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愛されたいと願っていましたが、新しい婚約者からの溺愛は想定外です。  作者: 四折 柊


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24.不快な忠告

 オディリアは朝からマリーたちに念入りに磨かれ綺麗に着飾っていた。深紅の上品なドレスにルビーのイヤリングとネックレス、ティバルトの婚約者を強調する仕上がりにやり過ぎなのではと悩むも、ティバルトは満足そうに頷いているので大丈夫そうだ。


「リアは大人っぽくて綺麗。女神様って感じだわ」


「リーナは妖精みたいで可愛らしいわ」


 イデリーナは淡い緑色のドレスにエメラルドのイヤリングとネックレスだ。これも分かりやすく王太子殿下の瞳の色らしい。春の妖精が舞い降りたようだ。

 今夜は王宮での夜会がある。オディリアは初めてティバルトの婚約者として同伴する。国王陛下、王妃陛下、王太子殿下にも挨拶をするので今から緊張している。


「みんな優しい方々だから緊張しなくても大丈夫よ。リアに会えるのを楽しみにしていらっしゃるわ。アルに早く紹介しろって言われているのよ。お兄様が好きになった女性に会いたいって!」


 イデリーナはおどけてリラックスさせてくれようとしている。少し肩の力が抜けた。


「オディリア。行こうか」


「はい」


 ティバルトの正装はいつもの何倍も凛々しくて目が離せない。髪を後ろに撫で付け形のいい額が出ていると何とも言えない色気が滲み出る。スタイルも良く彼より素敵な男性はいないに違いないとオディリアは本気で思っている。自分が彼の隣にいていいのか心配になるくらい素敵な人だ。

 ティバルトは迷いなくオディリアの手を取りスマートなエスコートで馬車に乗り込む。ブリューム公爵家の立派な馬車に隣り合わせで座るとティバルトがそっとオディリアの手を握る。オディリアの不安をくみ取ってくれているのだろう。大きな手の温かさが王宮へ向かう不安を溶かしていく。


 王宮に到着して会場へ向かえば、人々の熱気やざわめきが入り口まで漏れてくる。

 ディック様とカロリーナ様は別の馬車で来ているのですでに会場に入っている。その馬車に乗っていたイデリーナは従者先導で王太子殿下の待つ控室へ向かったそうだ。


 ティバルトと二人会場に入ろうと歩みを進めるうちに顔が強張ってきた。するとティバルトが足を止めてオディリアと向かい合わせに立った。そして大きな手がオディリアの頬にそっと触れる。自分を守ってくれる大きな手だ。


「オディリア、私が側にいるから」


 その手に自分の手を重ね一旦、目を閉じた。ウィルダ王国にいる時はこんな風に寄り添ってくれる人は一人もいなかった。そのことを思い出せば何も恐れる事はないはずだ。再び目を開くとティバルトにありがとうの気持ちを込めて微笑んだ。もう大丈夫。


「行きましょう。ティバルト様」


 力強く一歩を踏み出す。ティバルトのエスコートでいよいよ会場に入った。

 ざわめきが一瞬止まり、静寂が広がる。そして多くの視線が自分たちに降り注ぐ。それは珍しいものを見るものであったり品定めをするものだったり好奇の視線だ。オディリアは心で気合を入れ背筋を伸ばし淑女の仮面をつけた。

 ティバルトの足を引っ張るような失敗は出来ない。それ以上に誰から見ても相応しいと認められたいという気持ちもあった。豪華な会場を堂々と歩く。最初に国王陛下に挨拶に行くことになっている。先に着いたディック様とカロリーナ様が話をしていた。


 陛下の前にティバルトとオディリア二人で正式な礼をすれば頭上から声がかかる。


「顔を上げよ」


 一段高い位置でこちらを見下ろす陛下は壮年の男性で王の風格と威厳を感じさせる。隣では王妃様が柔らかい笑みを浮かべていた。


「ティバルト。ようやくお眼鏡にかなった女性を見つけたな。二人の幸せを祝おう」


「ありがとうございます」


「オディリア。おめでとう。これからはアルフォンスとイデリーナを支えてあげてね」


「ありがとうございます。私のできる限りの力でお二人をお支えしたく存じます」


 両陛下の挨拶が済むとティバルトがオディリアを少し離れたテーブルへ誘う。そこでは王太子であるアルフォンスとイデリーナが若い貴族と談笑をしていた。ティバルトを見るなり破顔する。


「ティバルト、待ちかねたぞ」


 エメラルドの瞳は好奇心を滲ませオディリアに視線を向ける。イデリーナから聞いて想像していたが、優しい笑顔が王妃様に似ていて穏やかそうな雰囲気を感じた。


「私は愛する女性を見せびらかすより仕舞っておきたいんですよ。殿下、婚約者のオディリアです」


「よろしく、オディリア。リーナからよく話を聞かされているから初対面に感じないな」


 ティバルトの紹介の言葉に頬を染そめたオディリアに、アルフォンスは気さくに声をかけてくれた。


「王太子殿下。初めてお目にかかります。オディリアと申します。どうぞよろしくお願いします」


「これからもイデリーナと仲良くしてやって欲しい」


 そう言うと殿下はイデリーナに笑顔を向ける。愛おしいと思っていることを隠しもしない眼差しをイデリーナは頬を染めて受け止める。


「もちろんでございます」


「アル。私の言った通りオディリアは素敵な女性でしょう?」


 イデリーナはどこか誇らしげだ。オディリアをそう思ってくれていることが嬉しい。


「確かに美人だが、私にとってはリーナが一番素敵な女性だよ?」


 意外とイデリーナは照れたりせずありがとうと笑って返す。アルフォンスの隣にいるイデリーナはいつもより堂々として魅力的な女性に見える。これが愛の力かしら。自分もティバルトの隣でそんな風に見える女性になりたいと思った。今度四人でお茶会をする約束をしてその場を離れた。


 そして厳かな空気になると改めて国王陛下が集まった貴族たちに夜会の開始の挨拶をした。

 音楽が鳴りまずはアルフォンスとイデリーナがファーストダンスを踊り出す。元気のいいステップがイデリーナらしく微笑ましい。二人が踊り終わると、パートナーを持つ人々がホールに入る。ティバルトもオディリアの手を取り中央に進み向かい合う。


「ティバルト様。ここでは目立ちすぎませんか?」


「もちろん目立つとも。私の婚約者を仕舞って置けないのなら、私のものだと見せびらかそうと思っているのさ」


 ティバルトの独占欲を表す言葉に耳が赤くなる。ティバルトはオディリアの反応に気を良くしたように口角を上げると曲に合わせ踊り始めた。ティバルトとのダンスは何度か練習していたが踊りやすい。腰を支える手は力強く安心感をもたらしリードも巧みだ。大好きな紅い瞳を見つめながらステップを踏む。くるりと回ればドレスがふわりと翻り、その瞬間は自分がまるで薔薇の妖精にでもなった気分だ。楽しくて夢中になっているとティバルトが顔を寄せ耳元で囁く。


「あなたが綺麗すぎて周りの男どもが見惚れている。見せびらかしたいと思っていたがあなたに向けられる熱い視線には腹が立つな」


 オディリアは目を丸くした後くすくすと笑った。そして思いつくまま言い返す。


「それなら私だって同じ気持ちです。周りの令嬢はティバルト様にうっとりと見惚れていますよ。だから……よそ見しないで下さいね」


「私の目にはあなたしか映っていないよ」


 ティバルトは楽しそうにオディリアの腰を引き寄せステップを踏む。そのまま2曲目、3曲目を続けて踊ればさすがに疲れが足に来る。ティバルトは調子に乗ってしまったと苦笑いしながら椅子のある場所まで連れて行ってくれた。


「何か飲み物を持ってこよう。ここで待っていてくれ」


 こんなに楽しい疲れなら大歓迎だ。一息つきながら椅子に座りティバルトの後姿を見れば、途中で男性に話しかけられている。ティバルトと会話をしたいと思っている貴族は多いだろう。すぐには戻れないかも知れないとぼんやりと眺めていた。


「こんばんは。オディリア様」


 呼ばれた方を見れば可愛らしいピンクのドレスを着た令嬢が笑顔を向けている。既視感を覚えるもきちんとした社交は今日が初めてなので、会ったことがあるとすれば子供の頃だ。


「こんばんは」


「お久ぶりです、と言っても覚えていないかもしれませんね。イデリーナ様もご一緒に出席した子供の頃のお茶会で何度か顔を合わせています。改めまして私はファーナー伯爵家が娘ソフィーと申します。この度はティバルト様とのご婚約おめでとうございます」


 記憶を手繰ればうっすらと思い出す。子供の頃もあまり話したことがないので印象が弱いのだろう。貴族名鑑は覚えきったと思っていたが曖昧なところもあると気づいた。帰ったら確認しなくては。


「ソフィー様。ありがとうございます」


 ソフィーはオディリアに顔を寄せ内緒話をするような小さな声で話し出した。


「オディリア様。私から忠告をひとつ。ウルリカ様には気を付けてください。アメルン侯爵家のご令嬢です。昔オディリア様に恥をかかされたと恨んでいますわ。王太子殿下の婚約者の座も逃して殿下以外ではもっとも高位のティバルト様まで奪われたのですもの。気位の高いウルリカ様はきっとオディリア様に危害を加えるに違いありません。私に何かできる事があれば何でも相談してください。私はオディリア様の味方ですわ」


 一方的に言い終えるとソフィーは会釈をして足早にその場を去った。ティバルトがこちらに向かってきていることに気付いたのだろう。オディリアは眉根を寄せた。忠告は有難いがやましいことがないのならティバルトの目を盗んで話しかける必要はない。堂々とすればいいのにと不信感を抱いた。ソフィーはあの頃ウルリカの取り巻きをしていたような気がする。ウルリカが王太子殿下の婚約者になれなかったからと態度を変えたのだろうか。貴族であれば友人関係に利害が絡むのは仕方ないが、ソフィーの態度と言葉は不誠実だと感じた。


「オディリア、遅くなってすまない」


 手には果実水を持っている。お礼を伝えそれを受け取り一口飲んだ。さっきまでの不快感がすっと流されていく。


「大丈夫です。ティバルト様こそ社交は大丈夫なのですか? 私に付きっ切りで支障があるのでは」


「今日はオディリアと一緒にいると決めているから問題ないよ。それより今、ファーナー伯爵令嬢と話をしていた?」


「はい。それで……彼女のことで帰ったら話を聞いてもらえますか?」


 もう一人で悩んだりしない。ティバルトに相談すると決めたのだ。オディリアの返事にティバルトは嬉しそうに微笑んだ。


「ああ、もちろんだ。必要な挨拶はもう済んでいるから父上に断りを入れて今日は早めに帰ろう」


 ティバルトの行動は早かった。必要な辞去の挨拶を済ませると帰宅のために二人馬車に乗り込んだ。



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