ケーキ
たまに、昭和のアイドルのライブ映像を動画サイトで検索することがある。
無断転載という言葉に後ろ髪を引かれながらも僕は投稿主に感謝している。
普段は見ないが、動画の概要欄を何気なしに開く。
「投稿者である兄は自殺しました。
僕はその弟です。」
僕は、上手く言えないのだが、数秒間その文章から目が離せなかった。
アイドルのライブ映像では大勢のファンが(ほとんどは男性だった)、
様々な表情で彼女たちを見守り、熱い声援を送る。
名前も顔も知らない彼はこの動画を載せたときは死とどれくらい近い距離にいたのだろう。
僕はいてもたってもいられなくなって、立ち上がってダウンを着て、家の鍵を取る。
◇
深夜のコンビニ限定の、お笑い芸人のラジオが流れている。僕と無愛想な店員以外、誰もいないコンビニに乾いた笑い声が響く。
レジ横にある、値引きシールの貼られた、苺のケーキが目に入る。
僕はハイライトとその苺のケーキを買う。
◇
僕はまた家の中にいて、口の中でパサつくあまり美味しくないケーキを食べながら、
ピンクと青と緑の衣装を身に纏った踊る三人の女の子を観ている。