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アレックスとティファニー  作者: そんたく
偽りの英雄譚

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12/29

小さな森

 それからティファニーは仕事に戻るが、作業が手につかなかった。

 狭い農園なため、少し見回せばアレックスが目に入る。


(お兄さまは絶対にいきますわ・・・)


 確かにティファニーにとって、あそこは特別な場所だった。

 かつてこの荘園に暮らし、そして出ていった友人たちに、心の中で再開できる場所でもあった。

 いずれアレックスも、従士としてここを離れるだろう。

 エストもいつまでこの荘園に居るかわからない。そうすれば、ティファニーは一人になってしまう。

 彼女はこの荘園を心から愛しており、ここを出ていく理由が無かった。

 一つあるとすれば、それは賢者の塔へ入ることだが、それは夢物語のような話しである。

 苛立ち交じりに生い茂る雑草を引き抜いた。


 アレックスは昼食の前後、欠かさず剣の稽古をする。

 おそらく今日の稽古は昼食後で、稽古のメニューは「ゴブリン退治」のはず。


(お兄さまを一人で行かせるくらいなら・・・)


 彼女は小さな胸に決心を宿した。


 やがて昼食の時間を迎える。

 今日はマリアがいないので、ティファニーと揃ってエミーナ邸で食事を取ることになる。

 いつものようにエストとティファニーで台所を占拠すれば、アレックスは所在無さ気に剣を手に取るのだが、今日はその気配が無い。


(思った通りですわ・・・)


 彼は台所の隅で、燃え尽きて灰や炭になった薪を肥料にするために、粉々に砕き始めた。


「灰を溢さないように気を付けてね」


 くすくす笑いながらエストが注意を促す。

 彼は過去に2度ほど箱の中の灰を撒き散らし、台所を真っ黒にしたことがある。

 アレックスが自ら好んでやる仕事ではない。

 ティファニーは確信した。

 

 食事を終えたアレックスは、稽古に出ると言い残して裏口から外へ出ていった。

 ティファニーはすぐに後を追い、兄を捕まえたのは武具が収められている部屋の中だ。


「お兄さま、危ないことは駄目ですわ!お母さまに言いつけます!」


 ティファニーは部屋の入口に大の字に立ちふさがり、兄をキッと睨みつける。


「大丈夫だよ!お父様はきっと理解してくれるさ!」


 そんなはずはないと、彼女はため息をつく。もちろん兄も、そんなはずはないことは解っていた。


「どうしても行くとおっしゃるなら、わたしもついて行きますわ」


 アレックスはティファニーの意外な提案に「えっ?」と小さく声をあげる。

 妹の強かさをよく理解している兄は、何を企んでいるのかと警戒をした。


「お兄さま一人では危なっかしくてたまりませんわ・・・」

「べ、別に一人で大丈夫だよ。ゴブリンなんて大した妖魔じゃないんだから」


 ゴブリンが弱い妖魔だとしても、当然危険はある。

 そんなところへ妹を連れて行く訳にはいかない。


「一人で行くならお姉さまに言いつけます。見つかったら絶対に連れ戻されますわよ?」


 噂ではエストは中々の魔法の使い手と聞く。

 そして、彼女を怒らせた時の怖さを、アレックスは身をもって知っていた。


 アレックスとティファニーは結局、2人連れ立って森の中に入った。

 彼は剣だけを携え、慣れない胸部鎧は置いていつも稽古の時につけている革の鎧を纏った。

 なれない装備で剣をうまく扱える自信が無かったのと、革の鎧でも十分な防御は期待ができ、さらに装備の軽さというのは十分なメリットだ。


 森の中は鬱蒼とした木々が生い茂り、森の上を走る風がザワザワと木の葉を撫でる音を響かせる。

 アレックスは薪を集めるためによくこの場所を訪れており、実際5日ほど前にも今歩いている獣道を通ったばかりだ。

 見慣れた森、見慣れた場所のはずなのに、今日はなぜか不気味に映る。

 森の主に、恐怖を掘り起こす魔法をかけられたみたいだ。

 普段と違う様子を見止めたティファニーが茶々を入れる。


「お兄さま、怖いんだったら帰った方がよろしいのではないですか?」


 アレックスはキッと振り向き声を荒げる。


「怖いわけないだろ!僕は騎士バッツの息子だ!」

「・・・知ってますわ。だってあなたはわたしの兄ですもの」


 ティファニーはそう言ってから、さらに兄を焚き付けてしまったと後悔した。

 常に一言多いと父母にいわれて自覚もしているのだが、なかなか治らないものである。


 目的の洞窟は森に入って四半刻(30分)程の場所にあった。

 道程の内、半分は獣道で、その後は森に分け入っていく必要がある。

 やがてその、森の深部へ入る分岐点へとたどり着いた。


「よし・・・、行くか・・・」


 アレックスの緊張が、ティファニーにも伝わってくる。

 彼は腰の後ろから、刃渡りが30シール(センチ)程の短剣を取り出し、木に矢印を彫り付けた。

 これは帰るときの道標の意味と、万一2人に何かがあった時、救助に来た者に見つけて貰うための合図である。


「ティファニー、ここで待ってていいんだぞ?」


 当然ティファニーはついて行く。しかし、的外れとはいえ妹を案じる兄の心遣いは嬉しかった。

 ティファニーはアレックスの腕に手を回し、笑顔で答えた。


「お供しますわ、騎士様。ちゃんとわたしを護ってくださいね。それに・・・」


 ぐるりと辺りを見回す。


「こんな所に置いて行かれては、たまったものではありませんわ」


 タイミングよく、何か大きな鳥の鳴き声が「ギャアギャア」と辺りに響く。

 2人は顔を見合わせ、思わず声を上げて笑った。

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