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17.デート

 落ち着いた雰囲気のレストランでティバルトと昼食に来ている。案内された個室は広く真っ白なテーブルクロスの上には注文した品が置かれた。


「ここは私の行きつけの店だ。素朴な料理だがうまい。さあ、食べて」


「はい。楽しみです」


 オディリアはカトラリーを取り目の前にある魚の香草焼きを切り分け口に入れた。白身の魚にハーブがよく効いている。風味豊かに美味しくなっている。


「とても美味しいです。お魚も新鮮ですがハーブの香りがすごく活かされています。ハーブ自体の素材がいいのでしょうね。どこの領地で採れる物なのかしら?」


「国内でハーブと言えばアメルン侯爵領のものが飛びぬけて品質がいいな。多分これもアメルン産だろう。オディリアの口に合ってよかった」


 ティバルトも口に入れ満足げだ。


「ああ、うまいな」


 ティバルトは優雅な所作であっという間に食べ終え、追加で頼んでいた肉の皿に手をつける。彼は見かけによらず大食いでその食べっぷりはいつ見ても気持ちがいい。

 

 食事の後はブリューム公爵家がよく使う宝飾店に向かった。店主の案内で奥の部屋に入ればすでに机にアクセサリーがいくつか準備されていた。ティバルトと一緒に眺めるが、明らかに高価そうで値段を確かめる勇気はない。ティバルトがオディリアにプレゼントをしたいと見に来たがもう少し気軽につけられる値段のものを出してもらえないだろうかと聞いてみた。


「オディリアに似合いそうなものだとこのくらいのランクになる。それに安物をつけさせては私のメンツに関わるからここから選ぶつもりだ。だが普段使いの物があってもいいかもしれないな」


 店主は目の前の物よりランクを下げた商品も並べてくれた。オディリアの発言は却って余計な買い物を増やしてしまうことになったような……。

 机にはルビーにルベライト、スピネル……ティバルトの髪と瞳を表す赤い宝石が並んでいる。彼の独占欲を示すようでくすぐったい気持ちになる。

 大ぶりのネックレスとイヤリングが揃いのデザインになっているものある。シュミット侯爵家にいる時はこれほどの物を購入したことがなくて自分では似合うか判断がつかないのでティバルトに見立てて貰うことにした。一つずつ順番につけて見せると、ティバルトは真剣な眼差しで思案する。


 男性は女性の買い物を面倒に思うと勝手な思い込みがあったがティバルトは進んで選んでくれている。大事にされていると感じられ浮かれてしまう。ティバルトはルビーとスピネルからそれぞれネックレスとイヤリングを見繕う。後から出してもらった品物の中にオディリアは気になるブレスレットを見つけた。色の濃い苺水晶のブレスレットだ。ルビーのような鮮烈な輝きはないが石の中の粒子が可愛らしい。店主に断り腕に嵌めて眺めてみた。


「オディリアらしいけどこちらのルビーの指輪はどう? 石が大きくて映えるよ」


 ティバルトが勧めたのは一際輝きを放つ大きな石の指輪だった。


「その指輪も素敵ですがこのブレスレットが可愛くて気に入りました。毎日つけられるものが一つ欲しいのです」


 すでに高価な買い物を決めてしまった後に追加で強請るのは図々しいと思ったがこのブレスレットに一目惚れをしてしまった。それにティバルトから贈られたものをずっとつけていたい。


「オディリアは欲がないな。両方欲しいと強請ってくれてもいいのに」


「こんなにたくさん、もう充分です。ありがとうございます。ティバルト様」


 ティバルトは苦笑いしながらブレスレットも買ってくれた。帰りの馬車の中でのティバルトの発言にオディリアはたじろぐ。


「オディリア。さっき購入した宝飾品は間に合わせのものだ。今後夜会などに多く出席するためには到底足りない。これくらいで贅沢だなんて思わないでくれ。オディリアはいずれ公爵夫人となる。その地位に相応しいものを纏うことに慣れて欲しい」


 そうだ。いくらオディリアが充分だと感じていても、ブリューム公爵家に恥をかかせるような装飾は許されない。


「はい。でもしばらくはティバルト様が見立てて下さいますか?」


 自分で高価な物を買う勇気はまだないので慣れるまではティバルトに一緒に選んでほしい。


「もちろんだ。私のお姫さま」


「お願いします」


 その後ろに心の中で「私の王子さま」と付け足したが声に出す勇気はまだない。いつか言えるよう精進しますと思いながら微笑んだ。


 夜、ベッドサイドの花瓶の横に苺水晶のブレスレットケースを置いた。腕につけてかざしてじっと眺める。やっぱり可愛い。明日からずっと着けていよう。


 そういえば昼食の時にハーブの産地を聞いたら嫌な顔をせずにティバルトは答えてくれた。オディリアにとっては癖のように食材などの気になったことを質問してしまう。リカードはその話をするといつも不愉快そうだった。ティバルトとリカードを比べても仕方ないが自分を否定されないことに安心する。


 初めて会ったときは深紅の髪も紅玉の瞳も激しい炎のように感じたが、一緒に過ごし彼の優しさに触れるたびに、彼の存在はオディリアを照らし包み込んでくれるお日様のように思えてきた。ディック様に抱いた印象がティバルトに重なると二人は親子なんだなあと微笑ましく感じた。




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