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アレックスとティファニー  作者: そんたく
偽りの英雄譚

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11/29

子供たちの選択

 エミーナは一同を見渡すと、視線にアレックスを捉えると、口を開いた。


「アレックス・・・」


 アレックスは呼ばれたことを、心臓が飛び出しそうになるほど驚いた。

 心の中で「きたっ!!」と思いながら、大きな声で返事をする。


「は・・・、はいっ!!」


 突然の大きな返事に、ざわざわと話し合っていた農夫たちは一斉に静まり、アレックスに視線を向けた。


「マリアが戻ってくるのはどれくらいになるのかしら?」


 てっきりゴブリン退治の依頼が自分に来ると思い込んでいたアレックスは、「えっ・・・?」と小さく答えて言葉を失う。

 隣のティファニーが、ため息交じりに代わりに答えた。


「お母さまは日が沈む頃に帰るとおっしゃってましたわ」

「そう・・・」


 ティファニーとエミーナのやり取りを聞いて、自分の勘違いに気が付いたアレックスは、カーッっと顔が赤くなっていく。

 じっとりとアレックスをにらむティファニーの視線は、「変なことを考えないで下さいませ!」と、釘を刺しているようだ。


 エミーナ達はしばらくして話を締めくくる。


「今日は森に入らないことと、日が落ちた後はしっかりと戸締りをして出歩かないようにしてください。家畜は手分けして室内に入れるように。ゴブリンは人間にとって強い脅威ではありませんが、刺激をすれば何がおきるかわかりません。あとはマリアと相談して対処します」


 農夫たちはぞろぞろと解散し、それぞれの持ち場へと散っていった。


「アレックス」


 エミーナに呼び止められる。


「今日マリアが帰ったら、屋敷まで来るように伝えてちょうだい。夕食もうちで食べるといいわ」


 そうマリアに伝言を託すと、エストを連れ立って屋敷の中へ入っていった。

 2人の姿を、アレックスはじっと眺め続ける。


「お兄さま!何を考えているのか言ってごらんなさい!」


 ティファニーが傍らで腕組みをしながら、丸い顔をパンパンに膨らませてアレックスを睨む。

 その視線は「なんでもお見通し」と言わんばかりにアレックスに据えられ、決して逸らそうとはしなかった。


「べ、別に何も考えてないよ・・・」


 視線を逸らしたのはアレックスの方だ。


「嘘ですわ。お兄さまが考えること、わたし全てわかりますもの」


 アレックスは額から汗を流しすが、横目でエミーナ達の気配が完全に消えていることを確認するとティファニーに詰め寄った。


「ティファニーはいいのか?あの洞穴は僕たちの場所だぞ?」


 確かにそこは、2人の兄妹にとって思い出がいっぱい詰まった場所だった。

 3人の中で一番年が若い彼女は、あの場所に対する執着は強い。


「明日になればお母さまが取り返してくださいますわ」


 アレックスは、がっしりとティファニーの肩を掴む。


「大人達に取り返されたら、今度こそ埋められちゃうぞ!」


 実際、今まで何度も洞穴を埋めようという意見は出ていたが、その度に兄妹がそれを阻止してきたのだ。

 時にはエストも交えて洞穴に立てこもり、大人たちと戦ったこともある。


「それはそうですけど・・・」

「大丈夫だよ!僕が取り返せば、もう洞穴を埋めるなんて言わせない!」


 ティファニーはアレックスを見上げた。

 もちろんそれは全て、アレックスがゴブリン退治に出かけたいための方便だとはわかっている。

 このまま放っておいても、きっと兄は黙って1人で洞穴へ向かってしまうのではないだろうか?


「ゴブリンなんて、ちょっと脅かせば逃げていくさ!それに、僕にはもう剣と鎧がある。戦っても負けないさ!」


 ティファニーは昨夜の兄の姿を思い出した。

 あの時の兄は確かに力が満ち溢れているように見えたし、父の話を信じれば兄の剣術はなかなかの域に達しているということだ。

 それに、ティファニーにもゴブリンに対する知識も、対抗できる魔法もある。

 昼間のゴブリンは動きも活発ではなく、戦わずに追い出すということはできるのではないだろうか?


「アレックス!ティファニー!いったい何の悪だくみをしているの!?」


 2人は驚かされた猫の如く、その場に飛び上がった。

 いつまでも立ち去らない2人を見て、不審に思ったエストが様子を見に来たのだ。


「な、ななな、なんでもないよ!」

「そ、そうですわ!何でもありませんわ、お姉さま!」


 口々に釈明する2人を見てエストは目を細めた。

 あからさまに怪しいが、エストは「ふう」と一息つくと、両手を腰に当てて言った。


「だったら早く仕事に行きなさい!マリア様がいないからって、さぼっていると後で言いつけるわよ!」


 2人は顔を見合わせると、脱兎の如くその場を離れた。


「まったくあの2人は・・・」


 エストは2人の悪戯に、度々煮え湯を飲まされていた。

 もっとも、もう少しさかのぼれば、エミーナがエストを含む3人の悪戯に悩まされていたのだが。


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