雪舞の花と英雄の墓
この日、アレックスとティファニーは、スコップを担いで森の洞穴へ向かっていた。
荘園襲撃の真相は解明されていないが、襲撃者はエミーナとエストを狙い、2人がいる荘園を探して襲撃を繰り返していたらしい。
バッツも含め誰も知らなかったが、エミーナは国王の異母妹であり、そして侍女として仕えていたエストは、エミーナの実の子供だという。
エミーナとエスト、そして既に他界したオレスト男爵は王位に関わることを嫌い、正体を隠して荘園に隠れ住んでいた。
隣国で始まった戦火が飛び火して今回の事件の発端となったらしいが、その詳細はいずれ誰かが解き明かすだろう。
しかし、アレックスとティファニーにとって、エストはエストだ。
彼女とエミーナが無事であれば、それ以上望むものはない。
しかしアレックスは、騎士としてエストを一生護っていくのも悪くないと思った。
「エミーナ様、やっぱり荘園を引き払ってしまうみたいですわ・・・」
「仕方がないよ。こうなってしまったら王の下に身を寄せた方が安全だし」
「お兄さまはいいですわ。ずっと王都に行きたいっておっしゃってたもの」
ティファニーは頬を膨らます。
確かにかつて彼はそれを望んでいた。しかし、今となってはそれは重要ではないと思っている。
獣道を抜け、森を分け入り、2人は思い出の洞穴にたどり着く。
そこには未だ打ち捨てられた3体のゴブリンの死体があり、腐敗したそれは辺りに異臭を放っていた。
アレックス達は黙々と地面を掘り、ゴブリンの家族を埋葬する。
そして、あの時アレックスの命を狙った鉈を拾い上げ、彼等が埋葬された墓に墓標として突き立てた。
アレックスが思うに、あのゴブリンと自分はきっと同じだったのだろう。
彼等は臆病さを押し殺し、武器を取って敵と戦ったのだ。
ゴブリンが護ろうとしたあの暗く狭い洞穴は、バッツやマリアにとっての荘園と変わらないものだったのだろう。バッツがなぜあの小さな荘園に居続けるのか、アレックスは理解できた気がする。
2人は手を組み、亡くなった魂がせめて安らかであることを祈った。
ティファニーは思い出に刻むように、あたりをぐるりと見回す。かつて多くの友と別れたこの場所を、自分が去る番が来たのだ。
おそらくこの場所を訪れることは、2度とないだろう。
「さあ、お兄さま!みんなの元へ帰りますわ!」
ティファニーはアレックスの手を取ると、その場所を後にした。
彼の腰には、誇らしげに一振りの剣が佇んでいた。
数日後、アレックス達家族も荘園を離れ、ここに人の影を見ることは無くなる。
主を失った荘園は急速に姿を変え、畑は荒れ、家は朽ち、小さな水車もいずれその動きを止める。
小さな英雄譚を作ったこの場所も、人々の記憶から消えていくだろう。
しかし、人がいなくても春が来れば、この場所には一本の雪舞の花が美しく咲き誇り、そして森に入れば小さな英雄の墓が、永遠にそこにあり続けるだろう。
~Fin~
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