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アレックスとティファニー  作者: そんたく
剣を与えられた日
5/29

春の夜

 そして夜が更け、家族はそれぞれの床へつく。


「お父様、お母様、おやすみなさい」

「おやすみ、アレックス、ティファニー」


 マリアは2人をそっと抱きしめ、ほほに軽くキスをする。

 アレックスとティファニーは、同じ部屋で寝ていた。

 飾りなど全くない木の枠組みに、びっしりと敷き詰められた寝藁にかけられたシーツ。

 今日はマリアが干したのだろうか、それからは太陽の匂いがした。


 窓からは星の明かりが降り注ぐ。

 ガラスの代わりに填められる、牛の角を薄くなめした格子は、冬が開けると同時に外されていた。

 川のせせらぎと草原を走る風が作り出す波の音。それがアレックスの心を乱すことはもうないが、眠りに落ちる邪魔をする。


「ティファニー・・・、もう寝たかい?」


 アレックスは見慣れた天井に目を向け、隣のベットに横たわる妹に声をかけた。

 5秒ほど兄の問いに答えるか迷うが、先ほどの様子が少し気にかかる。

 ティファニーはごそりと兄の方に向き直った。


「・・・どうなさいましたの?お兄さま」


 アレックスは返事があったことにほっとすると同時に、起こしてしまったのではと、小さく罪悪感に責められる。


「お父様は・・・、なんでこんな田舎の荘園の守護をしているんだろう・・・。お父様は国内一の騎士、お城に仕えれば、もっといい暮らしもできるのに・・・」

「・・・お兄さまはこの荘園がお嫌いですの?」

「そんなことは決して無いけど・・・」


 シーツがすれ、ティファニーが寝返りを打つ音が聞こえた。


「先ほどお兄さまが帰ってくる前に、お父さまが近衛に誘われたと言ってましたわ。本当かどうかわかりませんけど・・・」


 アレックスは布団から飛び上がるように、体を起こした。


「近衛騎士に!?」


 静かな家に、アレックスの声が大きく響く。

 近衛騎士とは、アレックスの中で最も栄誉のある仕事だ。

 国王に仕え、常に身辺を警護する近衛兵を率いる騎士のことを指す。

 最上位の位を持つ騎士の一つで、近衛騎士に就任すれば一代にかぎるが、爵位を与えられることになる。

 つまり、父が貴族の仲間入りをすることになるのだ。


 アレックスは興奮した。

 決して今の生活が嫌いではない。それは嘘ではないが、近衛騎士になれば王都での生活が待っている。

 それよりも、父がそれに選ばれるという名誉がなにより嬉しかった。


 そんなアレックスの興奮を感じてか、ティファニーは冷たく言い放つ。


「お父さまがそんな申し出をお受けになるはずありませんわ」


 興奮に水を差されたアレックスは、妹に憤慨する。

 しかし自重し、妹だけに聞こえるように小さく怒鳴った。


「なんでだよ!こんな田舎の守護なんかよりずっと名誉な仕事じゃないか!お父様が断るはずが無い!」


 興奮極まり、ベッドから飛び降りる。


「当然ですわ。だってお父さまはエミーナ様の騎士ですもの」


 アレックスは妹の言葉が理解できず、あっけに取られる。

 名誉を重んじる父に、近衛騎士以上の名誉は無いはずだ。


「ティファニーは反対なのかい?王都に行けば、お前だって魔術の勉強ができるかもしれないんだぞ?」


 ティファニーは面倒くさそうに伸びを一つすると、兄の頬にお休みのキスをした。


「もう寝て下さいませ、お兄さま。明日の仕事に差し支えますわ・・・」


 そうして布団に深く潜ると、小さな寝息を立てはじまる。

 アレックスは苛立ちのまま、自分のベッドを蹴りつける。

 「みしっ」と何処かにひびが入るような音がするが、ただそれだけだった。


「くそっ!」


 そう言いながらもどうすることも出来ず、ベッドに潜り込む。


(そんなはずは無い!お父様は近衛の誘いを受けるはずだ!)


 しかし、頭の中を様々な思いが駆け巡る。

 やがて日中の疲れが彼を支配し、眠気が意識を混濁させる。

 まもなくしていつも通り、深い眠りについていた。

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