2人の秘密
ティファニーは少し考え、小さな声で答えた。
「わたしは、行けるのであれば学校に行きたいですわ。できれば賢者の塔に入って、魔法の勉強をしたいです。もちろん、もっと大人になってからの話ですけど・・・。もっといろいろなことを勉強すれば、きっとこの荘園も豊かになって、みんなの生活も楽になって・・・、きっとみんな、帰ってきてくれると思いますの・・・」
その言葉には、強い決意が込められているような気がした。
賢者の塔というのは、魔法を研究する為の学校のようなところだ。
当然、普通の平民が簡単に入れるような場所ではない。
エストの手が一瞬だけ止まるが、すぐにティファニーの愛しい髪を梳きはじめた。
「そう・・・。ティファニーは偉いわね」
ティファニーは慌てて取り繕う。
「も、もちろん無理だってわかってますのよ?騎士の娘とはいえ、賢者の塔に入れるなんて思ってはいませんわ」
学校に入るには莫大なお金がかかる。ましてや賢者の塔ともなると、なおさらだ。
学問に憧れる者は多数いるが、その門を叩けるのはほんの一握りなのだ。
エストは髪を梳き終え、仕上げにティファニーの頭を数度撫でる。そしてブラシを傍らに置くと、後ろから彼女に深く抱き着いた。
二人の頬が触れる。
「ティファニー、わたしたちの秘密を一つ増やすわ。もしあなたが大人になって、その時にまだ今と同じ気持ちでいるのなら・・・、今と同じことをもう一度わたしに言って?そうしたら、あなたの夢を叶えてあげる・・・」
そういうと、エストはティファニーの頬に軽くキスをした。
ティファニーは、エストの言葉の意味が理解できなかった。
言うまでもなくそんなことは、不可能だからだ。しかし、エストは今まで一度たりとも嘘をついたことは無かった。
「さあ、お掃除をしなきゃ。手伝ってくれる?」
ティファニーは不意を突かれてハッとする。
「は、はい!お姉さま!」
エストの後を追うティファニーの姿は、実の姉妹となんら変わらなかった。