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愛されたいと願っていましたが、新しい婚約者からの溺愛は想定外です。  作者: 四折 柊


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小話2.ティバルトのイタズラ

 オディリアは応接室で大きなテーブルの上の並べた可愛らしい数種類の焼き菓子を真剣に睨んでいる。

 少し口を尖らせて考え込んでいる様子は愛らしい。

 ウルリカにお茶会の招待状を送っていたからその時に出すお菓子を選んでいるのだろう。彼女はかなりの量を食べるそうで、ウルリカを満足させることを使命と思っているようだ。


 オディリアは自分では気づいていないようだが考えごとに集中すると自分の世界に入り込んで周りの様子に注意を払えなくなる。今だってティバルトがノックして部屋に入ってきたことにまだ気づいていない。本人はしっかりしているつもりでもこういう姿を見ると心配になりつい閉じ込めたくなる。オディリアは嫌がっていないが息苦しい思いをさせたくないので束縛し過ぎないようほどほどを心掛けている。


 しばらく部屋の入り口でオディリアを眺めていたが一向にティバルトに気付かない。これはこれで悲しい。なのでティバルトはイタズラをすることにした。


 そっとオディリアの隣に座る。まだ気づかない……。

 ゆっくりと彼女の顔を覗き込みそのまま尖らせた唇に触れるだけの口付けをした。オディリアは一瞬ビクンとしてティバルトに焦点を合わせると目を真ん丸にした。


「えっ!!!!!!!」


「オディリア。さっきから私が部屋にいるのにまったく気づいてくれなかったね? 私は悲しいよ」


 ワザとらしく肩を落として項垂れてみる。

 オディリアは顔を赤くしながらもティバルトに謝ろうとしているようだ。恥ずかしさが勝ったようでうまい言葉が出てこなくてあわあわしている。その姿も可愛い。ティバルトは心でにやけながらその様子をしっかりと観察し目に焼き付けていた。


「ご、ごめんなさい。でも、いきなり口付けはいくらなんでも!」


「いや駄目だ。反省を要求する」


 イタズラは続行中である。

 オディリアはどうすればいいのだと困った様に眉を下げティバルトを見る。どんな表情をしてもオディリアは可愛いな。


「何をすればいいの?」


「オディリアからしてほしい」


 ティバルトはそのまま目を閉じた。口付けの要求である。えっえっと焦っている声が聞こえるが、素知らぬ顔でそのまま待機する。しばらくじっとしているとティバルトの唇にちゅっと触れる感触がした。

 随分と可愛らしい口付けに物足りなさを感じつつも初心な反応が愛おしい。目を開くと目の前でオディリアが真っ赤になって頬を抑えている。瑠璃色の瞳が潤んで何とも言えない。この顔は誰にも見せたくない。


「これで許してくれる?」


 ティバルトは紳士の微笑みを浮かべ頷いたが、心の中では抱きしめてもっと深い口付けを交わしたいと思っていた。

 まあ、それはいつでもできる。だから今はオディリアの恥ずかしがる姿をたっぷりと堪能することにしよう。


 ああ、私の婚約者は可愛過ぎる……。




 

お読みくださりありがとうございました。

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