月の光と星の光
アレックスは手でティファニーとエストに合図を送りながら、台所から広間を覗く。
そこには全身に血を浴び、肩で大きく息をするマリアの姿があったが、敵らしき影は見えなかった。
彼女はアレックスの気配に気が付くと、返り血で汚れた顔に似つかわしくない優しい笑顔を浮かべた。
「ティファニー、エスト、もう大丈夫だよ」
アレックスは背後で身を寄せ合う2人に声をかけた。
今になって、体が恐怖で震えはじめる。
「お兄さま!!」
「アレックス!」
そんなアレックスにお構いなく、2人はアレックスに抱き着いた。
「ほら、汚れるよ・・・」
2人の目から大粒の涙が留まる事無く流れ続ける。
ティファニーは何度も「お兄さま!」と叫び、声を上げて何時までも泣いた。
アレックスはティファニーの頭を優しく撫で、エストに問いかける。
「怪我は無かったかい?」
エストの瞳に、アレックスは本物の騎士のように頼もしく映る。
指先で涙を拭うと、笑顔を作って見せた。
「ええ、怪我なんてするわけないわ。だって、騎士様が護ってくれたんだから・・・」
アレックスはエストの笑顔に顔を赤らめ、「そっか・・・」と言って、顔をそらす。
「けどアレックス、あれ程気を付けてって言ったでしょ?」
アレックスは意味が解らずエストに顔を向ける。
エストは返り血と灰で汚れたアレックスの頬を手で拭った。
「『薪の灰を、溢さないでね』って」
「あれは僕じゃなくってティファニーが・・・」
エストはアレックスの言葉を遮ると、彼に抱きつき唇を重ねる。
三人は、お互いの命の重さを確かめるように、長く長く抱擁を続けた。
マリアが外へ出ると、砕かれたテラスの外で荘園を眺めるバッツがいた。
「すまない、マリア。こんな時に家を空けて・・・」
バッツは真っ直ぐにマリアを見つめた。
マリアはにっこりと笑い、何事もなかったかのように答える。
「貴方の代わりはアレックスが立派に果たしてくれました。それに、わたしはあなたが来てくれると信じていましたから」
バッツは供の騎兵を3名連れ、突如荘園へ現れた。
荘園が次々と襲撃されているという噂を聞くと、部下を連れて城を飛び出し、休まずここへ駆けつけたのである。
「王の命令を受けず、勝手に城を出てきた。騎士の銘は剥奪されるかもしれん」
マリアは小さく笑った。
「そんなの些細なことです・・・」
そして2人は、白い花びらが舞い散る月夜のテラスで、長い口づけを交わした。




