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愛されたいと願っていましたが、新しい婚約者からの溺愛は想定外です。  作者: 四折 柊


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22.一目惚れ

 束の間眠っていたようだ。ティバルトがうっすらと目を開くとオディリアが目を閉じている。

 彼女も眠ってしまったようだ。オディリアを起こさないように気を付けながらそっと体を起こす。時計を見れば一刻ほど経っていた。それ程長く膝枕をさせるつもりではなかったのだが、彼女の細い手が頭を撫でる気持ち良さについ寝入ってしまった。きっと足が痺れているだろうに起こさずにいてくれた。伏せられた瞳を覆う長い睫毛はいつも瑠璃色の瞳を際立たせている。今は閉じられているが初めて会った時にその瞳の美しさにティバルトは心を奪われた。


 ティバルトがオディリアとの婚約を両親に申し出たのは彼女の境遇に同情したからだ。オディリアがブリューム公爵邸で過ごしていた時ティバルトは留学中で一度も顔を合わせることはなかった。彼女の人となりは帰国してから毎日のようにイデリーナから聞かされ知っていた。しっかり者で勉強に励み頑張り屋な、顔も知らない少女に好感を抱きまるでもう一人の妹のように思っていた。


 イデリーナ宛の手紙を読んで純粋に助けたいと思った。イデリーナが幸せに過ごしているようにオディリアも幸せになる権利があるはずだ。両親もオディリアを大事にしている。皆が彼女を助ける為なら何でもしようと考えていたが彼女を呼び寄せる理由に苦慮していた。適当な理由ではオディリアをシュミット侯爵家からは引き離せない。彼女の能力は利用価値が高い。手放すことを惜しみすぐに帰国を求められるだろう。


 それならばティバルトの婚約者として招けばいい。ティバルトは今までの女運の悪さに女性に対して期待や淡い想いを抱くことが出来なかった。家族が大事にするオディリアならばもし愛情を抱くことが出来なくても互いに尊重し合い穏やかな家庭を築けるような気がした。ティバルトの申し出に両親はすぐさま王宮に押しかけ国王陛下にウィルダ王国へ親書を送るように迫った。どちらの王家にも勅命を出さざるを得ない弱みならブリューム公爵家はいくらでも持っている。速やかに手続きは行われた。


 オディリアがウィルダ王国を出国した知らせを聞くなりイデリーナは迎えに行くようティバルトに頼み込んできた。苦笑いをしながらもせっかく縁あって婚約者になったのだからとティバルトは王都の検問所まで迎えに行った。


 ウィルダ王家の馬車から姿を現したオディリアにティバルトは目が釘付けになった。

 背筋が伸び歩く動作も品がありたおやかだ。瑠璃色の髪は簡単に結われているが飾らなくてもキラキラと輝いている。顔は整っていて誰が見ても美人だと見惚れるだろう。だがティバルトが最も惹かれたのは大きな瑠璃色の瞳だった。青く澄んだ美しい湖面のようで吸い込まれそうになり息を呑む。今まで女性に心を奪われたことはなかった。気づけばそのままお互いに見つめ合っていた。


 我に返り名を名乗り挨拶を交わす。オディリアの声は愛らしく耳に心地よい。ティバルトの中には彼女が欲しいと強烈な想いが湧き上がる。その想いのまま衝動的にオディリアの手を取りゆっくりと見せつけるように指先に口付けた。初対面でこれはマナー違反かと頭の中をよぎったが体が自然に動いてしまった。それほど気分が高揚していた。


 オディリアの顔は真っ赤に染まった。なんて可愛いのだろう。慣れていなさそうなことが嬉しい。その考えを自覚した時、自分自身の感情に驚いた。これは独占欲だ。彼女を誰にも渡したくないという強い気持ちに一目惚れをしたことに気付く。


 馬車の中のオディリアは緊張しているようだったが、ティバルトに嫌悪感を抱いたようには見えない。どちらかと言えば意識してもらえている気がする。

 王都の整えられた道を上等な馬車で進んでいるので揺れが少ない。規則正しい振動に疲れていたオディリアは目を閉じて舟をこぎ始めた。

 小さな頭が前方にカクンと落ちて、目を覚ましてはまた目を閉じる。きっとティバルトの手前、起きていようと必死に頑張っているのだろう。その姿が微笑ましくて見とれてしまった。それも暫くするとすうすうと小さな寝息が聞こえてきた。対面の位置から彼女の隣にそっと移動してその頭を自分の肩にもたれさせた。眠る姿は幼く見え一層愛おしさが込み上げる。


 ブリューム公爵邸に着いてもオディリアは眠ったままだった。

 ウィルダ王国では心を許せる存在がいない上に窮地に立たされていたのだ。そして長旅をしてきたのだから疲労も濃いはずだ。馬車が到着すると両親とイデリーナが出迎えた。


「お帰りなさい。お兄様。あら、オディリアは?」


 ティバルトは顔を出すと人差し指を口元に当て静かにするよう合図をする。そして静かに彼女を抱き上げ馬車を降りる。華奢で体重を感じさせない細い体をこの世の全ての困難から守ってやりたい。


「まあ、オディリアは眠ってしまったのね。ティバルト、オディリアを部屋で休ませてあげて」


「そうだな。カロリーナ、歓迎は明日にしよう」


「リア、とても疲れていたのね。でも顔を見ることが出来てよかった~。これからはずっとここにいるのね。お兄様と結婚するのならば本当の姉妹になれるわ。嬉しい」


 イデリーナはオディリアの顔を見てはしゃいでいる。

 ティバルトは一見冷静に見えるだろう。しかしその心はとても浮き立っている。穏やかなオディリアの寝顔にこれからの日々が楽しみで無意識に表情が緩んだ。




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