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カーマン・ライン  作者: マン太
第2章 流転

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「あの大将、本気だったんだな?」


 工場長は荷物をまとめたソルを見送りがてら滑走路まで出てきていた。

 荷物と言っても端末の他はたいして持ち物はない。着替を含め背負うバックパックにひとつ分位。

 今日の午前中、アレクの隊からここへ迎えが来る手はずになっていた。


「そうですね。俺も初めは信じられなかったんですが…」


 答えるソルの首にはプラチナの鎖がきらりと光っていた。青い石は胸元に収めてある。

 アレクはキスとともにこのネックレスを残していった。あれ以来、忘れたことなど一度たりともない。


 こんな子どもの自分にここまでして来させたい理由があるのか。


 自分の能力がどれほどのものなのか、今のソルにはまったく分からない。けれど、それでアレクがいいと言うなら、かけてみようと思った。

 キスの意味は──余り深くは考えないようにした。

 あんな行為を彼にされれば、誰だって忘れようもない。自分の存在を相手に植え付けさせる為の手段だったのだと思うことにした。

 確かにそれにアレクは成功したのだから。

 あれは彼の気まぐれであって、間違っても好意の現れと誤解してはいけないのだ。


「ああ、来たぞ。あれだろ?」


 上空にきらりと光る機体が見えた。遠目でも戦闘機と分かる。


「確か、輸送船で来ると言ってたはず。戦闘機じゃ──」


 ないはずだった。その機体は編隊を組んでいる。爆撃機の様だ。


 なぜ──?


 そう思ったが、次の瞬間、直ぐに異常を感じ取り、


「伏せて下さいっ!」


 工場長をその場から突き飛ばす様にして、近くの茂みへ身を隠した。

 と、同時、急降下してきた爆撃機が滑走路上を攻撃してきた。

 放たれた銃弾がそこをめちゃくちゃに破壊する。先ほどまで立っていた場所も跡形もなかった。


「攻撃だ! あれは──連合軍…?」


 機体の形と紋章でそれと分かる。ダークグリーンの機体に月桂樹の紋章が白く射抜かれていた。ブラシノス連合の(しるし)だ。

 ここ最近はお互い大人しくなっていたと思ったが、どうしてこの中立地帯を狙ったのか。


「工場長、すぐにシェルターへ!」


「あ、ああ! 分かったっ!」


 工場から少し離れた場所に地下シェルターがある。それは何処の施設にもあるもので、不穏な情勢に備えて準備されてあったものだ。

 けれど、中立地帯とされているこの星を襲うなど今までなかったことだ。一体何があったのか。


「っ!」


 と、激しい銃撃音とともに目の前の地面に土ぼこりが舞い上がった。滑走路をことごとくつぶしている。

 次の瞬間、爆撃機から爆弾が落とされ、工場が一瞬にして炎に包まれた。これでは迎えに来るどころではない。


 なぜいま──。


 今一度耳を劈くような音とともに爆弾が投下された。


+++


「行方が分からないと?」


 旗艦で到着を待っていたアレクの元に届いたのは、連合軍の攻撃により、ソルの行方が掴めないとの報告だった。

 アレクはそれまで座っていた執務室の椅子から立ち上がり、目前に立ち上がる立体スクリーンに目を向ける。


「どうなっている? ユラナス、報告しろ」


 呼ばれて控えていた長身の部下が進み出て口を開いた。


「は。連合軍の一部が離反し、幾つかの中立地帯に指定されている惑星を攻撃しています。連合軍の本部がこれに対抗して軍を派遣している様ですが、まだ止めるまでには至っていないのが現状です」


 話し終えると肩まである白銀の髪を揺らし、同じく灰銀の目を上官であるアレクに向けた。

 彼は幼い頃よりアレクの側付としての役目を担っている男だった。歳はアレクの一つ上になる。

 スクリーンには星域に点在する中立地帯の星のうち、攻撃を受けているものが幾つか点滅していた。

 攻撃している部隊の数、負傷者、対抗している軍のデータなどが逐一表示される。

 それを、黙って眺めていたアレクだったが。


「…私が行く」


 表情は全く変わらないが、そこに苛立ちの念があるのを長年傍らに立つ者は見抜いたらしい。


「なりません。焦る気持ちは分かりますが、また以前の様に行方が分からなくなったらどうします? 今近づくのは危険です。暫くして攻撃が治まってから向かうべきです。この騒ぎでは人ひとり探し出すのも困難を極めます。こんな事であなたを失うわけにはいかないのです」


 ユラナスは譲らない。

 前回、一時でも行方が分からなくなり、残された者たちには大きな不安と動揺を与えた。それを思えば、ユラナスの強い言葉も無視する訳にはいかない。

 アレクはユラナスを一瞥すると。


「…戦闘が終わったらすぐに救出に向かう。それまで待機だ。いつでも出られる準備をしておけ」


「は」


 ユラナスは(こうべ)を垂れ御意の意を示す。


+++


 ユラナスは執務室を出て、細かな指示を伝えるためブリッジへと向かう。


 たったひとりの子どもに、なぜそこまで執着するのか。


 ユラナスには理解出来なかった。

 アレクが一時行方不明となり無事帰還したその後、アレクの首に件のネックレスがなかった。

 それに気付いたのは様々な報告等が済み、一段落した頃。いつも白い首筋に光る銀の鎖が見当たらない。


「アレク様。ネックレスはどうなされました?」


 執務室で二人きりとなった時、ユラナスは尋ねた。

 それは、アレクの父親が息子の瞳の色に合わせ作らせたネックレスだった。

 ついている石はブルーサファイア。

 スターサファイアでもあり、アレクとユラナスの故郷、惑星セグンドで採れたその天然石は、今では採掘される事はなく貴重なものだった。

 トップのプラチナの台には、アレクの出自についての情報がデータ化され埋め込まれている。

 それを知るのは、側付のユラナスのみ。それがなかった。


「あれは証に預けてきた」


「…例の少年に、ですか?」


「そうだ。名をソルという。彼は本物だ。あの石そのものだろう」


 そう語るアレクの口元には、ユラナスの避難めいた口調をもろともせず、嬉しそうな笑みが浮かんでいる。

 それはここ最近、目にしたことのない笑みだった。


 ソル・レイ。あの試作の機体を直したのも彼の知識と能力によるものが大きかったとか。


 一緒に作業した設計士、整備士達も、その能力には驚いたと言う。帰ってきた機体を見て、更に彼への期待度が増したとか。


 しかし、信じられない。


 こんな辺境の惑星の、うらぶれた修理工場に、そんな奇跡のような存在がいるだろうか? 

 アレクが間違えるはずはないが、しかし容易に信用はできなかった。

 それでもアレクの指示には従わねばならない。彼の指令は絶対であり。

 ユラナスは機関室に着くと、旗艦を連合軍に見つからないよう準惑星の陰に隠すように指示し、いつでも退避できる位置でそのソルがいると言う惑星を監視させたた。


+++


 連合軍の攻撃とは。


 ついていない。


 アレクは執務室の隣にある私室に戻り、制服の襟元を緩め、ソファに身を投げ出す。

 今すぐにでも迎えに行きたかった。危険など承知の上だ。このまま彼を失うようなことになれば、その方が後悔するだろう。


 どうか無事でいて欲しい。


 歯噛みする思いだった。


 私も能力者なら良かったのにな…。


 そうすれば、その存在を感じる取ることができたのかも知れない。

 そこまで考えて、我に返り自分自身を嗤う。


 どうかしている──。

 

 子どもじみた思考だ。

 そんなふうに考えるのも、平常心ではないせいかも知れない。


 必ず迎えに行く。──ソル。待っていろ。


 アレクはソルを思い、自室にあるスクリーンに広がる星屑を見つめた。



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