2人目の思い出{side:アスタリシア}(少女と母後)
【アスタリシア】
大きな川の流れる平和な街で生まれた私は、母様にアスタリシアと名付けられた。貴族階級は持たない平民だが、家族揃って暮らせる家もあり、幸せな暮らしだった。私が4歳になった時に双子の弟と妹が出来た。イスタートとリテルシア。イースとリティと呼んでいた。忙しい両親に変わってお姉ちゃんとして2人を可愛がった。
弟と妹が出来、2年程たったある夜、友の家に遊びに行っていて帰り道に大きく綺麗な満月が出ていた。月明かりで外が見えるくらいに大きな。
いつも明かりが着いていて「おかえり」と迎えてくれる家族がいる家に帰り着いた。普段と様子が違う事に気がついた。玄関を開けると少し暗くてよく見えないが、“何か”落ちていた。開けた玄関かは月明かりが入り込み、うっすらと見える。
血を流し目を開いたままの母様。その腕に抱かれて血を流す、愛しのイースとリティ。おかしい、今朝会った時はあんなに笑っていたのに。なにが……と思い、涙がこぼれながら、近寄ろうとする。よく見ると奥に出ている足は父様に見えた。
家の中から知らない人が出てきて、血のついた刀を持っていた。「誰か知らんが見られたなら殺せ」と近づいてくる。
怖くなり、走って逃げた。
友達の中で1番早い、鬼ごっこで負けたことなんてなかったアスタリシアだったが、後ろから足を撃たれ走れなくなって橋の上で追いつかれてしまった。
逃げ場を失い、橋から飛び降りた。綺麗な満月がこちらを見ていた。今気がついたが、追って来ていたうちの一人は見たことがあった。家にも遊びに来たことのあった父の同僚。家族が殺された夜、満月が見ていた。そのまま川に落ち気を失った。
気がついた時、初めに見えたのは青白い髪をした綺麗な女性。「気が付きましたか。御気分はいかがですか?」と聞いてきた。服装も見たことない、どこかの部族だろうか。疑問になっていると彼女は色々話してくれた。彼女は、族長の娘、ヴィアであること。ここは霧の都であること。川に流れてた私を助けてくれたこと。
それからしばらくして、怪我が治る頃にはここにいていいと言ってくれた。帰る場所が無くなったのなら、ここにいればいいと。
ヴィアは優しいし、ここにいていいと言ってくれたのも嬉しかったが、ひとつだけ心配な事があった。ここは私の街では霧の魔女が住むと呼ばれている所だった。霧の魔女、それは死者すらも操る術をもつ魔女の一族で見つかったら呪われてしまう、という伝承。古くから伝わるその伝承は街の人みんなが知っていた。
その話をすると彼女は笑っていた。元々、霧の都に住む一族は霧猫の一族といい、青白い髪と、左右非対称の瞳を持つという特徴と共に、猫を飼うという習慣があった。猫といっても人と変わらない程大きな猫。
外見が珍しいため人狩りにあっていた霧猫の一族は姿を隠す為に、霧の出やすいこの場所に住み着いた。そして霧と猫がここを守ってくれるようになったことと、山と共に暮らすに連れて並外れた薬学を身につけたことが重なり魔女と呼ばれるようになったのだと、教えてくれた。
ここに住むことが決めた時に欲しいものをくれると言ってくれたから、私は大切なものを守れる力が欲しいといった。狩人であるヴィアの父に紹介してくれた。キツい訓練ではあったけど、その分強くなれた。
ヴィアと会えて1年くらい経ったころ、ヴィアが怪我をした白い髪の少女を拾った。私にしてくれたように怪我の手当をして世話をしているのを手伝った。少女はネアルと名乗った。
ネアルは見た目からして、アルビノ。珍しい姿をしていた。少女ネアルとヴィアと3人で暮らし始めた。1年くらいと短かったが、とても幸せな日々だった。
ヴィアが婚約し、チェーロ家へと入った。領主の妻となり、貴族になったヴィアの専属メイドとなれた私たちは、ヴィア様と呼ぶようになった。裏切り者の処理することを仕事とし、チェーロ家に貢献した。
それから直ぐに、ヴィア様のお腹に子が宿った。元々体が弱かったのに、妊娠という負担が重なり体調を崩しやすくなった。出産耐えられるか分からないくらいにギリギリだったのだが、無事、元気に産まれてきてくれた。
ヴィア様はその生まれてきた赤子にリテルシアと名付けた。偶然、妹の名前と同じ名前だったのだ。リティと呼びたい思いを押し殺し、姫様と呼ぶことにした。
姫様が大きくなるにつれて、ヴィア様はどんどん弱くなっていった。
ヴィア様も綺麗な満月の夜に亡くなられた。大事なものが無くなる時は満月が見ていた。満月が、満月が私を見ている……。