決着
(どうしてこのゴブリンは逃げ出さないんだ!?)
ティファニーも同じことを考える。
肩の傷により鉈を逆の手に持ち替え、切り裂かれた頬の傷からの出血は夥しい。
こんな満身創痍になりながらも向かってくるゴブリンなどいるのだろうか。
考える間もなく、ゴブリンの連撃が始まった。
利き腕を負傷しているためだろうか、太刀筋は決して鋭くなく、それを避けることは容易だった。
しかし、一撃毎に手が震え、握力が無くなっていくのを感じる。
やがて力任せに切り上げたゴブリンの鉈を受け止めた時、「キン!」と乾いた音を立ててアレックスの剣が弾かれ、ゴブリンのはるか後方の地面に突き立った。
同時にゴブリンの鉈も、その中ほどで真っ二つに砕けた。
アレックスは震える手で、背中のナイフを抜き取った。
「ティファニー!逃げろ!」
既に彼の心は疲れ果て、次のゴブリンの攻撃を凌げる自信を失っていた。
とっさに背後に控えるはずの妹へ声をかける。
ゴブリンは鉈が折れたことに動揺したのか、数歩下がって間合いを開ける。そして、折れた鉈を見つめてしばし何かを考えると、それをその場に投げ捨てた。
次の瞬間、ゴブリンはアレックスに向かって一気に駆け出し、彼のおよそ2リール手前から咆哮をあげて跳躍する。
アレックスは既に恐怖に取りつかれ、体力、精神共に限界だった。
咆哮に竦みあがったアレックスは、ついにその場に腰から倒れ、目を閉じてがむしゃらにナイフを突き出す。
(お父様!)
アレックスの形の無い祈りが通じたのか、彼に死が訪れることは無かった。
手に伝わる不快な感触と重さに目を開けると、そこにあったのはまさにアレックスの喉元に食らいつかんとするゴブリンの牙だった。
「うわああぁぁああ!!」
迫る牙を両手で抑える。
その瞬間、ゴブリンの口から大量の血液が吐き出され、アレックスの体に浴びせられた。
「あああああああ!!」
恐怖の声をあげるアレックス。
そして張り詰めた糸が切れた瞬間、アレックスの意識は薄れていった。
ティファニーはその一部始終を、ただ見守ることしか出来なかった。
途中、何度も魔法を唱えようと試みるが、混乱する意識と目まぐるしく変わる状況の変化が、それをさしてくれなかった。
そして彼女は最後の瞬間を見る。
アレックスが後ろ向きに倒れた後、とっさに突き出した短剣に、ゴブリンは自ら飛び込んでいった。
そして短剣は深々と胸に突き刺さり、やがてゴブリンは吐血しながら絶命した。
ティファニーはふらふらと歩き、洞穴の元にたどり着く。
中に目を向けると、2体のゴブリンの亡骸が横たわっていた。そしてその内の1体は、まさに生まれたてといわんばかりの大きさだった。
ティファニーの目から、大粒の涙が零れ落ちる。
いったい、なにをどうすればよかったのだろうか。
「・・・・・・ファニー、・・・・・・アレックスー」
遠くから2人を呼ぶ声がする。
彼女は返事をすることも出来ずに泣き続けた。




