ、すぐに隊長らとの顔合わせがあった。


「アレク、俺は別に置いて貰えるなら、整備士見習いでも…」


「私がその能力を認めている。君はパイロットになるべきだ。いや。それ以外に道はない」


 皆の集まる会議室に向かう途中の通路で、歩きながらそう口にする。

 暫くは静かな場所で大人しくしていたい。

 ソルは取り敢えずの身の置き場に、連合にいたときと同じ整備関係の仕事を望んだが、アレクはそれを許さなかった。


「急過ぎると思うだろうが、二年も待った私に取っては長すぎた。君の能力を早く皆に示したい」


 そう言われ返す言葉が無くなる。

 会議室にアレクに続いて入ると、それまで互いに会話していた者たちの視線が、一気にソルへと集中した。

 居並ぶ者たちは通常の軍隊の士官らと違い、随分、雰囲気が砕けている。

 身に着けている制服も正式な帝国軍のものではなく、モスグリーンのつなぎのそれで、かなり着崩され半ば私服に近かった。

 しかし、その眼光は皆鋭く隙がない。弛んだ気配は皆無だった。

 アレクに連れられ皆の前に立ったとき、その圧に耐えきれず、思わず視線をその脚元へと落とす。


「彼はソル・レイ。今年で十七歳になる。私がスカウトしてきた。感応能力を持つ。暫く訓練したのち配属先を決める。慣れるまでは面倒をかけるがよろしく頼む」


 アレクは簡単に皆へ紹介すると、軽く背を押した。挨拶を、とその目が告げている。

 それで漸く心を決め視線をあげると。


「…ソル・レイです。よろしく、お願いします…」


 思った以上にか細い声になってしまう。

 けれど、この状況で委縮するなというのが無理だった。

 それまで辺境の星のしがない修理工場の整備士として、連合では見習い兵として生きてきたソルにとって、この状況は慣れたものではない。 


「また、随分と若いですな」


 中にいた大柄な男が一番先に声を上げた。

 百九十はあるかと思われる長身でガッシリした体躯。肌は幾分浅黒く、髪は濃い茶色で乱雑にかき上げたような髪型だ。


「ザイン。若いからと侮るなよ? あとで模擬飛行を行う。ソル、奴と戦ってみろ。ザインは能力者ではないが、腕は隊一番だ。奴と互角にやれれば皆も認めるだろう」


「けど…」


 ソルは不安げにアレクを見上げるが。


「私たちとの戦闘でも充分その力を示しただろう? 最後に追い詰めたのは私とユラナスだ。私たちが出なければ、こちらの損害はもっと大きなものになっていただろう。そうだろう? ユラナス」


 呼ばれて傍らに控えていたユラナスは軽く頷くと。


「はい。彼の能力は確かに能力者のそれでした。…私と同等でしょう」


 言われてソルはユラナスを見上げる。


 彼も能力者なのか? 


 しかし、話しながらもユラナスは一度たりともこちらを見ようとはしなかった。

 それを受けてアレクは再度皆に目を向けると。


「そう言うことだ。一度、休憩をして、試験飛行を行う。みな、準備しておいてくれ」


「は!」


 皆敬礼し、アレクはソルを伴ってその場を後にする。追従するユラナスに目を向けると。


「ユラナス、彼にスーツを用意しろ。機体は私のものを使わせる」


「…分かりました」


 目礼したユラナスはその場を離れる。何か言いたげにも見えたが、気の所為かも知れない。

 アレクは傍らを歩くソルを見下ろすと。


「とりあえず、部屋が決まるまで私の部屋に。少し休んでそれからテストだ」


「あの…。俺みたいに若いのが部隊に入って大丈夫なんですか? どうみても俺は──」


 浮いている。


 話すうちにアレクの自室前に着いたらしい。入口の横にあるパネルにアレクが手を翳すとドアが開く。


「私が認めたんだ。誰にも有無は言わせない」


 ぴしゃりと言い切ると、中に入った所で立ち止まってこちらに向き直る。背後でドアが閉まった。

 部屋には静かな電子音が響く。

 アレクの後ろには広く取られた開口部があり、透明なガラスの向こうには宇宙が見渡せた。深い闇に星が輝く。


「君自身にもな…」


 アレクは不意に顎を取り上向かせると、こちらが何か言う前に唇にキスを落としてきた。

 突然の行為に声も出ない。


「っ?!」


「…ソル。私は君を手放すつもりはない。君の能力があろうがなかろうが、な?」


 間近で見下ろしてくる青い瞳。頬が勝手に熱くなる。


 キス……された。


 ぽかんと口を開けていると、アレクは面白そうに笑った。


「隙がありすぎるな…。私はただ、君と過ごしたあの時間の続きをしたいだけだ。だから、余計な事は考えず、私の傍にいればいい──」


「…は、…い…」


 ほかに返事のしようがなかった。

 顎を取られたままで、俯くことができず、視線を泳がせる。

 真正面にアレクの顔はきつすぎた。

 アレクは自身の威力を分かっているのかいないのか、薄っすら笑みを浮かべると。


「あの時は随分子どもだと思ったが──。表情が大人になったな? …いい顔をする。もう一度、キスしても?」


「……俺に、選択肢は…ないんでしょう?」


「分かっているじゃないか──」


 そういうと、今度はしっかりと唇を合わせ、大人のそれを仕掛けてきた。


 顎に触れる手も、背に回された腕も、重ねられた唇も──。


 全てが熱くてたまらなかった。


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