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カーマン・ライン  作者: マン太
第2章 流転

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19/82

6

 命令して二日後、ユラナスの調べでソルの行先が知れた。

 先程、ユラナスからの報告を受けたアレクは、顎に手を当てひとり執務室でそのデータを眺めている。

 連合軍第十七艦隊。

 その旗艦にソルは配属されている。階級はない。ただの見習い兵だ。

 どうやら同じような年代の青少年と共に集められ、訓練及び雑用係として働かされているとのことだった。


 雑用とは…。


 少しは整備にも関われているのかも知れないが、ソルの能力を知るアレクとしては許しがたい扱いだった。


 ソルの価値を何も分かっていない。


 どれ程の能力を秘めているのか、知らないという事は恐ろしい。

 だが、その方が好都合でもある。

 万が一、パイロットとしての能力に気づかれ、利用されることにでもなれば面倒だ。

 このままがいいのだろう。


 しかし、歯痒いな。


 そこにいると分かっているのに迎えに行くことが出来ない。

 アレクはその働きが上部に認められ、新たな指令が下っていた。

 指令はソルの属する艦隊がいる場所から遠く離れた星域の、ブラシノス連合に所属するゲリラ部隊の掃討。直ぐに終わる戦闘ではない。

 確実に自由に動く機会を失いつつあった。

 認められるのはいいが、このままでは更にソルとの距離が開くばかり。


 ソル。待っていろ。必ず迎えに行く──。


 どれ程の時間がかかろうとも。


 アレクは大きく取られた窓の向こうに広がる深淵に目を向けた。



 しかし思いとは裏腹に、その後もソルを迎えに行く機会を逸し。

 いつしか月日は流れ、気がつけば二年近くが経過していた。

 ソルは十七才になり。ケイパーも十九才となって、少年兵から正式な兵士として採用されていた。

 ソルの仕事内容もただの手伝いから、メカニックの仕事へと変ってきている。

 筋がいいと認められ、まだ正式な整備士となっていないのに、それなりに仕事を任せられるようになった。

 ケイパーはそれが気に食わないと、よくふざけて絡んでくる。今も自室に端末を持ち込んで作業をしているソルに、ちょっかいをかけて来ていた。


「お前、じつは中身が親父(おやじ)だろ?」


「…訳が分からないこと言うな」


 ソルはモニターからチラと視線を外して、傍らに立つケイパーを見やる。


「でなきゃ、そんなに知らねぇって。オタクか? 知識ありすぎなんだって」


「別に。これくらい普通だろ?」


 ソルはまたモニターに視線を戻すと不貞腐れてそう返す。


「ったく。お前、女子そっちのけで設計図とにらめっこしてるんだからさ。ったく。ついてけねぇって」


「ケイパーは好きにすればいいだろ? 俺は俺の好きな事をしてるだけだ」


「はぁ~やだやだ。まだ十六才だってのに。君の青春はどこにいったのだね?」


 そう言って、モニターに映る設計図に食い入るように見つめていたソルの頭を叩く。


「やめろよ。頼まれた図面の確認中なんだからな? 戦闘機が飛べなくなっても知らないぞ?」


「おお、それは大変だ! って、俺は晩飯食いにいってくるけど、お前どうすんだ? またここで食うのか?」


「うん。悪いけど、食べ終わったら俺の分もここに持ってきてよ。よろしく」


「へぇへぇ。優秀で可愛い後輩の為に先輩は行ってくるよ。じゃな。あんま、根詰めんなよ?」


「了解…」


 最後のセリフにケイパーの優しさが垣間見える。理由はともあれ結局、心配してくれているのだ。

 自動ドアの向こうへケイパーは消えていった。

 ソルはひとつ息をつくと、一旦モニターから視線を外し、イスに背を伸ばす。ずっと同じ姿勢だったことに気づいた。

 あれから、アレクについて探ってみたが、相変わらず検索システムによる情報以外、出てこない。

 それもそうだろう。個人情報が早々に外部に漏れるはずがなかった。

 システムで得たのは昇進の情報で。

 この二年の間に大尉から中佐へと昇進している。連合との戦闘で武勲をあげたのだろう。

 ここ数年、連合は帝国に押されている。その一端をアレクは担っているのかも知れない。

 現に連合内では、帝国に彗星の如く現れた冴えた容貌を持つ指揮官と、彼に率いられた恐ろしく強い部隊があると噂されていた。

 出会えば最後、生きて帰れないのだと。

 どう考えてもアレクとしか思えない。

 そしてもうひとつ、これはアレクについてではないが、秘密の名、ファーレンハイトから情報を得ることが出来た。


 クリストフ・フォン・ファーレンハイト。


 小さな星ではあったが、過去には貴重な鉱石が採掘された惑星セグンド、そこにあった小国の王の名。

 そして、現皇帝エドガーの兄でもあった人物。

 なぜ、兄であるクリストフが帝位を引き継がなかったのか諸説あるようだが、何処にも記載されているのが病弱であったという点だった。

 年表には王クリストフは死亡とだけあり、詳しい死亡要因は記されていない。

 残された国は惑星ごと帝国軍接収されたとある。その後の家族のことなど表記はなかった。

 ただ親族の欄に、王妃離縁、息子二名とだけある。

 これが、アレクの隠された名と関係があるのかは分からない。


 ただ、フォンが付くのは貴族だけ。


 それは分かっている。早々ある名前ではないのだ。もし、この息子がアレクを指すなら、王家に連なるものと言う事になる。


 秘密だといったのは、このせいなのかも知れないな。


 けれど、それもあてずっぽうで、当人に聞いてみなければ何もわからないのだ。

 それが、ソルが知り得たアレクと関係すると思われる情報だった。


 遠いな──。


 そう思う。あれから二年。

 辺境の惑星の整備士から、連合軍の整備士の端にやっと引っかかった自分と、帝国内で武勲を重ね昇進し、その噂が連合内でも囁かれるアレクと。

 その距離は初めてあった時よりも更に広がっていた。


 俺はテストパイロットにすら、なれていない。


 それでも、時折、操縦を任される時がある。他の艦へ修理後の戦闘機を輸送する時だ。

 幾人かと交代しながら目的の艦へ新品の戦闘機を運び、代わりに修理の必要な機体を預かってくる。

 宇宙に出ると、それだけで気分が高揚した。好きに飛ぶことなど許されないが、それでも嬉しいものは嬉しい。

 ささやかな楽しみだ。

 そんな程度の自分が、アレクとこの宇宙で再び会う事があるのだろうか。

 渡されたままのネックレス。

 それはすっかりソルの胸元に馴染んでしまっているが、本来の持ち主はアレクだ。

 いつになったら返す事が出来るのだろう。それは当分先の気がした。

 

 「ソル、いる? ケイパーに頼まれて持って行けって」


 インターホンが来客を告げる。備え付けのモニターが外に立つ者の名を表示した。エッドだ。


 ケイパーの奴。


 時折、余計な気を回すのだ。

 これもその一つ。エッドが自分に気があるのをずいぶん前から見抜いて、いらぬ気を回してくるのだ。

 ケイパーはソルの事を、若いくせにギラギラしてない変人だとけなすが。


 仕方ない。だって俺には。


「…すまない。エッド、すぐ開ける」


 ロックを解除するとトレイを手にしたエッドが現れた。長い栗色の髪を肩に垂らし、濃い睫毛に縁どられた栗色の瞳でこちらをじっと見つめてくる。

 確かにエッドは可愛い。きっと美人の部類に入るだろう。それは認める。性格だって控えめで、余計な事は言わない。二つ下なのに、まるで大人の様に思えるくらいだ。


「そこに置いておいてくれ。ありがとう」


 ソルはモニターに目を向けたまま、そう告げるが、直ぐ帰ると思ったエッドはそこに立っていた。


「どうしたの?」


「…ううん。そうやって、作業してるの見るの好きなの」


「そう?」


「そう。ソル、楽しそうだから」


「うん。だね。楽しいよ」


 他愛もない会話をする。それで充分だったのか、エッドは部屋を出て行こうとしたが立ち去り際。


「ね。ソル…」


「なに?」


「ソルは…、誰か好きな人っているの?」


 唐突な質問に驚くが、それも頷ける。誰だって好きな相手の事は気になるものだ。

 ソルは正直に答える。


「…いるよ。でも、ここにはいない」


 エッドの息が一瞬、止まった気がした。それからふうっと深く息を吐き出して。


「そう…。教えてくれてありがとう。仕事、無理しないでね?」


 いつものエッドの声だったが、どこか気落ちしているのは否めなかった。

 ドアが閉まると、深いため息をつく。


 だって、エッドが聞くから。


 嘘はつけない。

 ソルの中にはもう、ずいぶん前から一人の人間が独占していて、誰も入る隙がないのだ。いつ会えるかも分からないのに。

 ふと、すっかり胸元に馴染んだそれを取り出す。


 これだけは返さないとな。


 貴重なものであることは確かだった。

 この石は天然鉱石で、高値で取引されているブルーサファイア。その中でも稀なスターサファイア。

 アレクの出自と関係があるかもしれない惑星セグンドで採取されていたものの一つだった。

 子どもの俺にそんな貴重なものを託すなんて、どうかしているんだ。


 今頃、渡したことを後悔しているのでは?とも思ったが。アレクはそういう男ではないと分かっていた。


 どうやって、これを返したらいいんだ?

 あなたの情報さえつかむことができないと言うのに。


 はるか彼方にいるであろう、アレクを思った。



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