8
「攻撃だって? なんだってこんな僻地にっ」
けたたましいサイレンに睡眠を邪魔されたケイパーは、ベッドから忌々しそうに飛び起きた。
素早く身支度を整えようとするが、スーツを裏表に着そうになって慌てて表に返している。
「そんなに慌てるなよ…」
ソルは眠い目を擦りながら、ベッドからのそりと起き上がった。
艦内放送は、帝国の強襲を受けた補給基地の救援に向かうと告げている。
ソルもケイパーにせっつかれつつ整備士の制服を身に着け、ケイパーと共に部屋の外にでた。
「おい! お前はこっちだ!」
整備士の上官が呼ぶ声に急いでそちらに向かおうとすれば、
「ソル! また後で会おうぜ!」
軽く背を叩くとウィンクと共に手を上げて見せた。
その言葉はケイパーなりの、生きて帰ろうという気遣いに他ならない。
ソルは笑むと。
「ああ」
同じく手を上げて応える。
ケイパーは空きが出たため運良くテストパイロットになることができたのだ。
基準を満たしていれば、あとは単に年齢順で決めているらしい。年齢が上がればソルにも順番が来るのだろう。
そのテストパイロットにも、今回の様な非常事態には出撃命令がでた。
そうなれば無事に帰って来られるのかは誰にも分からない。
ただ、ソルのように艦に残っても生き残れるかといえば、それも不確定で。
敵が一番先に狙うのは旗艦だ。下手をすればケイパーより先にあちらへ逝く可能性もある。
どちらにしろ、今出来る事は与えられた任務をこなすのみ。
上官についてポートへ向かう。そこはこれから出撃するもの、帰艦したものとでごった返していた。
「ソル、給油だ! それから機体の破損状況を調べろ。あとは──」
「はいっ──」
上官の指示に答えながら、素早く全ての戦闘機の状態確認をモニターを睨み済ませていく。
だいたいの機体にはエネルギー補給はすんでいたが、予備の機体はまだ足りていなかった。弾薬含め補給しておいた方がいいだろう。
「しかし、急だな…」
上官が眉をしかめそう漏らした。
確かにここ最近、帝国は鳴りをひそめていた。またどこかの基地を狙っているのだろうとは噂されていたが、それがこんな辺境の地とは。
「もしかして…、ここを起点になにか同盟が動くんでしょうか? だからこの補給基地を狙ったとか…」
「ああ? そんな話は聞いてないが…。しかし、上のことは分からんからな。俺たちはこき使われるだけだ。ほら、給油だ。急げ!」
「はい!」
破損して帰艦する機体の修理や安全のための装備を整える。ちらと出撃するケイパーの姿も見えた。
無事であって欲しい。
個人的ではあるが、そう願わずにはいられない。その後、エッドはなぜかケイパーと仲良くなっていた。
関係が何処まで進んだのかは分からないが、まだ子どもだと思っていたエッドは、ケイパーといる時とても大人びた顔をする。
まだ手をだしてはいないだろうけど。
なんせ、エッドは十四歳だ。
聞けばケイパーは元々エッドが気になっていたらしい。それが、ソルを好きだと気付いて、応援する側に回っていたのだとか。
しかし、ソルがふったことでケイパーにもチャンスが訪れた。
「お前、勿体ないなぁ」
とはケイパーの談だったが。
仕方ないだろう。自分自身の案件を処理しない限り先へは進めないのだから。
いっそのこと、アレクがソルのことなどすっかり忘れ、どこぞの令嬢と結婚しましたと発表でもあれば諦めただろう。
けれど、そんな発表などあるはずもなく。
胸元の青い石はすっかりそこに馴染んでいた。何もなければ、僅かだと分かっていてもやはり期待してしまう。
何にしても、このネックレスだけは返さなければ、終わりにはならなかった。
戦闘は長引いた。
もともとこの第十七艦隊は補給が主であり、パイロットもそう多くは搭乗していない。
すでにケイパーが駆り出されている時点で底が見えていたのだが。
「ったく、機体はあるのにパイロットが足りんな…」
整備士のハンスがまだ新品の機体が並ぶ様子に舌打ちする。
彼は元パイロットであったが、大怪我を負ったのと、年齢的なもので整備士として復帰した経歴を持つ老兵士だった。
帰艦する機体はどれも損傷し、中のパイロットもすぐには出撃できる状態ではない。このままでは宝の持ち腐れだった。
ソルは意を決して口を開く。
「あの…。俺、乗れます…」
ソルの申し出に、肩を落としていたハンスは驚いて振り返る。
「ソルが? …いやだが。乗るには乗れるだろうが…。ただ輸送するだけじゃないんだぞ?」
「できます。もうパイロットは底をついてます。出撃させてください」
今度はしっかりとハンスの顔を見る。
「しかし…」
ハンスは迷っている様だった。
と、そこへ新たに帰艦した機体があった。
直ぐに他の整備士が駆け寄り、中を確認すると衛生兵を呼んだ。
見れば額から血を流すケイパーがコックピットに見える。意識がもうろうとしている様で、すぐにコックピットから運び出された。
「ケイパー!」
思わず駆け寄ろうとすれば、その肩をハンスが引き留めた。
「分かった…。行ってこい。だが、命は無駄にするな? お前はまだ若いんだ。ここに残れば生き残れる道もある。だが出撃すれば…」
視線がケイパーへと向けられた。
「大丈夫です。分かっていますから…」
死と隣り合わせだと。
その言葉にハンスは苦笑すると。
「行ってこい。上官には私が伝える」
ソルの操縦の腕は側にいるものには認められていた。ただの輸送でも飛行センスは見ていればわかる。
元はパイロットだったハンスはそれを見抜いていて、やっと十七才になったばかりのまだまだ若いソルに出撃を許可したのだ。
たった一機、出ていったところでどうなるものでもない。
しかし、このまま何も手を打たずにやられるのも癪であり。それならと、有望なソルの背を押したのだった。
ソルは他の整備士が手渡したスーツに素早く着替えると、ヘルメットを抱え機体に乗り込む。
まだ小柄なソルには少し広すぎるコックピット内だが、ギリギリ操縦には支障をきたさない範囲だった。
出撃を許可しながらも、ハンスは表情には苦いものが混じるのを否めなかったが。
「行ってきます!」
元気よく片手を上げて見せたソルに、ハンスは口元を緩め頷いて見せた。
途中、ケイパーの乗ってきた機体の横を通り過ぎる。後方に被弾した様で、尾翼が黒く煤け半分かけていた。
このままやられる訳には行かない。
なんとしても、この大切な人たちが乗る旗艦だけでも守りたいと思った。




